Ep.9 パーティ結成 ― 二人の冒険
魔法を作るにあたって、エーテルが最初にやったのは、工程を段階ごとに切り分けることだった。
ひとつ目。どの属性を使うか決める。先に属性を定めれば、魔法の向かう方向も絞りやすい。
ふたつ目。誰に、どんな効果を及ぼすか決める。属性ごとの性質もこの段階で固める。
みっつ目。発動時の形と発生方法を定める。どんな見た目で、どう起動するかを決める。
よっつ目。性能の方向性を決める。規模や追加効果を選ぶ。この段階が消費MPを大きく左右する。
いつつ目。詠唱を考える。長すぎれば覚えにくいし、噛みやすければ失敗に繋がる。
むっつ目。魔法名を決める。味方にもわかりやすい形にしておく。
この六段階を順番に踏んでいけば、作成の途中で迷いにくい。
まず手をつけたのは、【相生】の主属性である「金」だった。
最初に作ったのは、金属性の《シャープエッジ》。
手や武器に金属性を纏わせ、切断力と強度を高める魔法。単純なぶん応用が利く。効果時間を短く絞って、消費MPも抑えた。
二つ目も同じく金属性、《メタルシールド》。
指定した位置に薄い金属板を瞬間的に生み出し、物理攻撃を軽減する防御魔法だ。持続を一撃だけに絞ったことで、物理耐性のわりに扱いやすい重さにできた。消費MPはそれなりにあるが、十分使える。
三つ目は雷属性、《スパークボルト》。
直線状に雷撃を飛ばし、当たった敵と、その近くにいる敵へ連鎖する。さらに麻痺もつけたせいで、初期魔法としては少し重い消費になった。
四つ目は、金と雷の複合魔法、《ライトニングロッド》。
対象へ、雷を引き寄せる性質を十五秒間付与する魔法だ。接触付与型にしたことで、複合魔法にしてはMPを少し抑えられた。
五つ目は、また雷属性。《ライトニングバースト》。
前方へ扇状に散る雷を無作為に放つ。消費MPを所持MPの半分にする仕様にしたことで、MPが多ければ高威力広範囲、少なければ目に見えて落ちる魔法になった。
六つ目は水属性、《ウォータースフィア》。
分類としては拘束と防御補助。水球を作り、対象の動きを一瞬鈍らせる。生成した水球そのものを盾代わりにもできそうで、思ったより使い道が広い。大きめの水球を出すだけなので、規模に対してMP消費はそこまで重くない。
七つ目は水属性、《アクアヒール》。
そのまま回復魔法だ。回復効果を持つ水球を飛ばし、着弾した対象へ作用する形にした。味方にも当てられるが、逆に言えば誤射も起こる。回復効果はやはりMPを食うと、はっきりわかった魔法だった。
八つ目は氷属性、《フロストニードル》。
鋭く硬い氷針を複数飛ばして、刺傷と凍傷を与える。範囲を狭くし、まっすぐ飛ぶ形に絞ったぶん、必要MPは削れた。
九つ目は氷属性、《フローズンブレス》。
着弾地点を凍らせる息吹を噴射する魔法だ。足場にも使えそうで、単純な攻撃以外にもいろいろ応用が利きそうだった。
「ふぅ……あと作りたいのは、木と風かな。木はやっぱり、行動阻害と防御魔法のイメージが強いなぁ」
ざっくりと印象だけ先に固めて、次の作成へ入ろうとした、その時だった。
視界の端で、小さく通知が点滅する。
(タイムアップかな? 目標までは届かなかったけど、メインで動くぶんには困らないだけの魔法は作れたと思うし、よしとしよう。それに木と風は『十二影座』補正でもらった系統だから、『十二影座』アバターで動くまでに作っておけば、最悪問題ないし)
そう考えながらメッセージリストを開く。送り主は、やはりマッチーだった。
『外で経験値稼いでたら、急に強い敵に遭遇しちゃって大変だった~! 命からがら逃げて、やっと中枢域にある塔に帰ってこれたよ~。ねえ、今どこにいるの~? 塔の中にはいないんだよね?』
思っていたより返信が遅いとは感じていたが、文面からすると、マッチーは一人で《ペンタクルベース》の外に出て、強めの敵に出会ったらしい。
あのマッチーが逃げを選んだということは、今の段階で一人で相手取るような敵ではない可能性が高い。あるいは、もっと先を想定した敵か。
エーテルは返す。
『お疲れさま。あの建物って塔だったんだね。今、私は訓練場にいるよー。訓練場の位置はわかる?』
すぐに返ってくる。
『塔って知らないってことは、まだ塔の外にも出てないんだ? それなのに訓練場? どこにあるの~?』
『塔の中央にある大きい結晶柱、わかる?』
『あのキラキラしてるやつ?』
『そうそう。塔の中でそれにアクセスすると、闘技場へ転移できるようになるよ。それで闘技場に転移。転移したら闘技場を背にして南に進むと、『訓練場はこちら』って看板があるから、それに従って。その先に兵士さんがいて、その人に話しかけると訓練場に入れるよ』
『なるほど、了解! 今から行くね~!』
やり取りを終えて少し待つと、またすぐ新しい通知が点滅した。
『訓練場の中にエーテルちゃんいないんだけど!?』
内容を見た瞬間、エーテルは眉をわずかに動かした。
「……あ」
小さく息を吐く。ナナミが言っていた。
訓練場は特殊インスタンスエリア。隔離されたエリアへ移動する、と。
なら、同じ訓練場に入るにも、何か条件があるはずだ。思いつくのはひとつしかない。
パーティを組んでいること。
エーテルはすぐにメッセージを返した。
『訓練場は特殊インスタンスエリアみたいなの。だからパーティを組まないと同じエリアに入れないのかも』
『あ~! なるほど!』
『今からパーティ招待送るね』
試しにフレンドリストを開いてみる。
そこには、すでに『マッチー』の名前が登録されていた。たぶん、VR機器側で相互登録されている相手は、自動で反映されるのだろう。ほかに名前がないということは、他の知り合いはまだ《ES》を始めていないらしい。
それでも、一番気の置けない友人の名前が最初からあることに、エーテルは少しだけ口元を緩めた。
『マッチー』をタップし、そのまま『パーティ招待』を選ぶ。
すると、『マッチー様にパーティ招待を送りました』と表示された。
間を置かず、『マッチーがパーティ招待を承認しました』という案内が流れる。視界の左上には、マッチーの名前と、緑色のバー、青色のバーが追加された。
MPが減ったままなのは、使ってからまだ時間が経っていないのか、MP回復用のポーションを飲んでいないのか。そのどちらかだろう。自然回復がないことは知っているはずだし、食事を使っていないわけでもないだろうから、たぶんそんなところだ。
『たぶんこれで同じエリアに入れると思うよ』
『試してみるよ! もうちょっと待ってて~』
パーティが条件なら、来るのは早い。
そう思った通り、すぐに訓練場の入口側に転移陣が現れた。




