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2度目の守護者は失敗しない  作者: AIの奴隷
失敗しない男と落ちこぼれ魔法少女

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学生避難誘導員特別待機室

第五話 学生避難誘導員特別待機室


 放課後。


「まさか専用の部屋まであるとはねぇー」


 阿久別香仁子は、部屋を見回しながら感心したように言った。


 扉に掲げられているプレートには、


『学生避難誘導員特別待機室』


 と書かれている。


「いや、私たち専用じゃないからね?」


 桃井星歌は即座に訂正した。


「ここ、学生避難誘導員のための部屋だから」


「でも、普段は使われていないのでしょう?」


 須久井鏡子が言う。


「そうみたいですね。緊急時以外は基本的に立ち入り禁止だって、白石先生が」


 星歌が答えると、流星昴が机に頬杖をついた。


「でも、その白石先生が私たちなら普段から使っていいって言ったんでしょ?」


「五人で集まる場所があった方が便利だから、ってね」


「じゃあ実質、私たちの部室じゃん」


「部活じゃないでしょ」


「魔法少女部」


「秘密にする気ある!?」


「じゃあ、ひょっとこ部」


「なんで守護者が主役なのよ!」


「ひょ、ひょっとこ部は、ちょっと嫌です……」


 宍戸猫が困ったように呟いた。


「猫まで真面目に検討しなくていいから!」


 昨日、初めて顔を合わせた五人。


 正確には、それ以前にも訓練施設で顔を合わせていたらしい。


 同じ学校に通っていたことすら、昨日まで知らなかった。


 それが今では、こうして同じ部屋に集まって話をしている。


 昨日の放課後、白石から渡された一万円で遊びに行ったことも大きかったのだろう。


 まだ友達と呼ぶには少し早いかもしれない。


 けれど、少なくとも昨日よりはずっと話しやすくなっていた。


「で、結局どうするんだろうね。ひょっとこさん」


 昴の一言で、話題が昨日の守護者へと移った。


「どうするって?」


「私たちのこと。昨日あれだけボロボロだったじゃん」


「……思い出させないで」


 星歌は机に突っ伏した。


 初めての実戦。


 結果は散々だった。


 香仁子の爆発に巻き込まれ。


 猫が敵を吹き飛ばし。


 昴は走り回るだけ。


 鏡子の氷壁は敵に届かず。


 そして自分は――。


『発動しました!』


『何が?』


『私が知りたいです!!!』


「…………」


 忘れよう。


 あれは忘れよう。


「昨日あれだけボロボロだったら、今日は猛特訓! とかじゃない?」


 香仁子が拳を握った。


「何も言われてないけどね」


「私たち、一応それぞれ訓練は受けてきていますものね」


 鏡子の言葉に、星歌も頷く。


「そうなのよね。特訓って言われても、今までと同じことやるだけになりそうだし」


「私は戦ってたじゃん!」


 香仁子が胸を張った。


「私たちごと爆破しながらね!」


「あれは事故!」


「毎回事故じゃない!」


「じゃあもう事故じゃなくて仕様じゃん」


「開き直った!?」


「いやいや、私だってちゃんと訓練したんだからね?」


 香仁子が不満そうに頬を膨らませる。


「最初の頃なんて、もっとひどかったんだから。威力を抑えたり、爆発するまでの時間を延ばしたり。めちゃくちゃ練習したんだから」


「そうなの?」


「見てなさい」


 香仁子が人差し指を立てた。


 その指先に、淡い光が集まっていく。


 やがて現れたのは、小指の爪ほどの小さな光球だった。


「ちっさ!」


「ふふん。これでも基礎魔法の魔力球だからね。昔はこんなに小さくできなかったんだから」


 香仁子が指を動かす。


 それに合わせて、小さな魔力球が宙を滑った。


 右へ。


 斜め下へ。


 そして上へ。


「あ……」


 猫が目を丸くする。


 光球が空中に光の軌跡を残しながら、器用に星の形を描いていく。


「すごいじゃん!」


 昴が身を乗り出した。


「思っていたより、ずっと器用ですわね」


「思ってたよりって何!?」


「いや、だって昨日の戦い見てたら……」


「爆発しかしてないもんね」


「星歌まで!?」


 言いながらも、香仁子は得意げだった。


 小さな魔力球は、再び香仁子の指先へ戻ってくる。


「どうよ!」


「いや、普通にすごい」


 星歌も素直に感心した。


「ちゃんと制御できるんじゃない」


「でしょ?」


「じゃあ昨日もそれやれば――」


 ぽんっ。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


 小さな光球が爆ぜた。


 ほんの小さな爆発だった。


 煙の向こうで、香仁子が固まっている。


「あ…………」


 そして。


「てへぺろ」


「爆発したじゃない!!!」


「小さかったでしょ!?」


「そこは成長してるけど!!!」


「昔はこれでもっとドカンっていってたんだから!」


「訓練の成果が爆発の小型化!!!」


「あと今の、結構長く保ったよ!」


「最終的に爆発することは変わってないじゃない!」


「だから困ってるんじゃん!」


「なんで私が怒られてるみたいになってるのよ!?」


 その時だった。


 校内に警報音が響いた。


『――緊急連絡』


「――!」


 五人の空気が、一瞬で変わった。


『市内において、マガツの出現が確認されました』


 マガツ。


 昨日、初めて実戦で戦った敵。


『教職員は、生徒の避難を開始してください』


『学生避難誘導員は、所定の手順に従い、行動を開始してください』


「……来た」


 星歌が立ち上がる。


 香仁子も、昴も、鏡子も立つ。


 猫だけが少し遅れて、おそるおそる腰を上げた。


 だが、五人は部屋から出ない。


 昨日、白石から説明を受けている。


 自分たち五人は、他の学生避難誘導員とは少しだけ手順が違う。


 まずは、この特別待機室で待機。


 マガツへの出動要請があれば、ここから直接出撃する。


 出動要請がなければ、学生避難誘導員として校内の避難誘導へ合流する。


「どっちだろ」


 昴が呟く。


「できれば……避難誘導がいいです……」


 猫が小さく言った。


「昨日、初陣だったばっかりだもんね」


「というか昨日あんな目に遭ったばっかりだからね!」


 星歌としても、猫の意見には全面的に賛成だった。


 廊下の向こうから、教師たちの声が聞こえる。


 生徒たちが移動する足音も。


 学校全体が、避難のために動き始めている。


 けれど五人は待つ。


 自分たちの役割が決まるまで。


 一分にも満たない時間。


 それなのに、妙に長く感じた。


 やがて。


 五人の端末が、同時に鳴った。


『桃井星歌、阿久別香仁子、宍戸猫、流星昴、須久井鏡子』


 白石の声だった。


『五名全員に、出動要請が出ました』


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


 昨日。


 初陣。


 そして今日。


 二戦目。


「早くない!?」


 星歌の叫びが、特別待機室に響いた。


     ◇


 だが、文句を言っている暇はない。


「行くよ!」


 五人は学生避難誘導員の腕章をつけ、そのまま待機室を飛び出した。


 避難する生徒たちとは別の経路を、五人は駆け抜ける。


 廊下ではすでに教師や学生避難誘導員が声を張り上げ、生徒たちを誘導していた。


「走るな! 押すな! 順番に!」


「一年生はこっち!」


 そんな中を、五人だけが全力で走る。


「……ほんとに止められないね!」


 走りながら、昴が自分の腕を見る。


 学生避難誘導員の腕章。


「そのための腕章でしょ!」


 星歌が前を向いたまま返す。


 緊急時に五人で行動していても。


 避難する生徒とは違う方向へ走っていても。


 腕章があれば、それだけで学生避難誘導員として動いているように見える。


「何か聞かれても、白石先生の指示ですって言えばいいんだよね!」


 香仁子が後ろから声を飛ばす。


「実際その通りですもの!」


 鏡子が続く。


 階段を駆け下りる。


 昇降口へ飛び込む。


「おい、避難誘導員!」


 教師から声が飛んだ。


 五人の足が一瞬だけ止まる。


「どこへ行く!」


「白石先生の指示です!」


 星歌が即答した。


「分かった、気をつけろ!」


「はい!」


 それだけだった。


 五人は再び走り出す。


 校舎を飛び出し、事前に指定されていた場所へ向かう。


 学生避難誘導員として、堂々と学校を抜ける。


 そして――


 ここから先は。


 魔法少女の仕事だった。


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