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忠告者2 月見英無

結局安眠なんて出来なかった。

君代先生のことが気になった、という理由も勿論あるのだがそんな理由は一割ぐらいで、残りの九割、つまり一番の原因は名無がなかなか寝かしてくれなかったからだ。

なかなか寝かせてくれなかったなんていうと何かHだが、実際にはそのようなことは全くなく、質問攻めから逃げられなかっただけだ。

君代先生の質問の後、僕はそのことについていろいろと考えたかったのだが、名無がそれを許してくれなかった。

考えようとすると質問され、また名無は自分のこともよく喋った。

僕は日本一の名無マニアになってしまったのではないか?というぐらい名無の情報を聞いた。

夜中の三時ぐらいで僕の眠気はピークに達し、僕の「明日も早いんで寝させてください」という土下座つきの言葉で何とか名無は引き下がってくれた。

そして今朝も七時起きだったから計算すると四時間しか寝ていない。

有名なナポレオンは一日に三時間しか寝なくても平気だったと昔読んだ伝記に書いてあったが、それは有名なナポレオンだからなせる業であり、凡人の僕には無理であった。

つまり、眠い。

昨日の疲れが全く取れていない。

今はお昼休みなのだが、食欲よりも今は睡眠欲だ。

僕はただ眠りたい……

「マコちゃん……マコちゃん……」

あぁ、誰かが僕の名前を呼ぶ。

しかしマコちゃんなんて言うのはあいつしかしない。

「マコちゃんってば。起きてよ」

「勘弁してくれよ。名無」

「……名無って誰?」

……あれ?違った?

いや、冷静になれよ、僕!

ここは何処だ?

学校だ。

僕は名無と同じ学校に通っていたか?

いない。というかやつは学校に通っていない。

それは昨日聞いた。

名無のわけがない。

今のが名無のわけが無い。

えっと、つまり今のは……

背中がぞくっと寒くなる。

僕はおそるおそる顔を上げた。

そこにいたのは僕の彼女の小宮山小鳥であった。

「あ、小鳥」

「『あ、小鳥』じゃないんだよ!誰!誰なの!?名無って誰なの!?マコちゃん!!」

何かここ最近多いような気がするなぁ。この展開。

その分小鳥の扱いに慣れてきたというわけだけど。

「寝ぼけて間違えただけだよ、小鳥。名無っていうのは勇さんの知り合いの人なんだ」

「ほ、本当に?」

「嘘じゃないよ」

そう嘘は吐いていない。ただし仲のいい知り合いというわけではないが。

「人使いが荒くてね、僕は高校生であるというのに深夜に普通に訪ねて来るとても困った人だ。その人のせいで僕は現在眠かったりする」

嘘は吐いていないが、とても本当のことを言っているとは言えない僕の発言。

軽い罪悪感を覚えるがそんなものを気にして入られない。

小鳥には悪いが、とにかく眠い。

さっさとこんな会話は切り上げて眠りたい。

「そうなんだ……それならいいんだけど」

「用は終わりかい?なら僕はさっきと同じように眠りにつきたいんだけど?」

「あ、ううん。用事終わってないよ」

冷静に考えればそうだ。

小鳥は用があって僕を起こして、僕が名無と勘違いをして今の弁解が生じただけだ。

用はまだ終わっていない。

眠いから頭が回っていないのだろうか?

いかんいかん。

小鳥には最近寂しい思いをさせているんだから、あまり冷たい態度を取るのは駄目だ。

それは小鳥を傷つけることになる。

僕は傷つくことも傷つけることも嫌いなんだ。

「で、用は何だい?小鳥?」

「えっとね、マコちゃんを訪ねてきてる人がいるんだよ」

「誰?」

「二年生の男の人だよ。小鳥の知らない人だった」

二年生というと一学年上だ。

僕に二年生の男性の知り合いはいるかというと、いない。

女性なら心当たりがいくつかあるのだけど……

「僕に二年生の知り合い(男性)はいないんだけどなぁ」

「でも、その人マコちゃんをご指名だったよ」

「それは違うマコちゃんだったんじゃないか?」

「そんなことないよぉ。綾瀬真を呼んできて言われたんだから。このクラスで綾瀬真はマコちゃんだけでしょ」

「そうだね」

ちなみにこの学校でも、綾瀬真は僕だけだ。

つまりは件の客は間違いなく僕を指名しているということだ。

僕に何の用事だ?もしかして生意気な下級生をとっちめてやれとかそういう……

「いやいや。僕そんなに目立った行動してないしね」

「?マコちゃん?」

「なんでもないよ。小鳥」

考えるのは嫌いだ。

そもそもこちらは寝不足で、まともな考えに至れるわけがない。

出たとこ勝負は嫌いじゃない。

だから……

「行ってくるよ、小鳥」

「行ってらっしゃい、マコちゃん」

大して考えもせずに、僕は呼び出しに答えた。

廊下に出て、呼び出した人物を探す。

……さて僕を呼んだ人物は何処だろうか?

「こっちだよ。綾瀬君」

僕の苗字が呼ばれたので、僕はそっちに顔を向ける。

そこには眠そうな目をした男子生徒が立っていた。

「何だい?わざわざ呼び出してやったっていうのに、その眠そうな顔は」

確かに僕も眠そうな顔をしていると思うが、しかし目の前の彼には言われたくはない台詞だ。それに呼び出したほうが眠そうな顔をしているほうが問題ではないだろうか?

まあ、いい。

初対面の人間にそのような細かいことを言えるほど僕の神経は図太くない。

「それはすいませんでした。それで僕に用があるそうですが、何ですか?」

「うん。ここじゃなんだから……人気の無いところに行こうか?」

「え?」

もしかして生意気な下級生を締めるという、やっぱりそれなのだろうか?

「君……変なことを考えているな」

「え?」

「安心してくれ。只単に話をするだけだ。一般人に聞かれては困るからね」

「一般人……まさか」

この人。無害そうな顔をしているが……

「僕の名前は月見英無ツキミエイム。察しの通り異常者だ」


月見っていう名前、どこかで聞いたような気がするがまあいい。

連れてこられたのは視聴覚室だった。

学校で使わない教室ベストファイブに入るだろう教室。

案の定その教室には誰も居なかった。

というか……

「あの……この教室って勝手に使っちゃっていいんですか?」

「大丈夫だよ。許可は取ってある」

「本当ですか?」

「嘘だと思うかい?」

確かにそんな嘘をつくメリットは無いが……

「まあ嘘なんだけどね」

「嘘なのかよ」

この人、僕並に嘘を吐くなぁ。

やりにくい。

「でもちょっと使うぐらいなら問題ないだろう。悪いことに使うんじゃないし」

「それはそうですけど」

「さて、お昼休みも限られているわけだからさっさと話を始めるか」

「はい」

さてこの月見とかいう人、僕に何の話があるというのだろうか?

「話というのは、君が今関わっている事件の話だ」

「関わっている事件、ですか?」

えっと、僕が今関わっている事件は……そんなものあったか?

素でわからない。

「人類災厄の殺人鬼を先生と共に追っているだろう?」

「あ、あぁ」

言われて思い出した。

まずいなぁ。名無と仲良くなりすぎて、彼女を追っているということを忘れていた。

まあ実際に追っているのは君代先生であって、僕はそれをサポートする程度なのだけど。

「言いたいことは一つだけ。この事件、君は降りたほうがいい」

「……」

「別に君の身を案じてこんなことを言っているんじゃない。このまま君がこの事件に関われば、必ず結果は悪いものになる」

この人……

「それは君にとっても、先生にとっても、そして人類災厄の殺意にとってもだ。君がこの事件を降りれば、おそらく事件はこれ以上進むことが無い。君が関われば、この事件は加速度的に進むだろう。それはよろしくない。覚悟を決めていない先生にそれは全くよろしくないんだ」

この人は、まずいな。どうしてだ?どうして気がつかなかった?

勇さんは僕と同じで、更にその技術が僕よりも上だから天敵と認識していたが……

この人は……

「だから君はこの事件から降りたほうがいい」

「それは命令ですか?忠告ですか?」

「忠告だよ。それを聞く必要は無いけれど」

「なら、聞きません」

僕はこの事件に興味がある(忘れていたけど)。この事件の結末に興味がある。

それは名無が死のうが、君代先生が死のうがどちらの結末になろうとだ。

僕はその結果を見届けたいと思うんだ。

「そうか」

月見さんは意外とあっさり僕の意見を聞いた。

それが彼の生き方のようだ。

決して自分の意見を押しつけたりはしない……むしろあれは彼の意見ではない。

だからこの人は、僕の本当の意味での、天敵なのだ。

「まあ、それならそれでいい。仕方がないから他のアプローチをしよう」

彼の話はこれで終わりのようだ。

驚いたことに、恐ろしいことに、彼は僕に対して自分のことを名前以外何も語っていなかった。

徹底された、傷を残さない生き方。

僕はそれを恐ろしいと思った。

「それじゃあ、僕の話はこれで終わりだ。君から何か聞きたいことはあるかい?」

この人のことを聞いても、おそらく彼は答えてくれないだろう。

興味もないし。

さて、それならば……

「えっと……月見さんでしたっけ?」

「うん。そうだけど」

「月見さんはこの事件をどの程度知っているんですか?」

「あらかた」

「そうなんですか?僕はこの事件、関わってはいるんですがその中身に関しては何もわかってはいない状態なんですよ」

「へぇ」

「君代先生と名無との間に何かあるようなんですけど……それもわかっていない状態です。出来ればそれを教えてもらいたいんですけど」

「名無というのは、人類災厄の殺意のことかい?」

あれ?その情報は知らないのか?

それならばあまり有益な情報は得られないかもしれないな。

まあ突然現れたこの人が有益な情報を持っているとも考えづらいか。

「はい。そうです」

とりあえず、質問には正直に答える。

「へぇ、それは初めて聞いたなあ。君、人類災厄の殺意と仲がいいのかい?」

「先に質問をしているのはこちらのはずですけど」

「いいじゃないか、それぐらいの質問。答えてくれてもさ」

「……それなりです」

「それなりか。なかなか君は答え方というのを知っているな」

「もういいですか?僕の質問に答えてくれるんですか?くれないんですか?」

「教えても良いけど、その情報に対して君は何を支払ってくれるんだい?」

対価を要求してきたか。

ゆるりとしているけど、この人本当に嫌な人だな。

「僕は先程人類災厄の殺意の名前を教えました」

「成るほど」

「更には僕と名無の仲がそれなりということも教えました。それらの情報と対価の情報でいいです。別に情報を得られなくてもいいですから」

この事件に必要な情報なのならば、それは必然的にどこかでわかることだろう。逆に必要のないものであれば、僕も知る必要もない。

「君の切り替えしは実に面白いね。興味深い。いいよ。先生と人類災厄の殺意との関係を教えよう」

「それはどうも」

どうしてかはわからないが、教えてくれる気になったらしい。

この月見とかいう人、いまいち信用が出来ないから、その情報が真実かどうかちゃんとした判断をしないといけないな。

「どこから話そうか。そうあれは本当に昔の話。僕がまだ小さいときの話だね。そのとき君代先生は君代先生じゃなかった」

「???」

それは何の哲学だろうか?

僕はそういう難しい話が好きではないのだ。

「わかりにくかったかな?もうちょっと前の話からすると……君代先生は双子だった」

「双子」

またか。福田姉妹も双子だし、僕の周りは意外と双子率が高いようだ。

「国生君代・好代と言えばその時代、知らぬものはいないというぐらい有名な姉妹だったらしいよ。両方とも強い力を持っていたからね」

「それは、確かに」

君代先生の昨日のあの力は脅威だ。

名無はそれ以上かもしれないが、名無以外はあの攻撃を避けることは出来ないだろう。

トモも無理と言っていたし。

「さらに、好代さんの方の力は威力的には世界最強レベル。もっとも彼女はその力を隠して生きていたんだけどね。わかるだろ?大きな力を持つものは何処に行ったって爪弾きにあうんだ。それが異常者の世界であっても、ね。それを彼女はわかっていた」

通常ではないこと、普通ではないこと、それが異常。

その中でも大きすぎる力を持ち、異常者の中でも異常と認識される。

そういうことなのだろう。

「その好代さんが最近では君代先生で、君代さんが好代さんになった」

「???」

だから、それがよくわからないのだけど。

「簡単に言えば、入れ替わったんだ。それを片方が望んだ」

入れ替わり。それは推理物ではよくあることだが……

「何故そんな事を?」

現実ではそんなことはない。

推理物で入れ替わりを行うのは対象を欺くためだ。

この場合誰を欺くためにそんな事を行ったのだろうか?

「国生家っていうのはね、代々国を守る仕事を行ってきたんだ。しかしそれは一人だけしか該当しない。そしてそれは君代さんがその任に就くのだったのだけど……皮肉だね。任に就かない好代さんの方が大きな力を持っていた。その事実に君代さんは嫉妬したんだね。自由奔放に生きて良いと言われ、更には自分よりも大きな力を持っている好代。こんな不平等があって良いわけがないと。だから……」

「だから運命を入れ換えた、と」

「そういうこと」

つまり今の君代さんが好代さんで、好代さんが君代さん……

大きな力を持っているのは好代さんだから、今の君代先生は……あれ?混乱してきた。

「まあ、そこまではわかりました」

わかってないのだけど、話を進めるために一旦打ち切り。

「でもそれと、名無との関係はまったく無いのではないですか?」

「前情報だよ。先にこの情報を入れておかないと、事態を正しく認識することが出来ないんだ。いいかい、今の君代先生は好代。大きな力を持っている人間だ。そこを間違えないでもらいたい」

「はぁ」

わかったような、わからないような。僕は曖昧に返事をして頷いた。

「君代先生と人類災厄の殺人鬼との関係……それは復讐するものとされるものとの関係だな」

「……」

あぁ。そうか。成るほど。

僕は今の一言で全てを把握した。推測の域ではあるけど。

推測なので念のため月見さんの次の言葉を待つ。

「君代先生と好代先生が双子だって言う話はもう聞いていると思うけど、彼女たちは二卵性ではなく一卵性双生児だった。簡単に言うと本人たちでなければその違いを見分けるのは困難であった」

「それは当然です。でないと入れ替わりなんて出来ない」

「そう。本人たち以外気付かない。たとえ彼女を殺したものだろうとその違いを見破ることは出来ないだろう」

「……」

「国生好代……元、国生君代を殺したのは人類災厄の殺人鬼なんだ」



その後もある程度君代先生についての情報を得て、月見さんとは別れた。

結局月見さんのことについては何一つわからなかったが、別にそれでも構わない。

彼と僕が敵対関係にならない限り、僕はそれで構わなかった。

さて、僕は考えなければならない。

月見さんが僕のところに訪れた理由、それは二つあった。

一つは彼が言ったとおり、僕をこの事件から引かせるということ。

そして二つ目は……

「……まったく何て人だ」

おそらく全ては計算のうちだったのだろう。

僕がこの事件から引かないのも計算のうち。そして僕があのような発言をするということも計算のうち。

飄々としていながらも、計算高く、何を考えているかまったくこちらに悟らせない。

絶対に敵対してはならない人だ。

出来ることならばこの先関わりたくない人物なのだが、そういう人物に限って関わることになるのはきっと僕の運がないからだろう。

さて、僕が今いる場所は屋上。

授業をサボって一人屋上で黄昏ているのには勿論理由があった。

僕は他人の意思で動くのは好きではないが、それ以上に曖昧なものは嫌いだし、更には前に進もうとしない人間は大嫌いだった。

その感情は恐怖にも勝る。

だからここに来た。

そして僕がここで待っていれば、必ずあの人物もここに現れるだろう。

しかし、屋上って開放していいものなのだろうか?

いくらフェンスが取り付けられていたって、こんなもの簡単に乗り越えることが可能だ。

そして簡単に死ねる。

まあ立ち入り禁止にしたところで、それは変わらないか……

ぎー。

背後から扉の開く音。

来た。

「綾瀬!手前ぇ授業サボってこんなところでなにやってやがる!」

君代先生だ。いつもの君代先生だ。

僕は振り返って、そして軽い挨拶を交わした。

「こんにちは。君代先生」

「こんにちは。じゃねえよ!何だ?お前は。私のクラスの生徒が授業をサボってどうなったかまさか知らないわけじゃないだろうな!?」

知らないわけない。

それは知らないほうが良かったが、あまりにも衝撃的な話だったので印象深く僕の心の中に残っていた。

その内容は今回は割愛させてもらう。

関係ない話だからね。

「君代先生……話があります」

「あぁ!私もあるぞ!先に手が出るかもしれないけれどな!」

「真面目な話です」

僕は空気を変えた。

怒られるために屋上で待っていたのではない。

君代先生と話をするためにここで待っていたのだから。

「月見さんという人に聞きました。君代先生……あなたは好代さんですね?」

「……」

「答えてください」

「ちっ、月見の野郎余計なことを言いやがって。あぁ、そうだよ。私は好代だ。元な。今は君代だ。それを間違えるなよ」

「そんなことは、まあどうでもいい話です」

「答えさせておいて、どうでもいいか?」

「はい。どうでもいいです」

その情報は既に知っていることだから。

聞くのが重要ではない。言わせるのが、再認識させるのが重要なのだ。

「それで?私が好代だから何なんだ?珠美のように私の元を去るのか?私はそれでも……」

「結論を急がないでください。時間は有限ですが、僕らの使える時間は捨てるほどあるんです」

「綾瀬、仮にも今は授業中なのだが」

そんな発言に何の意味も無い。

君代先生にはそれが意味あることかもしれないが、今の僕には必要のない言葉だ。

故に無視する。

「なな……いえ、人類災厄の殺意との会話。覚えていますか?」

「……」

「彼女はあなたのことを死人と言った。成るほど。あなたが双子ということを知らないのならその発想に行き着くのはごく普通のことです。まあ殺意ですから双子という概念も知らないのかもしれませんが」

「何もかもを、聞いたわけか?」

「おそらく、全てを」

君代先生を**だけの情報は、月見さんから教わった。

勿論そのために先生を呼んだのではない。

過程は似通っているかも知れないが、結果はまったくの正反対だ。

そこを僕自身も踏まえておかなければならない。

「そしてもう一つ。人類災厄の殺人鬼がこう言ったのを覚えていますか?」

「……」

「彼女は言った。『相変わらずだね。凄い威力だよ』と。好代さん、あなたあの時君代さんと同じ能力を使いましたね」

好代さんの方は君代さんとは比べ物にならないほど大きな力を有していると聞いている。

それなのに、あそこで名無は『相変わらず』だと言った。

相変わらずというのは既にその攻撃を知っているという意味。

つまりあの時行った攻撃は、好代さんの力ではなく君代さんの力だったというわけだ。

「まず一つ。何故あの時君代さんの攻撃方法で彼女を攻撃したのか?それを訊きたいのです」

「綾瀬……お前も人間なのだからわかるだろ?」

「わかりませんよ」

本当にわからない。

他人が、人間が何を考えているかなんてわかるはずがない。

今回のことに限ってはわかりたくもない。

「好代さん。あなたの力がどれ程のものなのか、僕は知りませんし興味もありません。ただわかっていましたよね?人類災厄の殺人鬼には君代さんの攻撃が通用しなかったことは。わかっていたのにどうしてあの時君代さんの攻撃をしたのですか?」

「……私はただ、一度で良いから君代の攻撃を奴に当てたかっただけだ」

「嘘ですね」

いや、その理由もないわけではないのだろうがそんなことを聞きたいのではない。

「好代さん……いえ、君代先生。あなたは好代になることを恐れていますね」

「な!」

「あなたは長い間君代として生きてきた。性格、癖、その他諸々、君代になるためにそれらを君代さんに合わせて生きてきた。果たして、その自分がこの先好代として生きていけるのか?まったく違う人生が不安なんでしょ?」

もう選択肢は他に残されていないというのに。

彼女が先に進むには一つの選択肢しか残されていないというのに。

それでも彼女は進まないという最悪の、つまりは選択すらしないつもりなのだろうか?

「あなたは君代として勝負をつけたかった。そうすれば今と変化せずに日常が過ごせるから。でもね、それでどうにかできる相手じゃないんですよ。相手は明らかに君代先生よりも強い。だからね、もう一つの質問です。人類災厄の殺意……彼女とやり合うんですか?やり合わないんですか?そして好代さんとして相手にするんですか?しないんですか?」

「質問が二つだ、綾瀬」

「どうでもいいですよ。そんなのは酷くどうでも良いです。この質問、何も早く答えろというわけではありません。時間を持って答えてもらって構いません。ただし、答えによっては僕もこの事件降ろさせてもらいます。自殺願望は、まあ今は持ち合わせてはいないもので」

「言うじゃないか」

「話はそれだけです。では僕は気分が優れないので先に帰ります」

今の君代先生なら、見ているだけでも腹が立つ。

僕は先に進もうとしない人間は大嫌いなのだ。

とりあえず、僕は月見さんの思惑通りに動いた。

そして今日はもう疲れた。

君代先生が何を言ってこようが、僕は学校を後にすることにした。

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