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剋生の孔雀  作者: 氷炎
新しい世界 定めた目標

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Ep.14 戦闘分析 ― 感想戦

 


「やっぱデスペナあるよね。体、重いや〜」


「デスペナのアイコン出てるね」


 エーテルは視界の端にある赤いデバフアイコンへ意識を向けた。開いた情報ウィンドウに、効果が表示される。


「……全ステータス二十%減少。効果時間はゲーム内一時間か」


「ほんとだ〜。わ、経験値取得も二十%減少って書いてある」


「能力八割、取得も八割か」


 リスポーン直後にも見ていたが、HPバーは緑がほとんど見えない。MPバーも、倒された時点の残量がそのまま残っているようだった。けれど、今は時間とともに少しずつ戻り始めている。


 食事アイテムの効果は、倒されても切れていないらしい。


 負けたのは悔しい。けれど、そのぶん見えたものもある。


「数字で見ると、ちょっと怖いね〜」


「この状態でまたやられたら、デスペナがどう重なるのかも気になるけど……それはその時考えよう。無理に動くより、準備を整えたほうがいいね」


「うん。次はやられないようにしようね〜。徘徊型の情報も整理したいし、一旦ここから離れよっか」


「そうだね。探索しながら話そっか」


「ご飯の時間も近くなってきてるし、そうしよっか〜。とりあえず木衡領の転移地点まで行って、そこから時計回りに他のエリア見て回るのはどう?」


「賛成。じゃあ行こう」


 次を決めると、二人は転移を使わず、そのまま中枢域から木衡領へ歩き始めた。


「三秒って、やっぱり長いよ~」


「今のところ避ける手段がないのがいやらしいね。発動から拘束までが速すぎるし、足元から全方位。避けられたら、だいぶ楽なんだけど」


「ね〜」


 二人は徘徊型との戦闘ログを開く。


 ダメージ量まで出る詳細なものではない。ただ、自分の視点で記録された映像だ。それでも時間の確認や流れの整理には十分だった。半透明のウィンドウが空中に浮かび、少し歩きにくい。


 徘徊型の正式名称は、まだわからない。


 このゲームには《モンスター鑑定》のようなものがない。ツタバインやコケガードの名前がわかるのも、倒したあとに得た情報で見えたからだ。倒せていない徘徊型は、まだ名前がない。


「開幕拘束は確定。リキャスト二十秒。三十秒で眷属召喚だったよ」


「眷属召喚で使ってたHPは三%くらいで見ていいかな〜。自分削ってまで増やしてくるとか、根性あるよ」


「どこまで増えるのかがわからないのもあるね。一気に増えるなら予想もしやすいけど、二体だとまだ読み切れない」


「うん。放置は無理〜。眷属も拘束してくるし」


「薙ぎ払いは、拘束中だと威力が跳ねてたね。二人で見るなら、眷属は多くても二体くらいまでにしないと厳しい」


「パーティ増やす〜?」


 戦闘ログを見ていたマッチーが、横目でエーテルを見る。どう返すか、わかっていて振っている顔だ。


「マッチーがそうしたいなら、私は構わないよ? マッチーが、そうしたいならね?」


 エーテルも笑ったまま返す。


「ないな〜い! ここでパーティ増やすなら、もうやらなくていいもん。エーテルちゃんもそうでしょ?」


「当たり前じゃん。急ぐ必要なんてないし、二人で倒すほうが面白そうだもん」


 言い合って、二人で笑う。


 まだリリース初日だ。何かに追われているわけじゃない。


「あいつ、タイマー戦だね〜」


「そうだね。時間ごとに行動がある程度決まってる。こっちのリソースと、あっちのリソースの削り合い」


「拘束受ける役、変えてみるのは〜?」


「なしかな。マッチーのほうが一撃で何体も眷属を落とせるし、それに、そもそも私たちまだ力を出しきれてないし」


「あぁ〜、魔法。一回しか使ってないね〜。わたしの魔法なら、木属性相手には有利なのに」


 二人とも、どこかで甘く見ていた。


 一般の敵を基準にしていた。初期エリアの強めのモンスター、その程度で収まると思っていた。


「このゲームだと、ちょっと認識変えないとだね。まだ温存なんて考えてる段階じゃない」


「そうだね〜。……よし、到着っと!」


 話しているうちに、最初の目的地だった木衡領の水晶体に着く。


「ギルドはどうする? 今は特に用事ないし、後回しでも私は構わないけど」


「わたしも特にないかな〜。予定通り、次は隣の水律領の水晶体めざそ〜!」


 エーテルは、【相剋】副属性の木を『十二影座』補正で得ている。


 だから木工ギルドは少し気になる。けれど、それは今じゃなくていい。一人でいる時でいい。


 それに、『十二影座』のことはマッチーにも伏せるつもりだ。何かが起きて看破されない限り、自分から言うことではない。


 二人は水律領へ向かう通路へ足を向けた。話は自然に、また徘徊型のことへ戻る。


「今の状態で再戦してみるのも選択肢ではあるけど、マッチーはどうしたい?」


「う~ん……悩むけど、こだわりすぎるのももったいないかな〜」


「わかった。じゃあ、レベル上げて装備整えてから再戦にしよっか」


「だね〜。エメラルド・キャノピー以外にも行ってみる?」


「行くのは賛成。でも追加で行くのは一つだけにして、レベル5までってどう?」


「いいね! 強くなりすぎず、後の楽しみも残せる感じかも〜」


「レベル上げも、とりあえず二人でいいかな」


「そうしよ〜! おぉ……水律領、マップでも見えてたけど水路すごいね!」


 話しているうちに、水律領へ入っていた。


 街は澄んだ蒼と、水の反射に包まれている。建物はやわらかな曲線で作られ、外壁には波紋みたいな文様が淡く刻まれていた。壁を伝う細い水路が静かに流れ、光を受けるたび揺らめく。


 石畳の通りには浅く水が張られ、歩くたび小さな波紋が広がった。水面が空を映し、街全体を淡い青に染めている。その揺れは騒がしくなく、ただ一定のリズムで続いていた。


「イタリアにあったヴェネチアっぽい雰囲気だよね。歴史の授業で写真、見たことある」


「お〜! そう言われると、ぽいね」


「実際に見たことはないけどね」


「生まれた頃にはもう、海上都市しか行けるとこなかったもんね〜。どこの海上都市行っても、だいたい似たような街並みだし?」


 昔は、飛行機に乗って違う国へ行けた。


 土地ごとに違う景色があって、違う歴史があった。


 今は違う。どこへ行っても、似た構造の海上都市が続いている。


 だからこそ、人は仮想現実へ向かう。


 そこには、現実にはもうない種類の景色があるからだ。



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