Ep.13 濃翠の脈動 ― 森の深部
レベルアップ後、エーテルはすぐにステータスを開いた。
レベル1の時点では、
名前 : エーテル 種族 : 鬼人 【相生】【相剋】
役職 : 『十二影座』 双影座 レベル : 1
相生 : 主属性 金 副属性 水 相剋 : 主属性 金 副属性 木
魔法系統:「金」・「雷」・「水」・「氷」・「木」・「風」
経験値 : 0/200 SP : 0
筋力 : 15(3) 頑強 : 15(3)
柔軟性: 10(2) 魔力 : 12(4)
精神 : 10(2)
振り分けを終えたあとは、
名前 : エーテル 種族 : 鬼人 【相生】【相剋】
役職 : 『十二影座』 双影座 レベル : 2
相生 : 主属性 金 副属性 水 相剋 : 主属性 金 副属性 木
魔法系統:「金」・「雷」・「水」・「氷」・「木」・「風」
経験値 : 1/250 SP : 0
筋力 : 18(3) 頑強 : 18(3)
柔軟性: 15(2) 魔力 : 18(4)
精神 : 15(2)
柔軟性と精神に三ずつ、魔力に二。
レベル1の時点で低かったところを埋める形で振り終え、エーテルはウィンドウを閉じた。
「少し、強くなったよ」
「少し~?」
「でも確実に強くなった」
マッチーが笑う。
「身体能力が上がった時の、あの独特の高揚感いいよね。あのためにゲームしてるって人がいるのもわかる~」
「一時期ちょっと危なかったよね。精神に悪影響がどうとか」
「あったあった~。結局、言ってた団体が自社ゲームのシェア取れなかったのが原因だったって話だよね」
「まあ、そのおかげで安全機能が見直されて、全体の性能が上がったんだから、善し悪しだよね」
話しながら、エーテルは森の奥を見る。
さっきまでより、ずっとはっきりと。
「さて……いるね」
「うん。さっき感じてた威圧感と一緒。集中してたら、さっきもすぐ気づけたかもね~」
マッチーの声は静かだった。けれど、奥には熱がある。
風が止む。
二人は並んだまま、さらに奥へ踏み込んだ。
踏み込んだ瞬間、足裏の感触が変わった。
土じゃない。生きているものの上へ乗ったような、嫌な柔らかさ。
次の瞬間、地面が持ち上がる。太い根が絡み合いながら隆起し、その中心から幹のように肥大した巨体が、ゆっくりとせり上がった。
最初の印象は、ツタバイン。
けれど大きさが違う。通常個体の数倍はある。そこから放射状に伸びる蔦は、どれも一本で武器みたいな太さと質量を持っていた。
中央には濃い翠の核。
その脈動は重い。どくん、どくん、と森ごと揺れるようだった。周囲にはすでに根が張り巡らされていて、ここ一帯がこいつの縄張りだとはっきりわかる。
「こいつだよ~」
マッチーの声は軽い。けれど視線は細い。
エーテルは核の明滅を見る。間隔が短くなっていく。
「拘束、くるよ」
言って、前へ出る。
その直後だった。
地面が爆ぜる。
全方位から蔦が跳ね上がり、視界が緑に埋まった。避ける隙がない。蔦が足に、腕に、胴に巻きつき、一気に全身を締め上げる。通常個体より明らかに重い。呼吸が止まり、筋肉が軋んだ。
三秒。
マッチーの情報通りなら、それで解ける。短い。けれど拘束力は比べものにならない。
その横を、マッチーが走り抜けた。横回転しながら軽く跳び、勢いごと斧を叩き込む。
本来なら、それで十分なはずだった。
「硬っ……!」
「マッチー!! すぐ離れて!」
核を覆う蔦は何本か飛んだ。けれど幾重にも重なった層に勢いを殺される。斧は本体へ食い込んだまま、振り抜けない。返ってきた反動で、マッチーの体が一瞬止まった。
その間に、地面が抉れる。
マッチーの体が後方へ弾かれた。
「威力はないよ。でもノックバック効果が高~い!」
吹き飛ばされながらも、空中で体勢を整えて着地する。
距離を取らされた。
接近拒否。蔦は拘束だけのためじゃない。戦場を切るための手でもある。
徘徊型の核が強く脈打つ。地中の蔦がそれに応じて震えはじめた。
嫌な感じが背筋を走る。
次の瞬間、地面が裂けた。
ツタバインが二体、這い上がる。核の光は少し淡い。けれど動きは鋭い。
「蔦の脈動は増援! たぶん次もある! 周期見るね!」
「了解! 火よ、宿れ! 刃に熱を、燃焼を! ――《ブレイズエッジ》!!」
炎を纏った斧を手に、マッチーが増援へ飛び込む。一体を叩き割り、その勢いのまま二体目も潰す。だが、その背へ本体の蔦が振り下ろされた。衝撃が走り、体勢が崩れる。
「本体の圧が強い……!」
自分で押し潰す型じゃない。
拘束と増援で削り続ける、耐久寄りの個体だ。時間をかけるほどこっちが苦しくなる。
「優先順位は変わらないよ。増援は即処理。本体は核狙い」
核がまた明滅する。速くなる。
「拘束まで、だいたい十秒くらい!」
蔦がゆっくり持ち上がる。空気が重くなる。
「拘束、来るよ!」
二度目は、前に出ていたマッチーが絡め取られた。
「最初の時より拘束強~い!」
レベル差か、眷属を落とされた影響か。どちらにせよ圧が増している。
そのまま、また蔦が脈動する。
最初から数えて、増援の周期は三十秒。
地面を破って、眷属がまた出た。
森は静かだった。鳴き声もない。ただ蔦のうねる音だけが続く。
不利なのははっきりしている。けれどマッチーは笑っていた。
「面白いじゃ~ん!」
「増援周期は三十秒。消耗戦になるよ」
エーテルは短く返す。
核の翠はまだ深い。森の中央で、巨大な蔦がもう一度持ち上がった。
まだ序盤だ。
マッチーが笑いながら増援へ突っ込む。斧が振り抜かれ、一体が消し飛ぶ。その隙へ、本体の蔦が地面を叩きつけた。足場が崩れ、マッチーの重心がずれる。
「左、来る!」
声を飛ばす。
けれど遅い。足元を叩いた蔦がそのまま横薙ぎに変わり、マッチーを掠めた。大きく吹き飛ぶほどじゃない。だが、また距離を離される。
「うわ、やっぱ重い!」
「分断されないで!」
どくん、とまた脈が鳴る。
三十秒。
地面が裂け、さらに二体。
これで場に三体。
「どこまで増えるんだろ!」
「優先は変わらないよ! これ以上増えたら手が足りない!」
ここまで観察に寄せて動きを抑えていたが、もう止まれない。エーテルも増援へ踏み込む。視界の端で、本体の核の明滅が速まっていく。
拘束が来る。
「あと五秒で拘束来るよ!」
「マジ~!?」
蔦が持ち上がる。
「来る!」
三度目。
今度は増援の蔦まで絡んだ。締め付けが深い。重い。肺が潰される。
「きつ……!」
「耐えて!」
三秒。
解けた瞬間、本体の蔦が二人をまとめて叩く。大きく距離を取らされ、その間へ増援が割り込んだ。
「まずい、囲まれる!」
視界が緑に埋まる。
その中で、エーテルは気づいた。
「核の光、少し弱くなってるよ。私たちが本体に入れた攻撃はマッチーの斧だけ。それも蔦に止められてた。なのに最初より濃さが落ちてる。眷属召喚はHP消費型。でも処理が追いつかない」
「手数が足りないか~。あと単純にステータス不足?」
「そうだね。今の私たちだときつい」
マッチーはそれでも笑った。
「じゃあとりあえず、強引にいってみよっか~。次につなげるよ!」
「無理は――」
「今しないでいつするの!」
言い切って、本体へ突っ込む。
増援の蔦を斬り裂きながら一直線。振り下ろした刃が核に届く。
響いたのは、硬い音だった。
核は蔦よりさらに硬い。斬撃を弾き、衝撃がそのまま腕へ返る。
その直後、地面が爆ぜた。
足元から蔦が伸び、至近距離のままマッチーを締め上げる。そのまま横薙ぎの追撃。拘束中に受けた一撃はさっきまでより重く、マッチーの体が弾かれて転がった。
視界左上のHPバーは、もう三割しかない。
「マッチー!」
エーテルが増援を斬り払い、駆け寄ろうとする。だが三体の眷属が壁になった。
「邪魔!」
斬る。一体は落ちた。けれどまだ二体いる。
その二体の蔦が、今度はエーテルへ向いた。
全身へ絡む。肺が空気を求め、視界が狭まる。
三秒。
数える。
……一。
蔦がさらに食い込む。
……二。
本体の蔦が重なる。
……三。
拘束が解け、吹き飛ばされる。着地した瞬間、増援の体当たりが入った。崩れたところへ、間髪を入れず本体の拘束。
また蔦が巻きつく。
HPが削れていく感覚が、はっきりわかる。
「くっそ~……!」
マッチーが立ち上がる。けれど遠い。
エーテルは苦笑した。
「詰みだね……今回は負けだよ」
核が最後に大きく脈打つ。
視界が緑に染まり、そのまま暗転した。
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《ペンタクルベース 中枢域》
次に視界が開いた時、隣にはマッチーがいた。
結晶柱の淡い光。戻ってきた場所は中枢域だった。
リスポーン。
マッチーが隣で大きく息を吐く。
「いや~、やられたね」
エーテルはゆっくり立ち上がった。
「ごめん。観察に回りすぎて、増援処理が遅れた」
「観察する時間を作るのが、わたしの役目だったけど、うまくいかなかったや。こっちこそ、ごめん。……でもさ」
マッチーが笑う。
「負けることの悔しさ、思い出せたね~」
エーテルは静かに頷いた。
森の奥。あの濃い翠の核を思い出す。
「うん。次は、倒す」
今回は負けた。
けれど、それで終わりじゃない。
エーテルとマッチーは、またやり直せる。




