↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 『二度目の人生も死ぬ予定ですが、死ぬつもりはありません』   転生。前世はキャバ嬢、今世は処刑予定の悪役令嬢。  作者: みつばち。


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/17

第2話誕生日のうたた寝


誕生日を祝う宴は、昼を少し過ぎた頃から始まった。

宴といっても、国中の貴族を集めるような大規模なものではない。

主役は六歳の少女だ。

招かれたのは親しい親族と、ヴァレンティア家と特に付き合いの深い者たち。

それでも六歳のソランからすれば、十分すぎるほど多く感じられた。



「お誕生日おめでとうございます、ソラン様」


「ありがとうございます」


「まあ、またお綺麗になられて」


「ありがとうございます」


「その銀髪。本当にミレーヌ様によく似ていらっしゃる」


「ありがとうございます」



笑う。

礼をする。

また笑う。

別の人が来る。

礼を言う。

名前を聞く。

母から以前教えられたことを思い出す。

失礼にならないよう答える。

そして、また次。

最初のうちは楽しかった。

自分のためにこれだけの人間が集まってくれたのだ。

贈り物もたくさんもらった。

普段は出てこない菓子もある。

何より、今日は多少のことなら許される。

誕生日とは素晴らしい。

しかし。

二時間も経過すると、少し事情が変わってきた。



「ソラン」


「はい、お母様」


「疲れていませんか?」


「いいえ」


即答した。


「本当に?」


「はい」



ミレーヌは娘の顔をじっと見る。

ソランは背筋を伸ばした。

眠くなどない。

疲れてもいない。

六歳なのだから。

五歳とは違う。



「そう」



母はそれ以上言わなかった。

ただ。

僅かに笑っていた。

どういう意味だろう。

少し気になった。



     ◇



宴も後半になると、最初にあった格式張った空気はかなり薄れていた。

大人たちは大人たちで会話を始め。

子供たちは子供たちで遊んでいる。

父は何人かの客人と話をしていた。

その横顔は、家族といるときとは少し違う。

表情そのものはほとんど変わらない。

だが、何となく違う。

ソランにはまだ、それが何なのか分からなかった。

母も少し離れた場所で婦人たちと話している。

笑っている。

いつもの優しい笑顔。

それなのに、こちらも何となく違って見える。

大人というのは不思議だ。

同じ顔をしているのに、相手によって少しずつ違う。



「姉様」


「なあに?」


「これ食べていい?」


 隣に座ったノアが菓子を指差した。


「自分の分があるでしょう?」


「姉様のがいい」


「同じものよ」


「でも姉様の」


「……一つだけよ」


「うん!」



ノアが菓子を取る。

ソランはそれを見て、ふっと頬をゆるめた。

それから、仕方がないとでもいうように小さく息をつく。



「甘いな」



向かい側から、口元に笑みを浮かべてカイルが言った。



「何がです?」


「ノアに」


「お兄様には関係ありません」


「だから取られるんだぞ」


「一つくらいいいのです」


「じゃあ僕も一つ」


カイルが手を伸ばす。

ソランは皿を引いた。


「お兄様は駄目です」


「なんでだよ」


「お兄様だからです」


「意味分からないぞ」


「ノアは四歳です」


「僕は八歳」


「知っています」


「じゃあいいだろ」


「よくありません」


「差別だ」


「区別です」


「どこでそんな言葉覚えたんだ?」



ソランは答えなかった。

その代わり、自分の菓子を一口食べる。

カイルが呆れたように笑った。

ノアも意味は分かっていないだろうに、一緒になって笑っている。

ソランは少しだけ頬を膨らませた。

だが。

すぐに欠伸が出そうになった。



「…………」



危ない。

ソランは口を閉じた。

誰にも見られていない。

そう思った。



「眠いのか?」



見られていた。



「眠くありません」



即答。



「今、欠伸しただろ」


「してません」


「してた」


「してません」


「目、潤んでるぞ」


「これは……」



何だ。

何と言えばいい。

ソランは考えた。



「……そういう目なのです」


「どんな目だよ」



カイルが笑った。

腹立たしい。



「お兄様こそ、少し黙ったらどうです?」


「僕は眠くないから」


「私も眠くありません」


「じゃあ起きてれば?」


「最初からそのつもりです」



ソランは椅子に深く腰をかけ直した。

負けられない。

何と戦っているのかは本人にもよく分からなかったが、とにかく負けたくなかった。

視線を会場へ向ける。

大人たちの話し声。

食器が触れ合う小さな音。

時折上がる笑い声。

窓から差し込む午後の日差し。

暖かい。非常に暖かい。

椅子も柔らかい。

朝からずっと動いていた。

早起きもした。

その事実は誰にも言っていないが、身体にとっては秘密でも何でもない。



「…………」



瞼が重い。

瞬きをする。

一度。

二度。

少し長く閉じた。

開く。

問題ない。

起きている。



「姉様」


「……なあに?」


「眠い?」


「眠くないわ」


「でも目、閉じてたよ」


「瞬きです」


「長かったよ?」


「長い瞬きです」


「そんなのあるの?」


「あります」


「ないだろ」



カイルだ。

ソランは兄を睨もうとした。

だが。

どうにも焦点が合わない。

カイルの顔が少しぼやけて見える。



「……お兄様」


「何?」


「うるさいです」


「はいはい」



返事が遠い。

ソランは頬杖をついた。

少しだけ。

本当に、少しだけ休む。

眠るわけではない。

目を閉じるだけだ。

そう。

目を閉じていても、起きていることはできる。

たぶん。



「ソラン」



カイルの声が聞こえた。



「寝るなら母上のところに――」


「寝て……ません……」


「いや、寝てるだろ」


「……ません……」



返事をした。

だから起きている。

少なくともソランは、そのつもりだった。

頭が少し傾く。

銀色の髪が肩から滑り落ちた。

父から贈られた髪飾りが、午後の日差しを受けて小さく光る。

周囲には家族がいる。

父がいる。 母がいる。

向かいには兄。 隣には弟。

聞き慣れた声。

暖かな部屋。

安心できる場所。

六歳になった日の、幸福な午後。

だから。

ソランは抗うことをやめた。

重くなった瞼が、ゆっくりと閉じていく。

最後に聞こえたのは。



「ほら、やっぱり寝た」



どこか呆れたような。

それでも優しい、兄の声だった。

そして――。

ソラン・ヴァレンティアは眠りに落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。