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護衛者 竜花

やはり勇さんに人類災厄の殺人鬼との関係を聞きに行くことになった。

それは僕としても知りたいものであるけれど、賭けてもいい。風間勇は絶対に話さない。

勇さんは嫌な人だから、知りたいと僕らが思えば教えてくれないだろう。

僕らが知りたくない態度を取れば逆に教えてくれるような気がするのだが、僕らが勇さんに会いに行く理由が殺人鬼との関係を知ることだから、絶対に教えてくれないだろう。

……教えてくれなかったら、果たして君代先生はどういう態度を取るだろうか?

嫌な予感がする。

凄い嫌な予感がする。

だからといって勇さんを訪ねるということを僕は拒否する気はない。

君代先生と風間勇が会うということ。その結果。

僕はそれを予想することは出来た。

短気な君代先生。嫌な性格をしている風間勇。

そして二人の仲はあまりよろしくない。

となれば……

「くそ!風間のやろう!!何を隠していやがる!!だから私はあいつが嫌いなんだ!!」

運転席に座り車を運転している君代先生はもう既に怒っていた。

……頼みますから安全運転でお願いします。

「綾瀬、先に言っておくぞ!私は風間の出方次第では、あいつと殺りあう!」

というか君代先生は殺りあう気満々であった。

あ、何だか帰りたくなってきた。

僕は確かに勇さんと名無との関係に興味があるのだが、だが君代先生と勇さんの喧嘩には巻き込まれたくはない。

どうしようかと考えているうちに白鳳神社に到着した。

さて、引き返せなくなった。


勇さんはよく家を空けるのだけど、今日は珍しく家にいたらしい。

あの狭い家に。竜花さんと一緒に。

まだ勇さんの家の中に入っていないのだけどそれが雰囲気でわかった。

……僕、何だかどんどん人間から離れていく気がする。

「どうやら風間はいるようだな」

「そうですね」

君代先生はインターフォンを押さずに、扉を蹴り破るように開け(実際には扉が壊れることはなかったが)、そして僕らは彼らを発見した。

「うん?真と君代先輩か」

「風間ぁ!!手前ぇ!!」

うわ!いきなり殺意全開ですか、君代先生!!

話し合う気なんてさらさら無いんですね。

殺意は具現化はしていないまでも、それはあからさまだ。

君代先生は勇さんに飛び掛った。

だが、その前に……

「竜花」

「わかってる」

勇さんが言葉を発した瞬間に竜花さんの姿が消えた。

否、消えたように見えただけだ。超高速で移動したのだ。

殺意を剥き出しにしている君代先生の眼前まで。

「な!?」

そういえばトモが言っていた。単純な白兵戦なら竜花さんに勝てる人間はこの世にいないと。

一瞬で君代先生は背中を床に押し付けられる結果になった。

そして竜花さんは君代先生に馬乗りになった。マウントポジションというやつだ。

この体勢になったら上に乗っている人間が断然有利だ。

「はぁ、まったく何の用ですか?まあ予想はつきますけどね。うわ、やっぱりそれか。やっぱり厄介な能力を持っているよな、桜守の一族は。世観も勿論のこと、絶対に敵に回したくない一族だ。まあそれは国生家も同じなんですけどね」

勇さんは鼻がいいから君代先生を一目見ただけで(実際は匂いを嗅いで)僕らの用件がわかったようだ。

「それにしたっていきなり臨戦態勢で臨みますか?よっぽど俺のことが嫌いですか?それとも賢いから、俺がそれについて話さないとわかっている上で臨戦態勢なわけですか?」

「風間、手前!人類災厄の殺人鬼とどういう関係だ!!」

「君代先輩が何を言っているのかよくわかりません」

「はぐらかすな!わかっているんだぞ!そしてお前も察しているんだろう!?答えろ!!」

「君代先輩は俺と話がしたいのか、それとも俺を脅迫したいのか、どちらですか?」

「両方だ!」

脅迫も入っているんですか、君代先生。

素直に言いすぎだろう。

まあ、嘘を吐いたところで勇さんにはそれがお見通しなのだろうけど。

「素直ですね。しかしお互いの能力はよく分かり合っているのですから、俺に嘘が通用しないのもわかっているのか。成るほどね、君代先輩。そこまでして知りたいのですね。でも残念ながらあなたが知りたい情報も俺は知りませんよ」

「私はお前と人類災厄の殺人鬼との関係を聞いているんだ!!それ以外の情報は求めていない!!」

「ふーん。まあいいですけど。そんな情報でよければ教えますけど」

あれ?予想外の回答。

僕はどんな梃子を使っても勇さんはその情報について喋らないと思っていたのに。

案外簡単にそれを教えてくれるなんて。

何かおかしい。

「ただ、その殺気はしまってください。でないとそのまま会話をすることになりますよ」

「ちっ」

君代先生からどんどん殺意が収まっていく。

こんなにも殺意というのはコントロール可能なものなのだろうか?

普通の人間には無理だろう。

これが異常者、か。

「竜花」

「……」

竜花さんは無言で君代先生から身体を離した。そして勇さんの横に座った。

君代先生も立ち上がり、そして勇さんと対面するように座った。

僕は何処に座ろうか悩んだが、君代先生の横に座ることにした。僕も今回は君代先生の付き人として来ているのだし。

「さあ、どうぞ。君代先輩が聞きたいこと、何なりと聞いてください」

「先程桜守と一緒に綿貫鶴君が殺された現場を検証した。綿貫鶴君の名前は知っているだろう?人類災厄の殺人鬼が久しぶりに殺した一般人の名だ。そいつが殺された現場を検証していたら、お前の思念がそこにあった」

「ふーん、一般人ね」

「お前はそこで何をしていた?人類災厄の殺人鬼との関係は何だ!?何を知っている!?」

「調べが足りていないですよ、君代先輩。だから俺のところなんかにわざわざ訊ねてくるんだ。よっぽど早く人類災厄の殺人鬼と会いたかったんですね。真の運の悪さを利用してまでそれに会いたかったわけですね」

「答えろ!!」

「君代先輩。まずあなたの前情報は間違っています。綿貫鶴君は普通の人間じゃありません。異常者です」

「何?」

「そして、真は気づいているようですが、綿貫鶴君こそが人類災厄の殺人鬼なのです」

気づいているも何もその情報は勇さんから教えてもらったのだが、そんなことを言ったらまた大変なことになりそうだったので発言は控えた。

「何だって?そんなバカな!?」

「バカじゃないです。だいたい綿貫で気づいてくださいよ。十死ではありませんが、それでも有名な殺し屋の名前でしょう?」

「それはわかっていた。ちゃんとそちら方面でも調べた。だが奴は本家とはかなりかけ離れた血筋であったし、それにこちらの世界に足を踏み入れていないことは調べで明白だった」

「だから、真壁君の事件の時と一緒ですよ。異常者になったのがつい最近なんです。」

「……そんな」

「何がきっかけで異常者になったかは知りません。俺は調べるつもりもありません。ただ君代先輩は前情報から間違っていたんですよ。綿貫鶴君が普通の人間だという前情報が違うんです」

「……だが、綿貫鶴君は死んでいる」

「そうですね」

「私は会ったんだぞ、人類災厄の殺人鬼に。名無という人類災厄の殺人鬼に。これをどう説明する?」

「……真もそいつと会ったんですよね?その名無とかいう奴に」

「あぁ、会ったぞ。それがどうした?」

「なら真は気づいたはずだろ?何で君代先輩に教えてやらなかったんだ?」

それはめんどくさいからです。

それに僕は真相を予測はしていたけど、知っていたわけではないから。

「名無は人類災厄の殺人鬼じゃないんですよ。その殺意です」

あ、でも名無が人類災厄の殺意ということは知っていたな。

「どういうことだ?あれはどう見ても人間だろう?」

「そういう殺意なんです。人型の、しかも自律している殺意。それが綿貫鶴君の『名無』という殺意なんです」

君代先生はその事実に驚いているのか黙ってしまった。

僕だって名無を視たときは驚いた。

殺意でありながらも、あいつは本当に人間のようだった。

人間のように考え、そして人間のように人を殺す。

人類災厄の殺意、名無。

確かにその名の通りだ。

「そんな殺意、聞いたことがないぞ」

「俺も初めて視たときは驚きましたよ。信じられなくはなかったですけどね」

「ふん。『この世に起こらないことなんてない』か。わかった。綿貫鶴君が人類災厄の殺人鬼。それでその殺意があの名無。そこまでは認めて、理解しよう。それで、お前はそいつらとどういう関係なんだ?何故あの時あの場所にいた?」

「話はそう難しいものじゃないですよ。俺は依頼を受けたんです」

「依頼?」

「えぇ。依頼者は言えませんがね、内容はこうです。人類災厄の殺人鬼を殺すこと」

「な!?」

「だから俺はあの時あの場所にいた。納得がいきましたか?君代先輩」

僕は納得がいった。

そうか、相手は勇さんだったのか。

だから綿貫鶴君はあんな死に方をしたんだ。

勇さんに心を壊されたから、自殺をはかったんだ。自分の殺意『名無』を使って。

だから君代先生は綿貫鶴君の死を人類災厄の殺人鬼に殺られたものと勘違いをした。

おそらくこういうことなのだろう。

というと、名無が言っていた仇というのは勇さんのことなのだろうか?

「納得がいかない」

「え?」

「私は納得がいかないよ、風間。お前が人類災厄の殺人鬼を殺しただって!?いったいどうやって!?」

君代先生は勇さんの能力をわかっていないのか?

僕はわかっている。同じだから、よくわかっている。

「俺は鼻がいいですから。心を読んで、それを壊しました」

「それなら何故殺意が消えない!?何故あいつは動いている!?」

「先程言ったとおり一人歩きする殺意なんです。主を殺しても一人で動き、殺しをやめない」

「納得できない!私は全てに納得できない!!」

君代先生は納得できないのではない。納得したくないのだと僕は思った。

これは、まるで子供のわがままだ。

しかし、何故君代先生はここまでそれを認めようとしないのか?

それがわからない。

そういえば君代先生はいったい何故人類災厄の殺人鬼を追っているのか?それについてまだ訊ねていない。

訊くべきか?

「風間、お前あの場にいたというのならあの死体も見たのだろう!?」

「見ましたよ」

あの死体?

綿貫鶴君の死体のことか?

「あれは人類災厄の殺人鬼に殺された。そして綿貫鶴君にも人類災厄の殺人鬼に殺されたと思われる傷しかなかった!!おかしいだろ!?もし綿貫鶴君が人類災厄の殺人鬼というなら、何かしらの傷がついているはずだろう!?」

「いい加減にしてくださいよ、君代先輩。わかっているんでしょう?わかっていながら俺に訊ねてきているんでしょう?」

「う……」

「まあいいですけど。答えても。所詮簡単な答えなので。いいですか、それほどまで実力差があったということです。あの程度の相手なら人類災厄の殺人鬼は傷一つ負わないということです」

「!!」

いったい、二人は何の話をしているというのか?

僕だけが話しに参加できない。

この空間で僕だけがその話の内容を理解していない。

「そんな……そんなバカな話……」

「君代先輩。人類災厄の殺人鬼はもう死んでいるんです。それでもまだこんな馬鹿げたことを続けるんですか?」

「馬鹿げたこと?何だって!?」

「馬鹿げたことですよ。死人を追っても意味がないでしょう?」

「まだ、名無とかいう人類災厄の殺意が残っているだろう!?」

「それを追うことが馬鹿げたことだと俺は言っているんです。いいですか。あれは確かに自律型の殺意ですが主の言うことは絶対なんです。断れない。だから主が殺せといえば殺したくなくても殺す。所詮は殺意です。殺す道具です。道具を恨むのは愚の骨頂ですよね、君代先輩?」

「だが、あいつを野放しにしておけば……これからも多くの犠牲者が出てしまう」

「そんな建前は必要ないんですよ。俺が言いたいのはそんな建前で他人をこれ以上巻き込むな、ということです。自分だけならいい。死んでも責任を取るのは自分ですからね。しかし真が死んだ場合、あなたはどう責任を取るんですか?それに本気を出さずに人類災厄の殺人鬼を倒そうだなんて、俺は呆れてモノも言えませんよ」

「ぐっ」

「君代先輩……あなたはもっとよく考えて動くべきだ。その大きすぎる力を使うのか?使わないのか?よく考えて、ね。そして誰に罪があって誰に罪がないのか。あなたは今それが見えていますか?」

「……」

「先輩。今日のところはこれでお引取りください。そして家に帰ってよく考えてください。これからどうするのかを。そして名無という人類災厄の殺意と殺しあうとしてもそれに周りを巻き込まないでください。俺から言えるのは以上です」

君代先生は無言で立ち上がると、勇さんの家を出て行った。

僕はそれに続こうかどうか迷ったが、やめた。

今君代先生と帰るのは何だか気まずいし、それに……

「ん?君代先輩と一緒に帰らないのか?」

「僕も勇さんに話しがあるんですよ」

「へぇ、なんだよ?」

「僕らが来る前に、人類災厄の殺意『名無』と会っていましたね、勇さん?」

考えればわかることだった。

「いつになく勘が冴え渡るじゃないか、真。その通りだ。どうしてわかった?」

「僕は結構長い時間、名無と会話していましたから」

名無はあの時仇とメールしていると言った。仇というのはおそらく主である綿貫鶴君を殺した者のことだろう。

実際には壊したのだが、その仇がまず勇さんであるという点。

そしてあの後名無は人と会うと言っていた。メールを終えた後に。

それならばそのメールの相手と会うと考えるのが普通だろう。

そう、推測するのは何も難しい話じゃない。

「ふふん。あいもかわらず推測がよくあたるな。いつか外れろ」

「そんなに当たりませんよ。僕の推測は」

「嘘吐け。毎回当たっているじゃないか?」

「多くの推測を立てているだけです。その中の一つが当たっているだけで、その他の推測は外れているんです」

「ふん。それ嘘だろ?」

「まあ、本当じゃないですね」

「さて、どうでもいい余計な会話はこれぐらいにしておくか」

「そうですね。時間がもったいない」

勇さんは話が早くて助かる。

話をちょうど区切りたいときに区切ってくれる。

まるで僕の心を見透かしているかのように。

「それで、何が聞きたいんだ?答えられるものなら答えてやるが」

「それじゃあ。名無と何の話をしたんですか?」

「いろいろ話したよ」

「具体的には?」

「マスターを何で壊したんですか?とか」

「それになんて答えたんですか?」

「依頼だからって答えた」

「そうしたら名無はどう反応しましたか?」

「ういうい、わかりましたって。何?俺はこんなに詳細にそのことについて話さないといけないのか?」

勇さんの言うとおり詳しく聞きすぎだなぁ。これじゃあまるで僕は名無のストーカーのようだ。

でも何故だろう?僕はもっと名無のことが知りたいのだ?

どうしてだろう?

「他にはどんなことを話したんですか?」

「別に普通のことだな。天気の話とか殺しの話とか……」

殺しは普通のことではないと思うが。

「ふふん。あと面白そうな男の子に会ったっていうことも言ってたぞ」

「え?」

「何でも今度最中を奢ってもらうんだとさ。ふふふ、さてその男の子っていうのはいったい誰のことなんだろうなぁ」

それは僕のことだ。

しかもこの様子だと勇さんもそれに気づいているようだ。

「あぁ、若いっていいなぁ。俺はそんな青春なかったからなぁ」

「あの、勇さん?激しく勘違いしてませんか?」

「さあ?勘違いならいいけどな」

「わかっているんでしょう?勇さん。あなたは全てわかっているんでしょう?その上で僕をからかわないでくださいよ」

「わかっているからからかっているんだ。それにあの子、結構お前のこと好きだぜ」

「……嘘でしょ?」

「いや、これ本当」

「……」

「あ。赤くなった」

いや、それはあんな可愛い子に好きだなんて思われたら赤くもなる。

「真も厄介な子に好かれたものだ。さすがだね。真似はしたくないけど。気をつけたほうがいいぞ。下手なことを言ったらその場で殺されちゃうから、きっと」

「嫌なことを言わないでくださいよ」

「しかしあながちありえないとも言えない」

「確かにありえそうですけど」

「あいつが本気を出したらお前なんて紙くずだぞ。すぐに殺されてしまうだろうな。『複製』で少しは戦闘能力があるが、それでもあいつの前ではそんなの意味をなさない。そうだなぁ、喩えると今のお前の力がアリンコぐらいの力だとすると、名無はアメリカ軍ぐらいの力かな?」

「相手になるとかならないとかいうレベルの話じゃないです、それ」

「瞬殺だよ、瞬殺。現在名無に勝てる奴は、俺の知っている限りでは『天衣無縫』の……あいつの名前なんだっけ?忘れちまった。まあいいや。そいつと、月見。あとは『色彩』ぐらいか」

「三人だけですか?」

それほどまでの力を持っていたのか?

確かに君代先生が全く相手にならない時点でかなり強いとは思っていたけど、三人しか相手にならないなんて。

それは人類災厄にもなる。

「俺の知っている限りではな。あ、あと竜花でも勝てるか。まあ個人ではその四人が限度かなぁ?団体ならもっと増えるだろうけど」

「あの……やっぱり君代先生では」

「前も言ったが、話にならないね。というか今日やったんだろう?」

「えぇ、やりましたけど」

「あれが結果だ。君代先輩じゃ勝てない」

「君代先生の能力が派手すぎて名無の能力がよくわからなかったんですけど、名無の能力って何なんですか?」

「それを俺に言わせる気かよ?」

出来れば教えて欲しいのだが。

「いやだね」

「何故ですか?」

「そんなもん教えて名無に恨まれては適わない。つーか、おそらく近いうちに名無と会うことになるんだろうからその時聞けばいいだろう」

「あれ?勇さん、さっき君代先生に真は巻き込むなって言いませんでしたっけ?」

「言ったよ」

ならば今の発言はおかしくないか?

だって君代先生の仕事に巻き込まれない限り僕は名無と会う機会なんてないはずだ。

「お前のことだからどうせ君代先輩に巻き込まれるよ。それに、君代先輩に巻き込まれなくてもおそらく名無のほうからお前にコンタクトをとってくるはずだぜ。俺はそう予言するね」

最後に不吉な予言をした、勇さん。

やはり勇さんは嫌な人であった。

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