scene3
近い、近いのよー。
「何してんだよ。ほらこの手綱をこんな感じで持って」
こんな感じ?
どんな感じよ。
ちょっと今、手が触れたんじゃなくて?
触りました?
ああ、もう、なんの言葉も入ってきませんわ。
なんの言葉も入ってこないまま道が過ぎていく。
夕暮れに空が赤く染まる頃、道の先に建物が見えてくる。
「町が見えてきたぞ」
白い建物が並んだ小さな町。
ここが今回の釣り場。
なんだか胸がジンと熱くなる。
じーっとこっちを見る視線を感じる。
「レイオリア様、釣りより先にやる事がありますよ」
「そうだな。まずは今日の宿探しだな」
ニーナの発言にレイジは同意する。
でも2人の言葉は聞こえてはいるけど、頭には入ってこない。
すでに私の頭の中は釣りの事でいっぱいだった。
馬車の手綱は私が持っている。
という事は...。
「まずは海の確認よ!」
「レ、レイオリア様!」
「ま、待て、海は後だ!海は逃げたりしない!」
止めようとする2人を気にすることなく海へと馬車を進める。
「海は逃げなくても魚が逃げますわ」
もう、いてもたってもいられなかった。
まず、見えてきたのは砂浜。
「うーみー!私が釣りに来たぞー!」
思いっきり叫んだ。
「なんの宣言だよ」
レイジが呆れた顔をする。
「なんて顔してるのよ。貴方も叫ぶといいわよ」
「嫌だよ。恥ずかしい」
恥ずかしいですって?
レイジにも恥じらいの気持ちとか一応あるのね。
「じゃあ、ニーナ叫ぶと気持ちがいいわよ」
「では、お言葉に甘えて…」
ニーナが一歩前に出た。
「レイオリア様のバカ―!」
はい!?なになに?急に何を言い出したの?
なんで私がバカなの?
「な、なんでバカなのよ」
ニーナがじっとこちらを見つめる。
「だって最近のレイオリア様は海とか魚に夢中で、楽しそうで...お城にいるときはそんなんじゃありませんでした」
そう言われればそうでしたし…そうなんですけど。
さすがの私でもあの中で海を叫ぶ勇気はありませんよ。
「ごめんなさいニーナ…今まで騙していた感じになってしまって…」
ニーナがじっと私を睨んだ。
「本当です」
「ごめん...」
「違います!」
ニーナが私の手を取り握りしめた。
「今まで、気が付かなくて…レイオリア様が海が好きで釣りが好きだなんて…今まで我慢してたのかなって思ったら悲しくて...もっと、私にはわがまま言って欲しくて、我慢してほしくなくて…」
ニーナの目に涙が溜まっていた。
「そうね…ごめんなさい。でもこれからは自分に素直に生きていくから大丈夫よ」
「そうしてください。そうじゃなかったら怒ります」
そして振り返って海を見た。
「だから今すぐ釣りをするわよ」
「ええ!?それは…宿…」
「素直に生きるって宣言したばかりですわ」
素直に生きる宣言。
だから今から釣りをする。
馬車に竿を取りに行こうとする私にレイジが声をかけてきた。
「無理だな」
「なんでよ!」
即座に返した。
「あれを見ろ」
レイジが指さす先、そこには看板が立っていた。
そしてそこには…。
釣り禁止
と書かれていた。




