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剋生の孔雀  作者: 氷炎
新しい世界 定めた目標

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Ep.15 駆け出し ― まだ弱い二人

 


 しばらくのあいだ、二人のあいだに言葉はなかった。


 黙って歩いているだけなのに、同じところへ少し気持ちが沈んでいるのがわかる。だからエーテルは、その空気を切るように声を出した。


「あー、やめやめ。せっかくのリリース日に、こんな空気は面白くない」


「うん! そうだ。レベル上げするにしても、どこでする~?」


「うーん、どこにしよっかな。聞いてなかったんだけど、私は【相生】の主属性が金、副属性が水なんだけど、マッチーはどの属性だったの?」


「わたしは【相剋】の火と金だよ~。魔法は火と雷だけにしちゃってるけどね。エーテルちゃんは全部の系統、使えるようにしてそう!」


「そうだよ。私は四つとも、とりあえず使いやすそうな魔法はさっき作ったね」


「そうだと思った~。じゃあさ、第一層は相生のエリアっぽかったし、逆に相剋にならった攻略順にしてみる?」


「ってことは、木、土、水、火、金の順かな。ほかにこれっていうのもないし、それでいこっか。……水律領の水晶体、着いたね。登録しよ」


 話しているうちに、水律領の水晶体まで来ていた。二人はその場で転移登録を済ませる。


「わたしも登録完了~! 次は金錬領だ~。いこいこ~」


「門のところの水晶体は、第一層に行く時でいいよね」


「うんうん!」


 二人が次の目的地へ向かおうとした時だった。


 不意に背後から声が飛ぶ。


「ねぇ、二人組?」


 振り返ると、そこにいたのは男性プレイヤー二人だった。どちらも少し焦ったような顔をしている。


「今から狩り行く感じ? 一緒にどう?」


「ナンパ~?」


 マッチーが楽しそうに笑う。


 けれど、その笑い方が表面だけのものだと、エーテルにはすぐわかった。付き合いが長いぶん、そこは見間違えない。


「いやいや、純粋に! 二人だと危なくない? さっき雑魚に絡まれてさ」


 マッチーが首を傾げる。


「組まない? 前衛は俺らがやるし」


 もう一人が軽い調子で続けた。


「女の子だけだときついでしょ?」


 悪意はないのだろう。ただ、そう思って、そのまま口にしただけ。


 エーテルは一瞬だけ目を細めた。マッチーは首を傾げたまま、ふたりへ返す。


「なんで~?」


「いや、だってさ。女の子だと敵の攻撃、受け止めたりできないでしょ?」


 自分が変なことを言っている自覚はなさそうだった。


 このゲームにはステータスがある。男女差がそのまま能力差になるわけじゃない。それでも、現実の感覚をそのまま持ち込んでしまうプレイヤーはいる。


 マッチーが、にやっと笑った。


「君たちさ~、なんレベ?」


「レベ1。このゲーム、雑魚敵も強いじゃん。それで連戦きつくなって、さっきやられそうになって逃げてきた」


 その答えを聞いて、エーテルとマッチーの目が合う。どちらからともなく、くすっと笑いが漏れた。


「私たち、レベ2だよ~」


「え?」


 マッチーが一歩前へ出る。


「筋力、いくつだと思う~?」


 男たちが言葉に詰まる。その間に、エーテルが静かに続けた。


「このゲーム、性別で差はないよ。種族差はあるけど、私たち、ほら、鬼人だし」


 それは、そのまま事実だった。


「それに――」


 エーテルが視線を送ると、マッチーが肩をすくめる。


「前衛、わたし~! そっちの子は、どこでも行ける万能タイプ!」


 片手を上げて、にこりと笑う。


 言い方は軽いのに、少しだけ圧があった。


「……二人は固定?」


「何もなければ、基本的に固定かな~」


「まあ、二人で回るよ。夕食も近いし、街の探索中だしね。機会があったら、また誘ってみてよ」


「じゃあね~」


 エーテルがやわらかく話を締め、手を振って歩き出す。少し歩いてから、マッチーが口を開いた。


「今の時代、現実でも男女差ってもうあんまり考えないよね」


「いろいろ運動はするけど、体力で役割決める時代じゃないしね」


「どこ行っても、機械がいろいろ手伝ってくれるもん」


「わたしの筋力値、見たらびっくりするかな~」


「私もびっくりするかもよ。まあ、見ないし見せないけどね。いつかマッチーと戦うかもしれないし?」


 二人は笑う。


 このゲームでは、みんな初心者かもしれない。けれど、いろんなVRゲームで強敵と戦ってきた経験は、そのまま二人の土台になっている。


「話戻すんだけどさ、《ES》って、プレイヤーによくある『底力』みたいなの、なさそうだよね~」


「それ、なんとなくはわかるけど、根拠あるよね?」


「徘徊型の攻撃で大ダメージ受けたあと、すぐ立ち上がってまだ戦うつもりではいたんだけどさ~。いざ動こうとしたら、アバターが思った通りに動かなかったんだよね~」


「だよね。私も大ダメージ受けたあと、操作できてる感覚はあったけど、操作の出力自体が落ちてる感じがあった」


 大ダメージを受けると、操作不能まではいかなくても、明らかに動きが落ちる。


 そういう状態があるなら、ステータス側にも何か減衰が入っている可能性が高い。


 その仮説が正しいなら、《底力》みたいなものが存在しない可能性はかなり高い。火事場の馬鹿力みたいな挙動と、今の感じは噛み合わない。


「つまり、《ES》では大ダメージ受けた時点で詰みだ~! おもしろ~!」


「マッチー、この方が好きそうだよね。アニメ見てる時によく言ってるやつ」


「逆境になってから一発逆転狙うなら、最初からちゃんと戦えばいいじゃんってやつ~?」


「そうそう。私もそう思うしね。……まあ、そう思っていながら、それと同じことしてポカしたんだけど」


「だね。勝って兜の緒を締めよって言うけどさ~。あれ、逆でも成立するよね~?」


「この世界じゃ、私たちまだまだ駆け出しだからね。おごらず、一つずつ大事にしていこう」


「うんうん!」


 ちょうどそこで、水律領と金錬領の境を越えた。


 街の色が変わる。


 淡くやわらかな金と、冷たい白銀を基調にした街並み。建物は無駄を削いだ直線で組まれ、外壁には精巧な金属細工が静かに刻まれている。陽光が差すたび、彫り込みの縁だけがきらりと光った。


 石畳には細い金属線が縫うように埋め込まれている。歩みを進めるたび、足元で光が細く走り、やがて淡い輝きのまま消えていく。


 主張は強くない。


 けれど、確かな存在感だけが残っていた。



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