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本編開始前に悪役令嬢を断罪したらうちでバイト始めた  作者: 作者
第三章 わんわん君の断罪は遅れてやってくる
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教室で眠りたい


きい、ぱたん。


司祭様が、次の授業のために部屋を出た。休憩の時間だ。


がたがたと、みんなが席を立ったり移動する。

ざわざわと、そこかしこで話し声が木霊する。

ひそひそと、また女が街の噂話で盛り上がる。



前なら、リーナに大事なこと、話そうとして毎回からみに行ってた。でも今はそんな余裕、ない。


体が痛い。とにかく、痛い。

なんだろう。もう本当に、少し掃除をするだけなのに。剣術の訓練の何倍も、体が痛いなんて。


ロザリー、ほんとすげえよ。あそこの重すぎる道具を、あの細っこい腕で、夜まで使ってんだよな?


それをいつからやってるかわかんないリーナが怪物なのも、頷ける。俺、とんでもないものに殴りかかったんだな。



殴り、かかって。



ぴり。右手がまた、痛む。



結局、俺はリーナと会う機会がふえたのに、何も言えていない。掃除だって、途中からロザリーが参戦して片付けるから、そこまで戦力になってない。



ちくしょう。くそ。この。



なんだかわからないもやもやした気持ちが、体の痛みに混ざってすごく気持ち悪い。


とりあえず、今は寝ていたい。ちょっとでいいから。


とにかく、眠い……。




びしっ。

誰かが、俺の頭を叩いた。なんだよ。眠いんだよ俺。


「起きなよ。司祭様、来てるよ」


ゆさゆさゆさ。体を揺すられる。

うー、だりぃ。誰?ああ、アリスもといハンカチ屋か。いや嘘だろさっき寝たばっかり。



かつ、かつ、かつ。石の床を鳴らす、司祭様の高級な靴の音が、深く響く。


ああ、と、アリスの声が小さく聞こえる。

ん?ほんとにいるの?


「カイル君は、歴史に興味がないのかな?」



がばっ。起きた。ほんとにいた!!


どっ、と、クラス中に笑いが起きる。え、なに。



「ぶっ……わんわん君、おでこが真っ赤だぁ!」


リーナの、声。みんなも、笑う。



くっ、ちくしょう。またわんわん君って!!


いつか勝ってやる!そして、言うんだ。ちゃんと、ごめんって。



みんなの笑い声が、響く。わんわん君って。


俺、そんなに、犬みてぇだったかな。


兵士になって、父さんみたいに、みんなを守りたいのに。犬みてぇって。



「あの、司祭様。ひとつ、よろしいですか」


凛とした声が響く。ロザリー。何してんだよ。注目されたくないだろうに。


「許します。話しなさい」


司祭様が重々しく頷く。



「実は、わん…カイル君は、わたくしと同じようにリーナの家で、短時間ですがお手伝いを始めたのです。贖罪によるものなので、今日はどうかお見逃し頂けませんか?

わたくしと同じように、いずれ慣れますから」



わあぁっ!!ざわざわざわ。みんなの声が、方々から聞こえる。


えらいじゃん、わんわん。なんだ、やるわね、わんわん君。かわいいだけじゃねえのな、わんわん。ちゃんとあやまってるのね、わんわん君。



わんわんわんわんうるせぇ!!!



怒りたい。でも、怒れない。

右手がぴりぴりしてるから。


俺は、乱暴者じゃない。街を守る、兵士になるんだ。

悪いことは、ちゃんと償うんだ。



まだ、大事なことは……言えてないけどな。



「わかりました。ならばよいでしょう。しかし、学校の成績も、兵士の試験には影響することを、忘れないように」



くっ、そうだ。

紙は高い。授業の内容は、頭で覚えるしかないんだ。特に、この、一番眠い歴史の授業は。



俺は、自分の腕をつねりながら、司祭様の話を聞いた。

終わる頃には、左手の手の甲が真っ赤になっていた。





「おい、犬。おまえ、飼い主のとこで尻尾振って働いてるんだって?」



ざりっと、安物の靴底が地面を擦る。

教会の南側の広場でかまえを取りながら、俺を挑発してきた奴。鍛冶屋の三番目の子供、ザムだ。


家業を継ぐのは上の兄ちゃんがいるから、外で仕事を探さないといけない。

冒険者か、兵士か。運良くどこかで見習いになれたらいいけど、こいつや俺みたいな力自慢は、たいていどちらかになる。


つまりは、俺のライバルだ。


これまで、こんなこと言って来なかったのに。なんだよ。


「うるせえ!俺は犬じゃねえ!!」



ぶん、と、上段から木の剣を振り下ろす。

ザムは、剣の腹でそれを受け止める。が、どさっと地面にしりもちをつく。


あれ?こいつとは、力はおんなじくらいなのに。



「ぐっ……なんだよ!リーナのこと殴ったくせに、今更手伝いなんかしやがって!気に入られてぇんだろ!やっぱ犬だ!わんわん言ってみろ!!」



ザムの顔がちょっと赤くなった。悔しいのか?


「うるせえよ!おれは、おれは、わるいことはちゃんと謝るんだ!街を守る兵士になるんだから!!」



ふっ、と、ザムは口の片方を吊り上げて起き上がり、俺を睨む。

ぶん、と、剣を横腹に凪いでくる。俺は難なく受け止めた。

あれ?手応えが、違う。



「何言ってんだよ!もう半年も前のことじゃねえか!ご主人様に近づきたいだけなんだろ!?この色ボケが!兵士になんかなれるか!!」



がんがんがん、ザムは真っ赤になって何回も打ち込んでくる。

でも、あれ?勝ったり負けたりしてた相手なのに、なんか、軽く流せるぞ?


ていうか、なんでそんなにリーナにこだわんの?

お前も、ひそひそ悪口言ってたじゃねえか。



「……なぁ、お前もリーナのこと、いんらんだとかいんばいおんな?とか、よくわかんねぇけど色々言ってたと思うんだけど……なんでそんなにこだわるんだ?」



がん!ザムの蓮撃が、止まる。

切り結んだままの体勢で、じっとザムの黒い目を、見てみた。ゆらゆら、揺れている。


「……それは!ロザリーがついた嘘だったじゃんか!店に行ったらほんとにふつうだったんだよ!

あんな、か、かわいいんだから、尻尾振ってんだろお前!?気にいらねぇんだよ!!ふぬけってやつだ!おまえは、ふぬけ、だ!」



ぐぬ、と、口を引き結んでまた、ザムは剣を俺に振るう。

顔は、真っ赤だ。なんかちょっと涙目だ。いつも互角なのに、一撃も入んないからなのか、それとも。



「……おまえ、リーナのこと、好きなのか?」



ザムはついに耳まで真っ赤になった。

闇雲に剣を振ってくる。そんなんじゃ当たんねぇよ。



はあ。体、痛ぇんだけど。

しょうがねぇから、一撃でのしてやった。


今度、話、聞いてやろう。

うん、そうしよう。



周りのやつらが、手を止めてこっちを睨んでるのは、気のせいだ。うん。気のせいだ。


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