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2度目の守護者は失敗しない  作者: AIの奴隷
失敗しない男と落ちこぼれ魔法少女

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どうしたものか

第三話 どうしたものか


五人を解散させたあと。


朔は一人、組織の施設に残っていた。


目の前には五人分の資料。


今日の実戦を見たあとで読み返すと、書かれている内容の意味もずいぶん違って見える。


「さて……」


まず一人目。


阿久別香仁子。


保有魔力量――極めて多い。


出力――極めて高い。


制御――難あり。


「難あり、ねぇ……」


朔の脳裏に、今日の光景が蘇る。


魔法を放つ。


爆発。


D級が吹き飛ぶ。


香仁子も吹き飛ぶ。


ついでに星歌も吹き飛ぶ。


「……難あり」


間違ってはいない。


魔力量も威力も申し分ない。


問題は、魔法を使うと何故か爆発すること。


しかも本人にも、いつ、どこで、どの程度の爆発が起きるのか完全には分からない。


これまでにも制御訓練は散々やっている。


その結果が、今日のあれだ。


「制御させるのは……難しそうだな」


次。


流星昴。


速度――測定困難。


朔が実際に見ても、とにかく速かった。


D級では姿を追うことすらできない。


一方で。


攻撃能力――極めて低い。


何度殴っても、D級一体倒せない。


「速いんだけどな」


ものすごく速い。


ただし、速いだけ。


速度を利用した打撃についても当然研究されている。


だが彼女の魔法による移動速度は、そのまま衝撃力には変換されないらしい。


「速いんだけどなぁ……」


二度言った。


次。


宍戸猫。


身体強化能力――極めて高い。


「…………」


朔は資料から顔を上げた。


今日、猫がマガツを吹き飛ばした光景を思い出す。


ただ怖くて手を振った。


それだけだった。


D級マガツは戦場を横断し、結界壁へ激突した。


「極めて高い……」


もう一度資料を見る。


「これ、少々控えめじゃないか?」


能力だけなら、落ちこぼれとは到底思えない。


問題は一つ。


怖がり。


とにかく怖がり。


敵が近づけば逃げる。


攻撃されれば泣く。


近接戦闘しかできない能力なのに、本人が近接戦闘を心の底から嫌がっている。


「……どうしろと?」


次。


須久井鏡子。


氷壁。


本人の周囲であれば、その強度は非常に高い。


今日もC級の攻撃を真正面から受け止めていた。


だが、本人から離れるほど急激に強度が落ちる。


離れた場所に作った壁は、D級にあっさり破壊された。


これについても遠距離での強度を維持する訓練を何度も行っている。


成果は芳しくない。


「近ければ硬い。離れると脆い……」


最後。


桃井星歌。


「…………」


魔法――発動している。


魔力――消費している。


効果――不明。


「…………」


今日も確かに発動していた。


朔にもそれは分かった。


そして。


何も起きなかった。


『発動しました!』


『何が?』


『私が知りたいです!!!』


「……俺も知りたい」


資料を閉じた。


改めて並べてみると、ひどい。


一人一人の能力は決して弱くない。


むしろ香仁子、昴、猫、鏡子の四人については、どこか一部分だけ取り出せば相当なものだ。


だが。


実戦では、ああなった。


「どうしたものか……」


朔は椅子の背にもたれた。


資料には、これまで彼女たちが受けてきた訓練記録も残っている。


香仁子には魔力制御。


昴には攻撃能力の向上。


猫には恐怖心を克服するための訓練。


鏡子には遠距離での氷壁強度を上げる訓練。


星歌には、そもそも何の魔法なのかを調べるための様々な検証。


どれも真っ当だ。


問題点を見つける。


原因を探る。


訓練して克服する。


正しい。


「…………」


朔はページをめくった。


一ヶ月。


三ヶ月。


半年。


一年。


そして今日。


爆発する香仁子。


殴っても殴っても敵を倒せない昴。


泣きながら敵を彼方まで吹き飛ばす猫。


自分の近くでしか強固な壁を作れない鏡子。


何かを発動している星歌。


「…………」


朔は資料を閉じた。


「ダメだったんだよなぁ」


少なくとも、今までの方法では。


なら。


同じことを自分が繰り返しても仕方がない。


◆


同じ頃。


司令部の一室では、先ほどの戦闘についての報告会議が始まろうとしていた。


「今日の待機、お疲れさま。急な出動までさせて悪かったな」


司令官が声をかけると、《砲撃の魔女》は気にした様子もなく手を振った。


「いいよ。待機も出動もプラスで手当出るし」


「そう言ってもらえると助かる」


「ちょうどエスカレードの修理代もかさんでるしね」


司令官が眉をひそめた。


「……またぶつけたのか?」


「ちょっとね」


そのやり取りを聞いていた後方の職員たちが、小声で話し始める。


「この前も親御さんの車にぶつけてなかったか?」


「これで三回目よ」


「あれだけ運転が荒いのに、無事故無違反なんだろ?」


「……組織の力を使って揉み消してないか、一度調べるべきでは?」


「そうね。微に入り細を穿つように調べましょう」


「そこ、うるさいよ」


職員たちは黙った。


司令官がぽつりと呟く。


「そういえば、他の魔女が言っていたな」


「何を?」


「『《砲撃の魔女》の隣に乗るくらいなら、砲門の前に立った方がマシ』と」


「…………」


《砲撃の魔女》が、にっこりと笑った。


「それ、誰が言ってたんですかね?」


「さて、報告会議を始めよう」


司令官は戦闘記録を再生した。


爆発。


二人吹き飛ぶ。


高速で動き回る。


敵は倒れない。


泣き叫ぶ。


敵が飛んでいく。


壁を作る。


割れる。


魔法を使う。


何も起こらない。


そしてC級との戦闘。


五人まとめて崩された。


映像が止まった。


「…………」


沈黙。


司令官が口を開く。


「事前資料は読んでいた」


「私も」


「実戦運用に難があることも把握していた」


「うん」


「その上で聞くが」


「うん」


司令官は停止した画面を見つめた。


「思っていたより酷くないか?」


「…………」


《砲撃の魔女》も画面を見る。


「だいぶ」


「だよな」


「だいぶやばいね」


「だよなぁ……」


今回、五人を出動させるかについては司令部でも意見が割れていた。


全員が初実戦。


相手はD級複数にC級一体。


最終的に出動を認めたのは、守護者が同行していたこと。


そして万一に備え、《砲撃の魔女》を後詰として待機させていたからだ。


安全策は取っていた。


結果として重傷者も出ていない。


判断そのものに問題があったとは考えていない。


それでも。


司令官は停止した映像を見る。


「…………」


《砲撃の魔女》も見る。


「…………」


後ろの職員たちも見る。


「…………」


誰かが呟いた。


「これ、どうするんです?」


全員の視線が、画面の端へ向いた。


そこに映っていたのは。


五人の少し後ろに立つ、ひょっとこ面の守護者。


「…………」


司令官は腕を組んだ。


「それを考えるのは、彼の仕事だ」


「丸投げした」


《砲撃の魔女》が言った。


「役割分担と言え」


「便利な言葉だね」


「…………」


司令官はもう一度、画面を見た。


「本当に大丈夫か、これ」


◆


「大丈夫だ」


誰に聞かせるでもなく、朔は呟いた。


もう一度、五人の能力を頭の中に並べる。


香仁子の魔法は爆発する。


昴には攻撃力がない。


猫は敵に近づきたくない。


鏡子は遠くを守れない。


星歌は――。


「…………」


何をしているのか分からない。


普通なら。


できないことを、できるようにする。


欠点を直す。


それが正しい。


だが。


「別に、正しくなくてもいいか」


必要なのは、五人を優等生にすることじゃない。


マガツと戦えるようにすることだ。


できないことを、無理にできるようにする必要はない。


できないなら。


やらなければいい。


欠点を直せないなら。


欠点があるまま戦える方法を考えればいい。


「……問題ない」


少しずつ。


何かが形になってきた。


香仁子。


昴。


猫。


鏡子。


そして。


星歌。


「…………」


星歌の資料だけを持ち上げる。


効果――不明。


「こいつは後回しだな」


どこかで星歌がくしゃみをした。


たぶん。


朔は五人分の資料をまとめた。


やることは決まった。


あとは試していけばいい。


上手くいかなければ、また考える。


何度でも。


「俺は失敗しないからな」


いつもの言葉。


いつものように言った――はずだった。


「…………」


ほんの少しだけ、沈黙が落ちる。


「失敗してはいけないからな」


その声を聞く者は、誰もいなかった。

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