賑やかなもふもふ癒しの空間アパートの住人になりました
満里奈はもふもふ癒しの空間アパートの住人になりました♪
「……あのシロッコちゃん、この箒はお掃除をしてってことかな?」
わたしは自分が握っている箒に視線を落とし尋ねた。
「もちろんそうだよ」
「あはは、やっぱりそうだよね」
箒を握っているのだからお掃除以外には考えられなかったけれど、やっぱりそうだったんだと納得した。
「昨日渡した紙にお仕事表があったんだよ。このもふもふ癒しの空間カフェアパートの住人にはお仕事をしてもらいますにゃん」
シロッコはそう言ってにんまりと笑った。
「あ、そうなんだね」
「うふふ、だって、食事代もお部屋代も貰っていないんだもんね」
「働かざる者食うべからずってことかな?」
「まあ、それに近いけどちょっと違うかな? ここに住むみんなで協力し合って生活しましょうにゃんってことだよ」
シロッコはにこにこ笑みを浮かべながらわたしの肩を肉球のある可愛らしい手で優しく叩いた。
「そうだね、わたしお掃除するね」
シロッコの言う通りだと思った。それにここに住むみんなで協力し合ってと言うその言葉がなんだか嬉しいなと思った。わたしは、ここの住人だと認められたそんな気がしたから。
「満里奈ちゃん改めてもふもふ癒しの空間カフェアパートへようこそ!」
「よろしくお願いします」
わたしは笑顔を浮かべそして、ぺこりと頭を下げた。
「さあ、元気よくお掃除をしましょう~」
「うん、お掃除をしましょう~」
わたしは、箒をぎゅっと握りしめた。
外に出ると朝の爽やかな風が吹いていた。この世界の朝も気持ちいい風が吹いている。空を見上げるとどこまでも続くような青空が広がっていた。
この青空とわたしの暮らしていた地球の空は繋がっていないのかな? そう思うと外国よりもずっと遠くにきてしまってんだなと思い不安になる。
だけど、優しいみんながいるからわたしは安心しても良い筈だ。
「いいお天気だね」
気がつくとシロッコが箒を片手にわたしの隣に立ち空を見上げていた。
「うん、いいお天気だね」
わたしは青空に向かって深呼吸をした。
そして、わたしとシロッコは薔薇の花が咲き誇る石造りの三角屋根の建物の前を箒で掃いた。
掃き掃除を終えると清々しい気持ちになった。ノスタルジックな雰囲気が漂う木製の扉を開けわたしは店内に戻った。
「満里奈ちゃん、おはよう」
ケンが挨拶をしてきた。
「おはよう、ケン」
わたしも挨拶を返し、あれ? と思いケンの顔をじっと眺めた。
「俺の顔に何か付いているか?」
「あ、ううん。ケン君はエプロンをつけてお仕事かなと思って」
そうなのだ、ケンは肩から紐を通し腰まで覆う焦げ茶色のビブエプロンをつけている。
「そうだよ、俺の仕事は調理補助だからね」
ケンはさも当たり前だと言う顔で言った。
「あ、そっか、だからトマトパスタを作っていたんだね」
わたしは納得して手をポンと打つ。
「満里奈ちゃんは洗い物係りらしいぜ」
「え~! わたし洗い物をするの?」
「シロッコがそう言ってたよ」
ケンはそう言ってニヒヒッと笑った。
「シロッコちゃんってば勝手に決めちゃうんだからね」
わたしは涼しい顔でテーブルを拭いているシロッコちゃんに視線を向けて言った。
「まあ、適当に楽しもうよ」
ケンがそう言ったその時、
「おはようにゃ~ん!」とミケにゃんの元気な声が聞こえてきた。その手には雑巾らしきものが握られていてぶんぶん振り回している。
ミケにゃんちゃん雑巾を振り回しちゃダメだよと言おうとしたが時すでに遅し。
だって、ミケにゃんが振り回している雑巾がびゅーんと飛んできてわたしの顔に直撃したのだから。
「ミ、ミケにゃんちゃん!」
わたしは大きな声で叫んだ。その雑巾は濡れていて気持ち悪かった。
「わ~ごめんなさいにゃん」
ミケにゃんは肉球のある可愛らしい手を顔の前に合わせて謝った。その姿はやっぱり可愛らしくて怒ろうと思っていたのにわたしの頬は緩んでしまった。
「許してにゃん」
ミケにゃんは目をうるうるさせてわたしの顔をじっと見た。
そんなミケにゃんがあまりにも可愛くてきゅんとしてしまい「許してあげよう」と言ってしまった。
人間はもふもふには敵わないよ。ミケにゃんの勝利です。
「あはは、満里奈ちゃんミケにゃんに雑巾ぶつけられてるよ~」
ケンがお腹を抱えて笑った。
「ちょっとケン君ってば酷くない?」
わたしは、ミケにゃんにぶつけられた濡れた雑巾をテーブルの上にばんっと置きケンをギロリと睨んだ。
「だって、満里奈ちゃんはミケにゃんに雑巾をぶつけられたのにそのミケにゃんのうるうるさせた目を見て顔がだらしなく緩んでいるんだから笑ってしまうよ」
ケンはお腹を抱えて思いっきり笑っている。なんて憎たらしい奴なんだ。わたしはぷんすかぷんぷん怒ってしまう。
「満里奈ちゃんにケン君どうしたにゃん?」
ミケにゃんは不思議そうに首を横に傾げ、わたしとケンの顔を交互に見た。そのミケにゃんのきょとんとした顔はやっぱり可愛らしいのだけど、ミケにゃんのせいで笑われているんだからねと言いたくなる。
「ミケにゃんちゃん、雑巾」
わたしは、ミケにゃんに雑巾を差し出した。
「ありがとうにゃん」
ミケにゃんは太陽みたいな笑顔を浮かべ雑巾を受け取った。
「もう雑巾振り回さないでね」
「うん、分かったにゃん。さあ、お掃除するよ~」
ミケにゃんはそう言って窓ガラスを雑巾で縦に横にキュッキュッと拭いた。思っていたよりテキパキした動きだったのでわたしはびっくりした。と言うかめちゃくちゃ意外だった。
「猫は綺麗好きなんだにゃん」
ミケにゃんがこちらに振り向いて言った。なんだかわたしの考えていたことが見透かされたみたいでちょっと焦ってしまった。
シロッコとケンが調理を始めた。
ベーコンの焼ける匂いやパンの焼ける香ばしい香りがふわふわとキッチンから漂ってきて幸せな気持ちになる。誰かに作ってもらう朝食は人を幸せな気持ちにしてくれる。
もう食べる前から美味しいよ、なんてわたしは思ってしまう。
この世界に来てからわたしは幸せでほくほくしちゃうではないか。
それはそうとうさぴーの姿が見えないなと思ったのと同時にこのもふもふ癒しの空間アパートカフェには他のもふもふ動物や住人はいないのかなと考えた。




