もふもふパラダイスへようこそ
「やっぱり信じられないよ~」
唯奈ちゃんは店内をキョロキョロ見回しながら言った。
シロッコが唯奈ちゃんに店内へどうぞと言ってくれたのでわたしと唯奈ちゃんは今、二人掛けのテーブル席に向かい合って座っている。
「取りあえずハーブティーでも飲んで落ち着いてくださいにゃん」
シロッコがにこにこと微笑みを浮かべながら湯気がふわふわ立っているハーブティーの注がれたティーカップを唯奈ちゃんとわたしの目の前に置きながら言った。
「あ、ありがとうございます」
唯奈ちゃんは良い香りのする湯気の立っているティーカップを見つめそれからシロッコの顔を見た。
「うふふ、我らもふもふパラダイスへようこそにゃん!」
シロッコちゃんってば今ここでまたまたそれを言いますかとわたしはツッコミたくなった。
「……もふもふパラダイスですか」
唯奈ちゃんはまだ信じられない様子で呟いた。
「はい、もふもふパラダイスですにゃん。あ、ここはもふもふ癒しの空間アパートカフェですにゃん!」
シロッコはそう言って口元に肉球のある可愛らしい手を当てて笑った。
「……ねえ、満里奈ちゃんはずっとここに居たの?」
唯奈ちゃんはわたしに顔を近づけて聞いた。
「うん、シロッコちゃんに我らと楽しいもふもふライフを送るかにゃんって言われて、はいと答えたらこの動物がお喋りをする世界に来ていたんだよ」
「へぇ、そうなんだね」
「唯奈ちゃんは違うのかな?」
「うん、わたしは学校の先生の仕事を頑張っているのに生徒は授業を聞いていなかったり、それと、満里奈ちゃんもこの前言ってたけどわたし本当は歌手になりたかった……」
唯奈ちゃんはそこまで話すとティーカップに手を伸ばしハーブティーを一口飲んだ。
そして、ソーサーにティーカップを戻し話を続けた。
「それで仕事の帰り道で思わず学校の先生なんて辞めたい~って叫んだらこの庭に倒れていたんだよ」と言った。
「そうだったんだね」
やっぱり唯奈ちゃんは今でも歌手になりたいと思っていた。
それで、この異世界に飛ばされて来たのかな? でも、なんだか不思議だなと思いながらわたしは、唯奈ちゃんの顔をじっと見た。
わたしと唯奈ちゃんはしばらくの間お互いの目をじっと見ていた。
この世界で唯奈ちゃんとまた会えるなんてなんだか不思議な気持ちになる。
目の前に唯奈ちゃんがいると家の近所にある喫茶店でお茶でもしている気分になる。けれど、ここは異世界だ。お喋りをして料理を作る猫がいる不思議で可愛らしい世界なのだ。
「このカモミールティーを飲んで少し落ち着いたよ」
唯奈ちゃんはそう言ってふぅーと息を吐いた。
シロッコの淹れてくれたカモミールティーは甘酸っぱくてりんごのような香りがふわふわふわりと鼻腔をくすぐり心を落ち着かせてくれる。わたしの心もホッとした。
「唯奈ちゃんの学校の先生を辞めたいって思うその気持ちがこの異世界に届いたのかな?」
「でも、そ、そんなことってあるのかな?」
「今、唯奈ちゃんはここにいるじゃない」
わたしは唯奈ちゃんの顔を見てにこにこした。
「まあ確かにわたしはここにいるけれど……」
唯奈ちゃんはちょっと困ったように眉間に皺を寄せた。
「うふふ、それが全てだよ。わたしは唯奈ちゃんがこの世界に来てくれて嬉しいよ」
このもふもふパラダイスはキラキラと輝いていて、可愛らしいもふもふ動物達がいて居心地が良くて癒されるけれど、唯奈ちゃんが居てくれるとさらに心強い。
「満里奈ちゃんはこの世界にすっかり馴染んでいるんだね」
唯奈ちゃんは目を丸くした。
「うん、すっかりではないけどシロッコちゃんも優しいし可愛らしいちびっこ動物もいるからね」
わたしは隣の二人掛けのテーブル席で優雅にカモミールティーを飲んでいるシロッコに視線を向けながら言った。なんだか絵になる可愛らしくて美しい白猫だ。
「優しい動物さん達なんだね」
そう言って唯奈ちゃんはカモミールティーを飲んだ。




