唯奈ちゃんの歌が聴きたい
わたしと唯奈ちゃんが話をしていると、ドアがコンコンとノックされた。
「は~い」と唯奈ちゃんが返事をしてドアを開けるとシロッコが立っていた。
部屋に入ってきたシロッコは、
「もふもふ癒しの空間アパートカフェの規則とお仕事表だにゃん。唯奈ちゃんは疲れていると思うので明日の朝にでも読んでね」と言って紙を唯奈ちゃんに差し出した。
わたしは、唯奈ちゃんが受け取っている紙を眺めあのお仕事表だと思った。
「じゃあ、今日も夕食は十九時位からね」
シロッコはそう言って出て行った。
唯奈ちゃんはシロッコが出て行ったドアを眺め、「シロッコちゃんは可愛らしい猫さんだね。でも、猫が喋っている現実になかなかついていけないな」と言った。
「そうだよね。わたしは慣れてきたけどやっぱり不思議だよ。あ、その紙お仕事表かも」
「うん? お仕事表?」
唯奈ちゃんは手に持っている紙に目を落とした。
「なんて書いてあるの?」
「もふもふ癒しの空間アパートカフェの規則とお仕事表だにゃん。唯奈ちゃんのお仕事です。朝はお花の水やり、夜は歌を歌ってくださいにゃんって書いてあるよ」と唯奈ちゃんは読み上げた。
「あ、夜は歌を歌ってくださいって唯奈ちゃんが歌手になりたかったって話してたからだよね? やったね! 唯奈ちゃん」
わたしは顔を上気させて言った。
「そうなのかな?」
「うん、きっとそうだよ。みんなに唯奈ちゃんの歌を聴かせてあげてね」
わたしは、唯奈ちゃんの歌がまた聴けると思うと嬉しくてわくわくしてきた。
だって、唯奈ちゃんの歌を聴くと元気になれるし格好良いのだ。そして、わたしもいつか夢を見つけて頑張りたいなとそう思わせてくれる歌なのだった。
「満里奈ちゃん、なんだか嬉しそうだね」
「うん、だって、唯奈ちゃんの歌が聴けると思うとわくわくするんだもん」
わたしの頬は嬉しくてゆるゆると緩んだ。
「……ありがとう、満里奈ちゃん」
唯奈ちゃんははにかみながら笑った。
一階に下りるとふわりとスパイスの良い香りがした。今日はわたしの大好きなカレーのようだ。
「今日の夕飯はカレーかな?」
わたしはキッチンを覗きながら聞いた。
「うん、そうだにゃん。きっと美味しいよ」
お玉を持ったシロッコが振り返った。シロッコはチューリップ柄のエプロンをつけていてとても可愛らしい。
「この世界でもカレーはあるんだね。わたしカレーが大好きなんだ」
「うん、あるよ。それは良かったにゃん、カレーは得意料理なんだよ~」
シロッコはにゃぱにゃぱと笑った。
「カレーの匂いを嗅ぐとお腹が空いてくるよ」
「じゃあ、満里奈ちゃんはテーブルにカレーとサラダを運んでね」
「うん、了解」
わたしは、シロッコがご飯の上にルーをかけてくれたカレーライスとサラダをお盆に載せて運んだ。
こうして出来上がった料理をテーブルに運んでいると田舎のおばあちゃんのお手伝いを思い出す。
『満里奈ちゃん、カレーだよ。テーブルに運んでね』って言って微笑みを浮かべたおばあちゃん。大好きな笑顔だったな。そんなおばあちゃんはもうこの世にいないけれど……。
なんだかしんみりとしてしまったじゃない。いけない、スマイルだよスマイル。
わたしは、口角を上げて笑顔を作りテーブルにカレーを並べた。もう、食べる前から美味しいって分かるよ。
「満里奈ちゃん、ご機嫌じゃないか」
顔を上げると収穫したのか大量のきゅうりを盛ったかごを持ったケンが立っていた。
「うん、わたしの大好きなカレーだからね」
「満里奈ちゃんもカレーが好きなんだね。俺もカレーだったら何杯でも食べられるよ」
「カレーは好きな人が多いよね」
「だよな。そろそろ夕飯の時間だね。さてと、俺はきゅうりを洗ってくるよ」
ケンはそう言ってキッチンに向かった。
きゅうりを洗うのかと思いながらわたしはサラダも並べた。
ミケにゃんとうさぴーも一階に下りてきた。ミケにゃんなんて食べる前からヨダレを垂らしているのだから困った子だ。
それから唯奈ちゃんも一階に下りてきた。
さあ、カレーをたくさん食べるぞ。




