深夜の語らい 綾瀬真・名無
才能というのは平等に分け与えられるものではない。
それはこの世に生れ落ちた時から不平等なものだ。
たとえ同じ顔立ち、同じ身体をしていたとしてもそこには必ず差が出る。
私たち姉妹もそうだった。
私は才能がある者、姉は才能が無いものであった。
決して自慢するために言っているわけではない。
それは明らかであった。
私はそれを巧妙に隠したため親はその事実に気づきはしなかったが、私と姉はその事実に気づいていた。
そしてそのことを呪った。
姉は才能が無い自分を呪い、私はそのシステムを呪った。
私たちは生まれたときから不平等で、そして成長していくにつれてその差は顕著に現れた。
『虹色』の国生君代。『色彩』の国生好代。
『色彩』は私の秘密の能力だったけど、双子の姉である君代にはその能力は教えてあった。
君代と私は姉妹だから。
私が家族と認めるたった一人の人間であるから。
私は親を家族とは認めない。
あいつらは私たちを、いや君代を道具としか思っていない。
国生家の繁栄を続けるための道具。国生家を後世に残していくための道具。
国を、護るための道具。
そのための人材。
国生家の長女に生まれたが故の宿命。不幸。
逆に私は放置されて育てられてきた。
好代。好きに生きればいいという意味を込めて付けられた名前。
自由に生きろといえば聞こえは良いかもしれないが、それは完全な放置であった。
つまり私が何をしようがどうでもいいのである。
親子の縁なんて無いも同然。
名前だけの親子。
伝統ある異常者の家系。狂った家系。国生家。
十六歳、高校二年生の秋。
私は大学に行くにせよ行かないにせよ、高校を卒業したら国生家を出る、その決意をしていた。
姉の苦悩を知っていながら。
色に惹かれた。
赤に情熱を感じ、青に冷静や寒さを感じ、黄色に活力を感じ、緑に生命を感じ、白に無を感じ、黒に恐れを感じた。
単純に色が好きだった。
世界が色づいていることが好きだった。
だから私は美術部に入った。
作品を残そうとか、芸術家になりたいとか、そういう気持ちがあったわけじゃない。
ただキャンパスに色を塗ることが好きで、ただそれだけで美術部に入ったのだ。
自分の思ったように色が塗りたくて、それだけで私は満足して……
他人の意見なんてどうでもよかった。
わが道を行く私。何か格好良い。
今日もまた一人美術室に残って、私は好きな色を塗るのであった。
「ふん。またこれは、わけのわからない絵だな」
「うん?あぁ、君代か」
いつの間にか君代が私の絵を覗き込んでいた。
「これは何かをイメージして描いたのか?それとも……」
「いつも通りよ。何も考えずにただ塗っただけ。綺麗でしょ?」
「おかしいな。私と好代は双子のはずなんだが、感性はどうも違うようだ」
「あ、今考えた。実はこれ虹をイメージして描いたの」
「こんな毒々しい色の虹があってたまるか!だいたい今考えたって言ったじゃないか!まったく、あんたは本当に適当なんだから」
「人生適当ぐらいがちょうどいいのさ」
「……はぁ」
君代がため息をついた。
それは私に対して呆れているのか、それとも別の意味があるのか、それはわからなかった。
双子だって相手の心まではわからない。
そして私は再び絵を塗り始めた。
ぬりぬり。
私が色を塗って、君代がそれを見ている。何も言わず。
そんな時間が三十分ぐらい続いた。
「不思議なものだな」
「うん?何が?」
「好代が虹と言ってから、毒々しさは変わっていないのに、何だか私もこの絵が虹を表しているように見えてきたよ」
「あ、今はウミウシをイメージして塗っているから」
「虹じゃないのかよ!?ていうかウミウシ!?随分マニアックなものをイメージしているな!」
「あれも綺麗ジャン」
「はぁ。お前といると、何か私は疲れるよ」
「他の人にもよく言われる」
この間は世観にも言われたなぁ。
私はあの男といるほうが疲れるのだが。
きっとお互いにそう思っているのだろう。多分だけど。
「よく言われるなら直せよ」
「これは性格だよ。直したら私じゃない。私は私のまま人生を渡っていくのさ」
「……その考え、羨ましいよ」
「……」
これは……
君代の愚痴タイムの始まりだ。
おそらく今日ここに来た目的はこれだったのだろう。
好代と名付けられた私はいつでも自由であるのだが、君代と名付けられた彼女は違う。
彼女は家を継がなければならない。
そのための修行も毎日しているし(そんなことをしても戦闘の実力は段違いで私のほうが上だけど)、国生家は音を操る能力を使用するので吹奏楽部に入れさせられたりもしている。
「私は好代とは違う。私は私のまま人生を渡ってはいけない。そういう運命だ」
「そうだね。そうかもしれない」
「私は、私はお前が羨ましい」
「何が?」
「全部、かもしれない。お前のその気楽な性格も羨ましいし、自由という運命も羨ましい。そして、その才能も羨ましい」
「私はそんなに芸術の才能は無いよ」
「芸術の才能じゃない」
「……うん。わかっているよ」
わかっていながら、はぐらかしたのである。
私たちは姉妹なのだからそれぐらい察して欲しいものだ。
「戦いの才能だよ。私と好代ではそれが全然違う」
「そこまで違いは……」
「あるよ。好代、私をバカにしているのか?『色彩』の能力を使えるお前が、私より戦闘能力が劣るわけがないだろう?それに好代……『虹色』も使えるんだろう?」
「……それはいつ気づいたの?」
「つい最近だよ。発動しているのを偶然見てしまった」
しまったな。
君代にはその事実を出来るだけ伏せておきたかったのに。
そう、私は出来るのだ。君代の殺意『虹色』を同じように具現化することが出来るのだ。
何故かはわからない。姉妹だからかそれとも別の理由があるのか。
それはわからないが、私は『虹色』を具現化することが出来る。
隠しておきたかった。
特に君代には。
「私は『色彩』を使えないのに、好代は『虹色』が使えるんだな。はは、本当になんて才能の差」
「君代……」
「ねえ、好代?どうして私なの?」
「え?」
「国生家を継ぐのがどうして私なの?」
「それは……」
それは先に生まれてきたからだ。
君代の名を得たからだ。
好代に生まれなかったからだ。
どれも簡単な答えであるけど、私はそれを口に出すことが出来なかった。
「才能が無い者が国の為に働き、才能がある者は自由に生きることが出来る。そんなのおかしいと思わない?ねえおかしいわよね?」
「……」
「ねえ、好代」
わかっていた。
姉の、君代の苦しみは充分にわかっていた。
自由ではないという苦しみ。
私の方が才能があるという苦しみ。
自分に才能が無いという苦しみ。
私が存在するが故の苦しみ。
充分に苦しみはわかっていた。
そして私はそれから逃げようとしていた。
一人だけ逃げようとしていた。
だが、私たちは双子の姉妹であった。
私が君代の苦しみをわかっていたように、君代は私が逃げようとしていたことを知っていたのだ。
君代の目が全て語っていた。
あぁ、断ることなんて出来やしない。
「私たち、運命を交換しましょう」
僕は家に帰って、柚子の作ったおいしいご飯を食べて、トモと他愛のない話をして、就寝するために自分の部屋に向かった。
あれから僕は今日起こったことについて一切何も考えなかった。
疲れたのだ。
そもそも今日はいろいろなことが起こりすぎた。
人類災厄の殺人鬼を探すつもりが、その殺人鬼はもう死んでいて、けれど殺意はまだ動いていて、勇さんはそれを知っていて……
あぁ、思い返すだけで億劫だ。
今日は、今日だけは何も考えずにこのまま寝よう。
現在夜の九時。
高校生が寝る時間にしては少し早いが、それもまあいいだろう。
今は何も考えたくない。
僕は布団に潜り目を閉じた。
どうか僕に穏やかな眠りを……
コツン。
「……」
コツン。コツン。
……誰かが扉を叩いている。
いったい誰だ?トモだろうか?
いや、トモはノックだとかそんなデリケートなことはせず、何も言わず僕の部屋に入ってくる。
トモではないとすると柚子だろうか?
柚子はトモと違い僕の部屋に入るときは、ちゃんとノックをしてくれるのだが……
?そもそもノックの音がおかしいような気がする。
ノックにしては高すぎる音。
拳で扉を叩いている音ではない。
コツン。コツン。コツン。
今度は三回連続で叩かれる。
その音を聞いて僕はようやく思い知った。
この音は扉から発せられているのではなく、窓の方から発せられていることに。
僕の部屋は二階に位置する。
つまり窓にこのような音がするということは、誰かが小石のようなものを窓に投げているのである。
誰がそんなことを?
小鳥はそんなことはしないだろうし、他に知り合いは……勇さんぐらいか。
勇さんならそのようなことをするかもしれないが……いやそんなくだらないことはしないか。
結局こんなことをする知人が思い浮かばなかったので、窓から犯人を見ることにした。
「……あ」
犯人と僕の目が合ってしまった。
犯人は僕と目が合うと、嬉しそうに手なんて振った。
何をやっているんだ?こんなところで?
というかどうして僕の家がわかったんだ?
そのような疑問を氷解させるため、つまり彼女と話をするため僕は窓を開けたのだが、彼女は何を勘違いしたのだか、そこから僕の部屋を目掛けて跳躍してきた。
「げっ」
普通の人間が跳躍したところで二階にある僕の部屋まで到達できるわけが無いのだが、如何せん彼女は普通の人間ではなかったため、いとも簡単に僕の部屋に侵入してきた。
そして気さくに言った。
「ういうい。久しぶりだね、マコちゃん」
「今日あったばかりだよ」
侵入者は名無であった。
名無はけしからんことに土足で僕の部屋に侵入してきたため、僕はそれを咎めた。
でも名無は靴を脱いだり履いたりするのは面倒だ。そもそもアメリカなどでは土足で家に上がるではないかと抗論してきた。
だがそんな名無の主張もここは日本であるから通らない。
結果名無には窓に座ってもらい、床には足をつけないでもらうことにした。
「それで僕にわざわざ会いに来た理由は何なの?」
「ういうい。それはマコちゃんに会いたかったからさ」
名無のように可愛い女の子にそんなことを言われれば嬉しいのであるが、しかしそれは事実であった場合だ。
「それで僕にわざわざ会いに来た理由は何なの?」
「ういうい。それはマコちゃんに会いたかったからさ」
「……それで僕にわざわざ会いに来た理由は何なの?」
「ういうい。それはマコちゃんに会いたかったからさ」
……埒が明かなかった。
「名無、僕は本当の理由が知りたいのだけど?」
「だから、マコちゃんに会いたかったからなんだけど?」
僕が何で何度も理由を聞くのかわからないように、首を傾げながら言った。
案外本当にわからないのかもしれない。
彼女は人の形はしているものの、殺意だ。人間ではない。
人間のように打算などまったく考えていないのかもしれない。
とすると、本当に僕に会いたかったから来たのだろうか?
そう考えたら、何だか急に恥ずかしくなってきた。
「うい?マコちゃん、顔が急に赤くなったけどどしたの?何か悪い物でも食べた?」
「な、なんでもないよ」
顔にも出ていたらしい。
この流れはよろしくない。
「わかった。僕に会いに来た理由はそれで良しとしよう。それでこの家はどうしてわかったの?」
ある程度予想がつくが……
「うい。仇に教えてもらった」
勇さんが原因だった。
やはりと言えば、やはりか。
「意外だったね。まさかマコちゃんが仇と知り合いだったなんてね」
「友達のね、お兄さんなんだ。じゃなければ関わりたいとは思わない」
本心である。
トモのお兄さんじゃなければ関わりたくはない。
いやトモのお兄さんであったって関わりたくは無い人物か。
「マコちゃんと相性悪そうだもんね。何て言ったっけ?」
「勇さんの名前?風間勇だよ」
「ういうい。風間勇。まさかあんな人間がいたなんてね。私のマスターもそれは想定外だったよね」
そうだろうか?
僕は名無のマスターである綿貫鶴君と会ったことがあるわけではないから、これはあくまでも推測であるが、僕は案外綿貫鶴君は風間勇のような存在を想定していたのではないかと思う。
想定していて、そしてあえて対策を立てなかったのだろう。
それはきっと、自分を誰かに裁いて欲しかったから。
おこがましい自分を誰かに裁いてもらいたかったから。
おこがましい。
僕は、綿貫鶴君と会ったことはない。
会ったことはないが、この名無という殺意を視て思った。
僕と綿貫鶴君は似ている。
僕は自分の殺意を視ることは出来ないが、もし視認出来るとしたなら名無と似たような殺意をしているのかもしれない。
まあどう頑張ったところで視認出来ないのだけどね。
「ういうい、マコちゃん?」
「うん?なんだい?」
マコちゃんはやめて欲しいのだけど、このタイプはどう頑張って説得をしようとしても聞いてくれないので諦めた。
「今日約束したじゃない。最中食べに行こうよぉ」
「確かに約束したね」
だがあれは暇な時に奢るという話だったはずだが。
「男は約束を守る生き物だって、マスターが言ってたよ」
「いや、僕もね約束を守りたいのだけど……」
「何?約束を破るの?殺すよ」
うぅ、怖いなぁ。
ここで答えを間違えれば僕は名無に殺されることだろう。
「生憎お金が無い」
事実無い。
君代先生に言って日払いにしてもらえばあったのだけど、言ってないから以前お金は無い。
いや、最中ぐらいは三百円あれば買えるかもしれないが、しかし今から最中を買いに行くのもだるいし、何せもうお金がないと言ってしまった。
さて、名無は納得してくれるだろうか?
「ういーん。お金が無いんだったらしょうがないね」
納得してくれた。
「ごめんね。今度またお金があるときにということで」
「お金ってあれだよね?確か人を殺すと手に入るんだよね?」
「それは違うだろう」
「違うの?」
名無が今まで生きてきた世界ではそうなのかもしれないが、少なくとも普通といえる世界ではそんなことは無い。
「通常は仕事をすると、つまり働くとお金は貰えるんだよ」
「うい。そうなの?でも私の仕事は人殺しだからあながち間違いではないよね?」
「そうかもしれないけど……」
僕はその世界を詳しくは知らないし知りたくもないのだけど、人殺しの世界というものはあるのかもしれない。
だけど僕の周りにはそんな世界は無い。
僕は異常者だけど正常者の世界に生きているのだ。
いままでも、そしてこれからも?
「名無は人を殺すとお金が貰えるの?」
「昔はね。マスターがいるときは人を殺すとマスターにお金が入っていたよ。今はいくら殺しても入らないけど」
つまり綿貫鶴君は何かしらの組織から人を殺すことによってお金を得ていたというわけか。
しかし綿貫鶴君が死にその組織とのラインはどうやら切れたようで、今はお金が入らない。名無と変な組織の関わりは無いとみて良いだろう。
「ういうい。マコちゃん」
「ん?何?」
「最中を食べに行けなかったけど、暇だから何か話そうよ」
「何かって……」
「それじゃあ、お互いのことを聞き合おう。交互に」
「何で?」
「だって私、マコちゃんに興味があるし」
そんな行為、まるで人間じゃないか?
名無……作られた殺意。作られた人格。
人間と彼女。いったい何が違う?
「何だかね、顔も性格も違うんだけどさ……マコちゃんとマスターってどこか似ているんだよね。何が似ているんだろう?ういー、わかんないけど、だからもうちょっとマコちゃんのこと知りたいなって」
「いいけどさ、僕は名無のマスターのことについても知りたいから、それについても質問してもいいかな?」
「いいよ」
「そう。それじゃあ、どっちから質問を開始する?」
「そんじゃね、私」
「自己中だね、名無は」
「いいじゃん。時代はれでぃふぁーすとさ」
「いいけどね」
レディファーストの発音はダメダメだけどね。
「ういうい。それじゃあ質問だよ。マコちゃんはさ、私のこと怖くないの?」
「怖いよ」
「あれ?怖かったの?その割には私との対応が普通じゃないかな?」
「基本的に僕は人間が怖いからね。だから名無も怖い」
「うい?それって私を普通に見ているということ?」
「そうだけど?」
それが何だというのだろうか?
「私は殺意で人殺しだよ」
「うん。そうだね」
「何百人という人間を殺してきた」
「へえ」
「怖くないの?」
「怖いよ」
「それは人間として怖いんでしょう。殺人鬼としては怖くないの?」
「あぁ、そういうこと」
理解するまで時間がかかってしまった。
「人殺し、ねぇ。実は僕、今日始めて人が殺される瞬間を見たのだけど……」
「うい?誰?」
「ほら、あのファーストフードで……」
「ういうい。あのしつこかった男ね」
「そうそう、彼だ。話を戻すけど今日僕は初めて人が殺されたのを見た。それで思ったんだけど……あんまり酷くない」
「あんまり酷くない?」
僕は今まで人を殺すということは非常にいけないことだと考えていた。そしてタブーにしてきた。
しかし実際に人が死ぬのを見て思った。
なんだ。たいしたこと無いな、と。
あれなら僕や勇さんが今までやってきた方が断然に酷い。
人の心を壊すほうが酷い。
……あれ?
僕は、何時、人の、心を、壊した?
マカベ君の時か?
でもあの時は完全に壊さなかったし、その後君代先生がどうやってか彼の記憶を消した。
結果マカベ君は何事も無かったかのように今までの生活に戻ったはずだ。
そんな生ぬるい結果なんかじゃなくて、もっと徹底的に人の心を壊したことが……
僕は……
「よくわからないけど、怖くないならまぁいいか。ういうい。それじゃあ、そちらの質問どうぞ?」
「あ、僕の番か」
ちょうど良い感じに名無が僕の意識を引き戻してくれた。
昔のことを思い出そうとすると、どうしてか僕はいつもこうなる。
失われた六歳ごろの記憶、それが関係しているのだろうか?
しかし今考えるのはそんなことではない。
さて、名無に何を質問しよう。
「くだらないことでもいいかい?」
「うい。全然OKだよ」
「名無の今の髪型ってポニーテールだよね?」
「そうだね」
「ツインテールにも出来るかい?」
……凄いくだらないことを訊いたなぁ。
「うい、出来るよ。見たい?」
「うーん、そうだね。見たいかな?」
「ういうい。もしかしてマコちゃん、ツインテール好き?」
「嫌いではないね」
好きでもないが。
僕のこの質問は単純に興味があってのことだ。
名無がツインテールにするとどんな感じかなっていう興味。
「でも、今はゴムが一つしかないからね。くくることは出来ないよ」
「そうか」
それは残念。
「うい。今度会う時にでもツインテールにしてくるよ」
「それは楽しみだね」
しかし今度、か。
名無の中では僕らはまた会うことになっているのか。
いや、僕も名無といる時間が楽しくないわけではない。
ただ、どうか君代先生と一緒にいるときには出会いたくは無い。
君代先生のあの憎悪。
そして名無の発言。
この二人には絶対何かがある。
君代先生は単に名無が危険だから排除しようとしているのではない。
そんな態度じゃない。あれは。
君代先生が名無を追う理由。
名無はそれを知っているのだろうか?
とりあえず質問してみるか?
次は名無のターンであるけど。
「それじゃあ私の番だね?マコちゃんの趣味って何?」
「お見合いかよ?」
「いいじゃない。何訊いたってさ」
僕がくだらないことを質問したせいだろうか?
もっとこう駆け引きに満ちた会話をするのかと思いきや、やっている会話はグダグダのまるで普通の会話だった。
まあいいけどね。
「しかし趣味ねぇ」
僕に趣味などあっただろうか?いや無い。
趣味と言えるだけ没頭するものは僕には無い。
読書はするけど趣味といえるほどは読まないし、音楽は聴くけど趣味といえるほど聴かないし、ゲームはするけどゲーマーでもないし……
無趣味だね、僕は。
だけどそれで名無に納得してもらえるか?
よし。名無が納得するようにちょっと難しく言おう。
「趣味は、そうだなぁ……趣味と言われることをしないことかな」
「随分哲学ぽく言うけど、それってただ趣味がないということ?」
「そうとも言うかな」
「無趣味なのかぁ。マスターは初対面の人と話すときはまず天気の話、趣味の話、そんで殺人の話をするのが普通だって言ってたのになぁ。うい。これじゃあ話が膨らまないよ」
「明らかに殺人の話は間違っているだろ?」
そんな一般人はいない。殺人をした時点で一般人の部類に入らない。
綿貫鶴君。やはり異常な人間か……
「ういうい。そういえばマスターも特に趣味はないと言っていたっけ?」
「へぇ」
ますます僕と似ているというわけか。
「ちなみに私の趣味は食べ歩きだよ」
「へぇ」
人殺しと言うのではないかとドキドキしたが、意外と普通の趣味だった。
「特に甘いものが好きなの。チェックしといてよ少年」
「何をチェックするんだか……」
名無のターンはこれぐらいでいいかな?
「そろそろ僕の質問に入っていいかな?」
「ういうい。どうぞ」
僕が質問したいのは君代先生と名無との関係だ。
君代先生と名無……きっと彼女たちには何らかの関係がある。
僕はそれを知りたいと思うのだけど、はたして名無はそのことについて話してくれるだろうか?
まあとりあえず質問を。
「名無と君代先生って知り合いなのか?」
単刀直入に訊ねてみた。
「君代先生って誰?」
あれ?やっぱり知らないのか?
おかしいなぁ。あの時は顔見知りのような対応をしていたのに。
「ほら、今日僕と一緒に名無を追っていた女の人だよ」
「うい。そういえばそんな名前で呼んでいたね。思い出したよ。あの怖いお姉さんのことだね。ういうい。私もあのお姉さんにはびっくりしたさ」
「びっくりって?」
確かに凄い形相で名無を睨んでいたけど……
「世の中にはおかしなことがあるよね。殺意である私が言うのも変な話かもしれないけれど、それでもあれには驚きだよ。まさか……が……返るなんてね」
「え?今何て?」
あまりにもおかしな単語が飛び出したためか僕はその単語を聞き逃してしまった。
いや、脳が拒否したのかもしれない。
だって、そんなことはない。
そんなことあるはずが無い。
「死人が生き返るなんてねって言ったんだよ。あの怖いお姉さん、私確かに殺したもん。そしてあの能力だってちゃんと覚えている。私が殺したから復讐に来たのかな?ういうい怖い話だよ。死人は死んでいればいいのにね」




