Ep.12 戦闘連携 ― 二人の距離
「すごく綺麗だね、ここ」
「だよね~。でも、ずっといたら森に取り込まれそうな感じもする」
「うん。ここ、ちゃんと人を拒んでる」
視界の端で、さっきから何かがちらつく。
緑を基調にしたうごめく影。隠れているつもりなのか、こちらを窺っているつもりなのか。そのどちらにしても、見られている感覚は消えない。
「さて……すぐわかるだろうから聞いちゃうけど、ここのモンスターのこと聞いていい?」
エーテルがそう言うと、マッチーはにこっと笑って指を一本立てた。
「まずね~、ツタバイン」
「名前からして蔦のモンスターかな。さっきからずっとこっち見てるやつ?」
「うん。腰くらいの高さでさ、真ん中に緑の光る核があるの。そこから蔦をぶわって伸ばして攻撃してくるんだよね~」
「拘束特化?」
「そうそう。ダメージは低いけど、足止めして仲間呼ぶタイプ~」
軽く頷く。マッチーを追い立てた相手なら、まずそれが近い。
マッチーが二本目の指を立てる。
「次がコケガード」
「硬そうだね」
「まるっとした木の塊みたいなやつ~。全身苔だらけでさ、叩くと弾む感じするよ。こいつ、自己回復もしてた」
「自己回復持ちなんだ」
「ちょっとだけね。倒すなら倒す、倒さないなら牽制だけして別の敵、ってしないと面倒なやつだったよ~」
三本目の指が立つ。
「次はリーフウルフ~」
「狼型かな?」
「うん。体が葉っぱでできてる狼だね。ぴょんって跳んでくるよ~。一見ちょっと遅く見えるけど、動きは速いから気をつけてね?」
「敏捷型で、体が葉っぱなら擬態も使う?」
「使う使う。体を崩して草陰に紛れるから、見失うといろんな方向から来るね~」
四本目の指。
「最後はトゲタワー。私が見たのはこの四種類だよ」
「四種類か。タワーってことは動かない?」
「動くんだろうけど、たぶんすっごく遅いかな~? 地面から生えてる棘の柱って感じ。真ん中に光る部分があって、そこから棘を飛ばしてくるよ。縄張りがあって、そこ入らない限りは会敵しないと思う」
「固定砲台だね。ここでは優先して落としたいか」
マッチーが笑う。
「そんな感じ。森だからって、全部ゆっくりじゃないよ~? ここのモンスター、みんな体のどこかに核があって、その光が強いとレベル高い個体だね」
「教えてくれてありがとう。見た目はやわらかいけど、中身はちゃんと牙があるわけだ」
視線を前へ戻す。
森の奥で、また蔦が揺れた。地面がわずかに盛り上がり、湿った根が裂ける。その隙間からツタバインが這い出てくる。淡い緑の核が脈打ち、蔦がゆっくり持ち上がった。
「はい出た、拘束担当。でも君一体じゃ、意味ないんだよ~?」
マッチーは笑っているが、もう腰は落ちている。
「光、強くなってきてるけど、あれが拘束の前兆かな?」
エーテルが一歩前へ出る。
その直後、ツタバインの蔦が弾けた。
「こいつも三秒?」
「こいつも三秒~」
蔦が巻きつき、肺が押される。けれど、目は逸らさない。
「……二、三。今!」
「了解っ!」
合図と同時にマッチーが踏み込み、斧を振り抜く。蔦が裂け、湿った繊維が飛び散る。拘束が解けた瞬間、エーテルも前へ出た。刃が核を貫く。
「よし、これくらいならまだ余裕だ」
「冷静だね~」
「相棒が優秀だから、焦る必要ないよ」
言った声に、少しだけ熱が混じる。
続けて草陰が爆ぜる。
リーフウルフが低く身を沈めたまま、一直線にエーテルへ突っ込んできた。
「右から!」
「前出て、軌道を固定するよ」
「任せた~!」
「任せて」
エーテルが半歩だけ踏み込み、狼の進路を絞る。
飛びかかる瞬間を待っていたように、マッチーが斧を振り上げた。
「お~、りゃあっ!」
空中で叩き落とす。
地面に打ちつけられたリーフウルフが硬直した隙に、エーテルが核を断つ。
「ナイス」
「今の連携、気持ちよくない?」
「いいね。一言で伝わるの、すごく楽」
どちらも口元がゆるむ。
その横から、コケガードが苔に覆われた巨体を押し出してきた。
「壁きた~」
「他はいないね。すぐ終わらせよう」
エーテルが前へ出て、コケガードへ斬撃を重ねていく。刃が入るたび苔が弾ける。
「回復してるよ~?」
「焦らなくていいよ。回復量、見てるだけだから」
「ほんと冷静だね~」
「思ってたより早いね。……よし、確認終わったから倒そっか」
「りょうか~い!」
二人で挟む。
再生を上回る火力で押し切ると、コケガードはそのまま崩れ落ちた。胸の奥に、小さな達成感が残る。
「あっ……」
「ん? どうしたの~?」
「魔法、使ってない」
真顔で言うエーテルを見て、マッチーが二拍置いてから吹き出した。つられて、エーテルも笑ってしまう。
ゲームは、まだ始まったばかりだ。
最初の戦闘から二時間。
二人は森の奥へ少しずつ入りながら、小さな戦闘を重ねていった。拘束、突進、体当たり。処理する順番は変わらない。けれど、動きは最初より明らかに滑らかになっていた。
「今、経験値どのくらい?」
「百八十五かな」
「もうちょっとだね~」
奥へ進むにつれて、光の強い個体が混じり始める。
「これ、レベル4だよね~」
「光が濃いし、蔦の伸びも速いね」
拘束が重い。最初に見た個体とは、はっきり差がある。
「力強っ……! ……一、今!」
「いくよ!」
マッチーがツタバインの体を覆う蔦を薙ぎ払い、エーテルが核へ刃を入れる。少しだけHPは削られるが、この処理がいちばん早い。
次はリーフウルフ二体。
最初の個体より跳躍角度が鋭い。
「跳ぶよ~!」
「中央維持!」
「任せて~!」
二人の斬撃が交差する。
一瞬遅れて、二体同時に沈んだ。
「今の完璧だったね」
「呼吸合ってる感じ~? エーテルちゃんも、そのアバター慣れてきた?」
「最初よりはずっとね」
戦闘時間自体は短い。消耗もなるべく抑えている。けれど、連戦は連戦だ。精神的な疲れは溜まる。
それでも、二人の目はまだ強いままだった。
次で上がる。
そう思えるだけの経験値が、もう溜まっている。
相手はツタバイン、リーフウルフ、コケガード。
先制は、やはりツタバインだった。蔦が弾ける。
「三秒!」
締め上げられたのは、マッチー。
「収束、硬化、鋭化。――《シャープエッジ》!」
先に落とすのはリーフウルフだ。
擬態からの不意打ちは、受けたくない。
強化された刃が、今まさにマッチーへ跳びかかろうとしていたリーフウルフを一刀で断つ。
「次、蔦!」
「壁抑えるよ~! 火よ、宿れ! 刃に熱を、燃焼を! ――《ブレイズエッジ》!!」
コケガードはマッチーに任せる。
エーテルが向き直るのはツタバイン。《シャープエッジ》の持続は十五秒。その間に終わらせる。
ツタバインは拘束のあと、蔦で打つくらいしかしてこない。なら、斬れ味の上がった今なら押し切れる。
連撃で蔦を切り払い、そのまま核まで斬り刻む。
残るのはコケガードだけ。
そちらへ目を向けた時には、もう原形がほとんど残っていなかった。
その前に立っているのは、斧を最上段へ構えたマッチー。
刃には炎がごうごうと巻きついている。
躊躇なく振り下ろされた一撃が、コケガードを粉砕し、地面まで赤く燃え上がらせた。
「これで上がったかな~?」
森の粒子が逆流するように舞い、淡い光がエーテルを包む。
「……うん。上がった」
「やったね~!」
「ありがとう。SP振っちゃうから、ちょっと待ってね」
レベルが上がる。
経験値が二百へ届き、存在そのものが一段引き上げられるような感覚が走る。
視界の端で、ステータスUIが点滅した。任意振り分けポイントが増えたことを示している。




