↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2度目の守護者は失敗しない  作者: AIの奴隷
魔法少女も多様性

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/52

さらば、銃王無尽のアメリカンガール

第二章 第九話


 豊田市内に現れたB級マガツの討伐を終え、一行が白石の待つ場所まで戻ってきた頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。


 全員の姿を確認した白石は、まず人数を数え、それから目立った怪我がないことを確かめてようやく表情を緩めた。エヴァが一人で大半を片づけてしまったため、星歌たちはほとんど戦ってすらいないのだが、戦闘区域の外で待っていた白石にとっては、誰が何体倒したかより全員が無事に戻ってきたことの方が重要らしい。


「おかえりなさい。みんな無事ね?」


「ただいま、先生。うん、大丈夫」


「HAHAHA! 圧勝だったぞ、シライシ!」


「それは何よりだけど……エヴァさん、随分楽しそうね」


「VERY!」


 戦闘前より元気になっている気さえする。


 星歌は白石へ何があったのか説明しようとして、やめた。全身から大量の銃火器を生やし、自分で鳴らしている銃声で周りの声が聞こえなくなるほど撃ちまくっていた――などと説明するより、本人のこの様子を見てもらった方が早い。


「ところで!」


 エヴァが大声を上げた。


「ジャパニーズ・ヤキニクが食べたいです」


「いきなり?!?」


「戦ったら腹が減った!」


「私も腹減った!」


「香仁子ちゃんまで!」


 


 当然のように焼肉を主張するエヴァと香仁子に対し、猫は「お寿司がいいです……」と小さな抵抗を続けている。昴は両方食べたいと言い、鏡子は何でもいいと笑い、茉莉花はせっかく愛知まで来たのだから名物料理も捨てがたいと言い出した。


 結局、白石が肉も寿司も食べられる店を見つけ、そこへ向かうことで決着した。


     ◇


「エヴァ、タン焼けたぞ!」


「TONGUE?」


「そう、牛タン!」


「それならアメリカでも食べるぞ!」


「そうなの?」


「YES! でも、こうやって薄く切って焼くのは初めてだ!」


「なら食え食え!」


「GOOD!」


 エヴァは香仁子から受け取ったタンを口へ運び、何度か噛んだところで大きく頷いた。


「うまい!」


「だろ!」


「なんで香仁子ちゃんが得意そうなの?」


 星歌が突っ込む。


 その隣では香仁子が次の肉を網へ追加しており、エヴァも負けじと別の皿から肉を投入している。二人の前だけ網の稼働率がおかしい。肉が焼けるのを待つ間も先ほどの戦闘やカートの話で盛り上がっていて、今日初めて会ったとは思えないほど馴染んでいた。


 対照的に、猫は少し離れた席で念願の寿司を食べている。


「おいしいです……」


「よかったね、猫ちゃん」


「はい」


 嬉しそうなので何よりだった。


 昴は宣言どおり焼肉と寿司の両方に手を出し、鏡子はそんな昴の皿へ野菜を追加している。茉莉花の隣では、執事が慣れた手つきで肉を焼いていた。


「お嬢様」


「なんですの?」


「今のお嬢様では逆立ちしても食べられないお肉が焼けましたよ。どうぞ」


「一言多い!!」


 怒りながらも差し出された肉はしっかり受け取った。


 茉莉花は一口食べると、しばらく無言で味わう。


「…………美味しいですわ」


「それは何よりです」


「ですから、その満足そうな顔をやめなさい!」


「何のことでしょう?」


「絶対分かっていますわよね!?」


 執事はいつもと変わらない笑みを浮かべている。


 星歌はそちらを見なかったことにして、自分の肉へ箸を伸ばした。


「星歌」


「なに?」


 正面に座るエヴァが、自分の頭を指さしていた。


「さっきの、もう一回できるか?」


 何のことかは聞くまでもない。


 戦闘中、星歌の意思が香仁子を経由してエヴァへ届いた、あの現象だ。


「やってみたいけど……どうやったんだろ、あれ」


「さっきと同じでいいんじゃないか?」


 香仁子が肉を頬張りながら言う。


「私を通してエヴァに何か送ったんだろ?」


「そんな簡単に言われても……」


 星歌は箸を置いた。


 あの時はエヴァへ危険を知らせなければならない一心だった。どうやったのか考えている余裕などなく、気づけば意思が届いていた。


 それでも、確かに見えたものがある。


 自分と香仁子を結ぶ《絆》。


 そして、その先にあった香仁子とエヴァの繋がり。


「じゃあ……やってみる」


 星歌は二人へ意識を集中させた。


 自分から香仁子へ伸びる《絆》はすぐに感じ取れる。そこまではいつもと変わらない。問題は、その先だ。


 香仁子とエヴァの間にあるものを探しながら、ゆっくりと意識を伸ばしていく。


 しばらくすると、ほんの一瞬だけ細い繋がりが見えた。


「あった……」


 星歌はそれを逃さないように意識を集中させ、自分の魔力を流し込んだ。


「っ……!」


 予想していなかった負荷に、思わず息が詰まる。


「星歌?」


「大丈夫。ちょっと待って……」


 戦闘中には気づかなかった。


 あの時はエヴァへ危険を知らせるために一瞬だけ繋ぎ、すぐに終わっている。だが、こうして落ち着いた状態で香仁子の先にある繋がりを維持してみると、普段の《以心伝心》とは明らかに違う勢いで魔力が減っていくのが分かった。


『エヴァ、聞こえる?』


 エヴァの肩が跳ねた。


「OH!」


「届いた!?」


「届いたぞ、セイカ!」


「やった……!」


 喜びながらも、星歌は繋がりを切らずに維持する。すると、成功したという喜びとは別に、身体から急速に何かが失われていく感覚があった。


「……待って。これ、すごく魔力使う」


「そうなのか?」


「うん。普段と全然違う……」


 試しにもう一度だけ意思を送る。


『エヴァ、右手上げて』


 すぐにエヴァが右手を上げた。


「HAHAHA! 聞こえたぞ!」


「うん、やっぱりできる!」


 確認できたところで、星歌はすぐに繋がりを切った。


「はぁ……」


 思わず息を吐く。


 長時間使ったわけではない。それなのに、普段仲間へ《以心伝心》を使った時とは明らかに疲労感が違った。


「戦ってた時は平気そうだっただろ?」


 香仁子が尋ねる。


「一瞬だったから気づかなかったんだと思う。あの時はエヴァに危ないって伝えることしか考えてなかったし」


 星歌は自分の手を見る。


 できる。


 香仁子を通して、自分とは直接《絆》で繋がっていないエヴァへ意思を送ることができる。


 ただし、代償は思っていたよりずっと大きい。


「……でも、まだ一組だけなんだよね」


「一組?」


「香仁子ちゃんとエヴァだけで起きることなのか、それとも他の人でもできるのか分からない」


 そこまで口にしたところで、星歌は猫を見た。


「猫ちゃん」


「はい?」


「渚ちゃんに連絡できる?」


「渚ちゃんにですか?」


「うん。静岡にいた時、猫ちゃんと渚ちゃんの間にも同じようなものが見えたんだ」


 猫が目を瞬かせ、それから意味を理解したように声を上げる。


「あっ。私を通して、渚ちゃんにも届くか試すんですね」


「そういうこと」


 星歌は頷いた。


「香仁子ちゃんからエヴァへ届いて、猫ちゃんから渚ちゃんにも届くなら、たぶん二人だけの特別な現象じゃない」


「分かりました。聞いてみます」


 猫はスマートフォンを取り出し、渚へ電話をかけた。


 ほどなくして電話が繋がると、猫は今日愛知で起きたことと、星歌の魔法について調べたいことがあると説明した。


「――ということなんです。少しだけ実験に付き合ってもらってもいいですか?」


 返事を聞いて、猫が星歌へ頷く。


「大丈夫だそうです」


「じゃあ、渚ちゃんには電話から離れてもらって。私が何を送るかも秘密にしておこう」


 猫がそのまま説明し、しばらくして準備が整った。


 スマートフォンはテーブルの上に置いたまま。


 星歌は一度目を閉じる。


 まず自分と猫を結ぶ《絆》を意識した。そこまでは簡単だった。何度も一緒に戦ってきた仲間へ繋がる、よく知った感覚だ。


 問題は、その先。


 猫から渚へ。


 静岡で一度だけ見た細い繋がりを探し、慎重に意識を伸ばしていく。


 やがて、何かに触れた。


「あ……」


 あった。


 猫から、その先へ伸びている。


 愛知にいる星歌には当然、静岡にいる渚の姿など見えない。それでも猫との《絆》を辿った先に、確かにもう一つの繋がりを感じる。


 星歌はそこへ魔力を流し込んだ。


「っ……やっぱり!」


「星歌ちゃん?」


「エヴァの時と同じ……! 猫ちゃんを通した途端、すごい勢いで魔力が減る!」


 額に汗が滲む。


 距離はまるで違う。


 エヴァは目の前にいた。


 渚は遠く離れた静岡にいる。


 それでも、誰かを一人挟んでその先へ繋いだ瞬間に感じる負荷は、よく似ていた。


「もうやめた方がいいんじゃないですか?」


「あとちょっとだけ……!」


 猫の心配そうな声に答えながら、星歌は繋がりを維持する。


 やはり重い。


 自分から猫までなら、こんな負担はない。その先にいる渚まで届かせようとした途端、まるで底に穴の開いた容器へ水を注ぎ続けているように魔力が流れ出していく。


 たった一人を挟んだだけで、これだ。


 長時間維持するなど、とても考えられない。


 星歌は猫との《絆》を辿り、その先にある渚との繋がりをしっかり掴んだ。


『渚ちゃん。聞こえたら、右手を上げて』


 意思を送り終えた瞬間、星歌はすぐに魔法を切った。


「はぁぁ……!」


 身体から力が抜け、椅子の背もたれへ倒れ込む。


「星歌ちゃん!」


「大丈夫、大丈夫……魔力使っただけだから」


 星歌は手を振った。


「でもこれ、やっぱりキツい……」


 猫は心配そうに星歌を見ながらスマートフォンを手に取る。


「渚ちゃん、今、何か聞こえました?」


 全員が猫を見る。


 返事を聞いた猫の目が大きくなった。


「……『右手を上げて』って聞こえたそうです」


「届いた……!」


 疲労でぐったりしたまま、それでも星歌の顔に笑みが浮かぶ。


 愛知から静岡へ。


 電話も通信機も使わず、自分とは直接《絆》を結んでいない渚まで、猫を経由して確かに意思を届けることができた。


「HAHAHA! すごいじゃないか、セイカ!」


「すごいけど……これ、気軽には使えないよ……」


「でも届いた!」


「それはそうだけど」


「カニコを通して私に届いた! 今度はネコを通して、遠くにいる相手にも届いた!」


「うん」


「なら、もっと色々できる!」


「その前に魔力切れで倒れそうだけどね……」


「ならもっと強くなればいい!」


「簡単に言うなぁ」


「簡単だ!」


 エヴァは胸を張った。


「分からないなら試す! できなかったら別の方法を試す! それでも駄目なら、もっと強くなってからもう一回だ!」


「……エヴァらしいね」


「だろう!」


 星歌も笑った。


 自分の《絆》について、また一つ分かった。


 直接《絆》で繋がっていない相手でも、仲間との繋がりを辿れば意思を届けられる。


 同時に、それには普段とは比較にならないほどの魔力が必要になることも分かった。


 できることが増えれば、それだけ新しく分からないことも増える。


 今は、それでいい。


     ◇


 翌日。


 中部国際空港の出発ロビーは、多くの旅行客で賑わっていた。


 短い日本滞在を終えたエヴァは、大きな荷物を傍らに置きながら星歌たちと向かい合っている。来日した時と同じ明るい表情で、これから帰国する人間とは思えないほど元気だった。


「楽しかったぞ、日本!」


「それはよかった」


「車も見た! カートにも乗った! 肉も食った! マガツも撃った!」


「最後だけ旅行の思い出に混ぜないで!」


「全部楽しかった!」


 本人が満足しているなら、それでいいのかもしれない。


 白石が時間を確認する。


「エヴァさん、そろそろ行かないと」


「分かった!」


 エヴァは荷物を持ち上げ、それから全員を見回した。


「みんな!」


「なに?」


「次に日本へ来た時も遊ぼう!」


「また遊びに来る前提なんだ」


 昴が笑う。


「もちろんだ!」


「今度はもう少し静かなところがいいです……」


 猫が小さく希望を出した。


「静かなところ?」


「カートじゃないところでお願いします……」


「HAHAHA! 考えておく!」


「考えるだけなんですね……」


 鏡子が苦笑する。


 茉莉花も小さく息を吐いた。


「次回はもう少し落ち着いた観光を希望しますわ」


「分かった! もっと速いカートを探しておく!」


「何も分かっていませんわ!」


 最後まで騒がしい。


 星歌が笑っていると、エヴァがその前へやってきた。


「セイカ!」


「うん」


「会えてよかった!」


 思っていたより真っ直ぐな言葉だった。


 エヴァが日本へ来た目的の一つは、星歌に会うことだった。実際に会ってみれば、初対面から勢いに圧倒され、そのまま豊田市まで来て、最後には一緒にマガツの戦闘にまで巻き込まれた。


 普通の出会いだったとは、とても言えない。


「私も。最初はどうなるかと思ったけど」


「なぜだ?」


「初対面から色々ありすぎたからだよ!」


「HAHAHA!」


 やはり本人は気にしていない。


「次に会う時は、もっとその魔法を使えるようになっておけ!」


「うん。でもエヴァも、今度は自分の銃声で周りの声が聞こえなくならないようにしてね」


「それは難しい!」


「即答!?」


「銃は大きい音がするから楽しい!」


「そこから!?」


 星歌は吹き出した。


 すると、エヴァが少しだけ声を落とす。


「でも――昨日は助かったぞ、セイカ」


「……うん」


「THANK YOU!」


「どういたしまして」


 星歌が笑うと、エヴァも笑った。


 そしてエヴァは、その隣にいた香仁子へ向き直る。


 二人はしばらく無言で向かい合った。


「カニコ!」


「エヴァ!」


 同時に拳を突き出す。


 ごつん、と拳がぶつかった。


「次に会う時までに、もっと強くなっておけ!」


「はぁ!? そっちこそな! 次は絶対負けねえから!」


「HAHAHA! 何の勝負だ?」


「全部だ!」


「GOOD!」


 エヴァは楽しそうに笑った。


「なら全部、私が勝つ!」


「言ったな!?」


「言った!」


「覚えとけよ!」


「もちろんだ!」


 どうやら、この二人にしんみりした別れは必要ないらしい。


 エヴァは荷物を持ち直すと、今度こそ出発口へ向かって歩き始めた。途中で一度だけ振り返り、大きく手を振る。


「GOODBYE JAPAN!」


 星歌たちも手を振り返した。


「次はもっと長く来るぞー!」


「また観光する気!?」


「もちろん!」


「やっぱり!」


「戦いにも来る!」


「そっちが後なんだ!?」


「HAHAHAHAHAHA!!」


 最後までエヴァだった。


 大きな笑い声が人混みの向こうへ消え、やがて姿も見えなくなる。


「……行っちゃったね」


 星歌が呟いた。


「ああ」


 隣で香仁子が答える。


 少し寂しそうにするかと思って横を見ると、香仁子は出発口を睨むように見つめていた。


「……次は絶対勝つ」


「何に?」


「全部」


「本気だったんだ……」


 星歌は笑った。


 短い滞在だった。


 けれど、エヴァが日本へ来たことで、星歌は自分の《絆》について今まで知らなかった可能性を一つ見つけた。そして香仁子には、海の向こうに妙なライバルができた。


「さて」


 白石が声をかける。


「私たちも行きましょうか」


「次はどこですの?」


 茉莉花が尋ねる。


「それは車に戻ってから説明するわ」


 白石が歩き出し、星歌たちもその後を追う。


 星歌は最後に一度だけ出発口を振り返った。


 もうエヴァの姿は見えない。


 それでも、これで終わりという感じはしなかった。


 また会う。


 その時までに、自分ももっと自分の魔法を知っておきたい。


「星歌ー! 置いてくぞー!」


「あ、待って!」


 香仁子の声に呼ばれ、星歌は慌ててみんなの後を追った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。