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2度目の守護者は失敗しない  作者: AIの奴隷
魔法少女も多様性

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鋼鉄の魔女 参上

第二章 第六話 鋼鉄の魔女 参上

「着いたわよ」

 白石の声に、星歌は窓の外へ目を向けた。

 静岡を発ってから数時間。次なる目的地、愛知県豊田市へ到着した。

「ここがトヨタ会館かー!」

 香仁子が窓に張りつくようにして外を見る。その横から昴も顔を覗かせ、猫まで気になったのか身を乗り出した。

「本当にここで会うんだ……」

 星歌も窓の外に見える建物を眺めた。

 静岡を発つ前に聞いてはいた。

 次に会うのは、アメリカから来日した《鋼鉄の魔女》。自分に会うことが来日の目的でありながら、本人たっての希望で待ち合わせ場所まで豊田市になった。

 理由は、日本の車が見たいから。

 聞いた時点でも妙な話だとは思ったが、実際にトヨタ会館まで連れてこられると、改めて実感する。

「カーターさんはもう着いてるわよ」

 白石はスマートフォンを確認してからエンジンを切った。

「少し前に向こうから連絡が来てる。館内にいるそうだから、こっちも行きましょう」

「どんな人なんだろうな、アメリカ代表!」

「香仁子ちゃん、それ静岡出る時から何回目?」

「だって気になるじゃん!」

「私も気になるけど……」

 星歌だって同じだった。

 エヴリン・カーター。

 アメリカの《鋼鉄の魔女》。

 自分に会うために、わざわざ海を越えてきた人物だ。

「怖い人だったらどうしましょう……」

 猫が不安そうに呟く。

「大丈夫だって!」

 香仁子が胸を張った。

「ヤバい奴だったら、ひょっとこに任せればいい!」

「俺に何をさせる気だ」

 後ろから低い声が飛んでくる。

「外交」

「断る」

「即答!?」

「そもそも、それは私の仕事よ」

 白石が車の鍵を手に取りながら、さらりと割って入った。

「組織同士の連絡や向こうとの調整は私がやるから、あなたたちは普通にしてなさい。今回は親善交流も兼ねてるんだから、変に構える必要はないわよ」

「普通にしてろってさ、香仁子」

「なんであたしを見る!?」

「一番不安だからじゃないですの?」

「茉莉花!」

「お嬢様も、人のことを言えるほど安心ではございませんが」

「なぜそこで貴方まで加わりますの!?」

「事実を申し上げただけですが」

「余計なお世話ですわ!」

 執事に食ってかかる茉莉花を見て、星歌は思わず笑った。

 アメリカ代表との初対面だと思えば緊張する。それでも、この面子でいると結局いつもの調子になってしまう。

「ほら、降りるわよ。向こうに到着予定時刻も伝えてあるんだから、あんまり待たせないの」

 白石に促され、一行は車を降りた。

     ◇

 館内へ入ると、目的を忘れたわけではないものの、星歌たちも自然と展示へ目を奪われた。

「わぁ……すごいね」

 昴がきょろきょろと辺りを見回す。

「車いっぱいだな!」

「香仁子ちゃん、その感想は雑すぎない?」

「だって詳しくねぇし」

「私もだけど」

 車に詳しくない星歌でも、実物を間近で見ればそれなりに面白い。

 茉莉花は展示の説明を一つ一つ真面目に読み、鏡子は車体を眺めながら穏やかに微笑んでいる。猫は傷でもつけてしまったら大変だと思っているのか、一人だけ展示車との距離が妙に遠い。

 執事も一台の車を興味深そうに眺めていた。

「貴方、車にも詳しいんですの?」

「多少は」

「またですの?」

「執事ですので」

「絶対に関係ありませんわよね?」

「おや、バレましたか」

「最近その言葉で何でも押し通そうとしてませんこと!?」

 そんなやり取りを横目に、白石だけはスマートフォンと周囲を交互に確認している。

 皆をここまで連れてきたのも、先方と時間を調整したのも白石だ。星歌たちが展示に気を取られている間も、本来の目的を忘れてはいない。

「この辺りにいるはずなんだけど……」

「あ」

 香仁子が足を止めた。

「あの人じゃね?」

 全員の視線が、その指先を追った。

 一人の女性が、展示車の前に立っている。

 長身で、均整の取れた体格。明るい髪に華やかな顔立ち。遠目からでも目立つ美人で、腕を組みながら車を見つめる横顔だけなら、雑誌の一ページにでもなりそうだった。

「……綺麗な人」

 猫が小さく呟く。

「先生、あの人?」

「ちょっと待って」

 白石が事前に共有されていた情報を確認し、女性と見比べた。

「ええ。エヴリン・カーター。間違いないわ」

「おお……」

 星歌は思わず声を漏らした。

 あの人が《鋼鉄の魔女》。

 自分に会うため、アメリカからやって来た人。

 そう認識した途端、星歌は無意識に、自分と彼女の間に何かがないか探していた。

 《絆》。

 静岡で帆波や渚たちと過ごしてから、以前よりも意識するようになった、人と人との間にある繋がり。

 けれど、何も見えない。

 当然だった。

 まだ言葉すら交わしていない相手だ。《絆》のラインが見えるほど繋がっているはずがない。

 今から知っていけばいい。

 そのための旅なのだから。

 星歌は意識を切り替えて、改めて女性を見る。

 こちらにはまだ気づいていない。

 エヴリンは腕を組み、真剣そのものといった眼差しで展示車を見つめていた。

 その横顔には先ほどまでの香仁子たちにはなかった真剣さがある。《鋼鉄の魔女》というくらいなのだから、金属や機械にも詳しいのかもしれない。もしかすると、日本の技術を専門家の目で観察しているのだろうか。

 そう考えると、なんとなくアメリカ代表らしい威厳まで――。

「なあ星歌」

「何?」

「あの人、よだれ垂らしてね?」

「…………え?」

 改めて見る。

「…………」

 垂れていた。

 ものすごく真剣な顔で車を見ているのに、口元から一筋。

「……垂れてる」

「垂れてますね……」

 猫まで確認した。

「かなり垂れてますわね」

 茉莉花も認める。

「……あれがアメリカ代表?」

 昴が白石を見る。

「そうよ」

「人違いの可能性は?」

「ないわね。写真とも一致してるわ」

 星歌の最後の希望が即座に潰された。

「アメリカ代表がよだれ垂らしてる……」

「車が好きだとは聞いてたけど、想像以上ね」

 さすがの白石も若干呆れている。

「まあいいわ。いつまでも眺めてるわけにもいかないし、行くわよ」

 白石が歩き出し、星歌たちもその後に続いた。

「カーターさん」

「Hm?」

 呼びかけに、女性が振り返った。

 最初に白石を見る。

 それから、その後ろにいる星歌たちへと視線を移し――星歌のところでぴたりと止まった。

「…………」

 青い目が大きく見開かれる。

「OH! SEIKA!」

「えっ?」

「HAHAHA! やっと会えたな!」

 エヴリンがこちらへ向かってくる。

 速い。

「え、ちょっ――」

 白石との挨拶も何もかもすっ飛ばして、一直線に星歌へ突っ込んできた。

「うわぁ!?」

 そのまま抱きしめられ、星歌の足が床から離れる。

「会いたかったぞ! 《絆の魔法少女》!」

「く、苦しい! 下ろしてください!」

「HAHAHAHA!」

「笑ってないで!」

「カーターさん」

 白石が横から冷静に声をかけた。

「初対面の女子高生をいきなり持ち上げないでください」

「OH! SORRY!」

 ようやく解放され、星歌の足が床へ戻った。

「び、びっくりした……」

「HAHAHA! セイカ、小さいな!」

「あなたが大きいんですよ!」

 星歌は服を整えながら、改めて目の前の女性を見上げる。

 近くで見ても、やはり美人だった。

 黙っていれば。

「改めまして」

 完全に吹き飛ばされた挨拶をやり直すように、白石が前へ出た。

「日本側で今回の行程を担当している白石です。よろしくお願いします、カーターさん」

「OH! シライシ! こちらこそよろしく!」

 エヴリンは白石の手を取り、豪快に握る。

「それと、カーターさんは堅いな!」

「はい?」

 エヴリンはにっと笑うと、自分の胸を親指で指した。

「エヴァでいい! みんなそう呼んでくれ!」

「分かりました。では、エヴァさん」

「さんもいらないぞ!」

「そこは一応、仕事なので」

「HAHAHA! シライシは真面目だな!」

 どうやら白石相手でも、この距離感らしい。

 エヴァはそのまま星歌たちへ顔を向けた。

「セイカたちもエヴァでいいぞ!」

「じゃあ……エヴァ?」

「YES!」

 満足そうに頷く。

 白石が改めて紹介を続けようとした。

「それじゃあ、こちらが今回あなたが会いに来た桃井星歌。それから――」

「そっちも知ってるぞ!」

 エヴァが片手を上げ、星歌の後ろにいる四人へ順番に目を向ける。

「《暴爆》のカニコ! 《剛力》のネコ! 《光速》のスバル! 《氷壁》のキョウコ!」

「おお!」

 香仁子が目を輝かせた。

「名前まで知ってんの!?」

「当然だ!」

 エヴァは胸を張る。

「セイカに会うために日本まで来たんだぞ? 仲間のことくらい調べてきた!」

「意外とちゃんとしてる!」

「HAHAHA! 意外とはなんだ!」

 笑い飛ばしながらも、エヴァは四人をきちんと見ている。

「面白いチームだな! 《暴爆》《剛力》《光速》《氷壁》、全員方向性がまるで違う!」

「エヴァは、やっぱり私の《絆》に興味があるの?」

「VERY!」

 即答だった。

「人と人を繋ぐ固有魔法! 面白いじゃないか!」

「それで、わざわざアメリカから……」

「そうだ!」

 エヴァは大きく頷いた。

「聞くだけより、実際に会った方が早い!」

 真正面からそう言われ、星歌は少し照れた。

 こんなにも自分に興味を持ってくれている。

 会えたことを喜んでくれているのも分かる。

 けれど、もう一度意識してみても――《絆》のラインは見えない。

 初対面なのだから、それ自体は何もおかしくない。

 それでも、目の前の好意の大きさと、自分が感じ取れる繋がりのなさが、どこかちぐはぐに思えた。

「セイカ?」

「あ、ううん。なんでもない」

「そうか!」

 エヴァはそれ以上気にしなかった。

 猫がおずおずと一歩前へ出る。

「よ、よろしくお願いします……」

「よろしくな、ネコ!」

「ひゃい!」

 返ってきた声量に猫の肩が跳ねた。

「声が大きいですわよ」

「HAHAHA! よく言われる!」

 茉莉花が呆れ、その隣で執事がいつものように微笑んでいる。

 エヴァの視線がそちらへ向いた。

「そっちは?」

「鷹司茉莉花ですわ。《茨の魔法少女》ですの」

「マリカだな! よろしく!」

「え、ええ。よろしくお願いいたしますわ」

 エヴァの勢いに押されながらも、茉莉花が応じる。

 続いてエヴァは、その隣に立つ男へ目を向けた。

「そして――」

「執事でございます」

「OH! BUTLER!」

「はい」

「本当に執事なんだな!」

「ええ。趣味でございます」

「HAHAHAHA! いいな!」

「そこで意気投合しないでくださいまし!」

 茉莉花が即座に割って入った。

「というか、なぜ初対面で堂々と趣味だと明かしてますの!?」

「隠すようなことでもありませんので」

「そこではありませんわ!」

 エヴァは楽しそうに笑い、最後に少し離れて立つひょっとこへ視線を向けた。

「…………」

「…………」

 数秒。

 エヴァの口元が震え始める。

「HAHAHAHAHAHA!」

「やっぱり笑った!」

 星歌が叫んだ。

「SORRY! 聞いてはいた! 日本の守護者は個人情報を隠すとも聞いてる! だから名前は聞かない!」

「そこはちゃんとしてるんだ……」

「BUT!」

 エヴァがひょっとこの面を指差した。

「実物は反則だろう!」

「笑うな」

「HAHAHAHA! 悪い悪い!」

「絶対悪いと思ってないよね!?」

 星歌はとうとう笑ってしまった。

 アメリカ代表との対面。

 もっと堅苦しいものになると思っていたのに、そんな緊張はもうほとんど残っていない。

 ところがエヴァは唐突に星歌の肩を掴んだ。

「ところでセイカ!」

「何?」

「見ろ!」

「え?」

 身体ごと向きを変えられる。

 そこには、先ほどエヴァがよだれを垂らしながら眺めていた車があった。

「これだ!」

「…………」

「…………」

「……車だね」

「そうだ!」

「それは分かるよ」

「Beautiful!」

 エヴァの目が再び輝き始めた。

「このライン! このボディ! 素晴らしい!」

「は、はぁ……」

「日本へ来たら絶対に見たかったんだ!」

「私に会いに来たんだよね?」

「もちろん!」

「だよね」

「セイカも大事! 車も大事!」

「同列なの!?」

「HAHAHA!」

 星歌は頭を抱えた。

 ほんの少し前まで《絆》について真剣な顔をしていたのに、もう車しか見ていない。

「星歌」

 香仁子が肩を叩く。

「なんか面白い人だな」

「うん……」

「気が合いそう!」

「早くない?」

 そう言った時には、香仁子はもうエヴァの隣へ移動していた。

「なあ、エヴァ!」

「なんだ、カニコ!」

「これ速いの?」

「速いぞ!」

「どんくらい!?」

「HAHAHA! いい質問だ!」

 エヴァが嬉しそうに香仁子の肩を組む。

「聞きたいか!」

「聞きたい!」

「よし!」

 あれだけ車が好きなのだ。

 さぞ詳しい説明が始まるのだろうと、星歌も少しだけ耳を傾けた。

 エヴァは大きく息を吸う。

「まず――」

 たっぷり溜めて。

「細かい数字は知らん!」

「知らねぇの!?」

「でも速い! そしてカッコいい!」

「分かる!」

「分かるか!」

「分かる!」

「HAHAHAHA!」

「アハハハハ!」

「…………」

 星歌は肩を組んで笑っている二人を見た。

「なんでこんなに意気投合してるの?」

「似ているのでは?」

 鏡子が穏やかに答える。

「どこが?」

「勢いが」

「否定できない……」

「私、なんとなく嫌な予感がしてきたわ」

 白石が額に手を当てた。

「この二人、混ぜちゃいけない気がする」

「奇遇ですね。私も同感です」

 執事がにこやかに頷く。

「なんでだよ!」

「HAHAHA! いいじゃないか!」

「その反応がもう不安なのよ!」

 エヴァと香仁子は、白石の心配など気にも留めず次の展示車へ向かっていく。

「エヴァ! あっちのは?」

「いいな!」

「その隣は!?」

「VERY GOOD!」

「何が違うの?」

「カッコよさだ!」

「なるほど!」

「理解したの!?」

 星歌が思わず突っ込んだ。

 出会って、まだ大して時間も経っていない。

 なのに、香仁子とエヴァは昔からの知り合いのように笑っている。

 その光景を見ていた時だった。

「…………あれ?」

 星歌は足を止めた。

 何かが見えた。

 ――ような気がした。

 自分と香仁子との間には、すでに強く結ばれた《絆》がある。

 そこからさらに先。

 香仁子とエヴァの間に、何かが伸びていたような――。

「…………」

 目を凝らす。

 けれど、もう見えない。

 静岡で感じた違和感が頭をよぎった。

 猫と渚。

 二人が特に仲良くしていた時にも、同じようなものを見た気がした。

 自分からではない。

 自分と繋がっている誰かから、さらに別の誰かへ。

「星歌?」

 昴に呼ばれ、星歌は我に返った。

「どうしたの?」

「……ううん」

 もう一度、香仁子とエヴァを見る。

 やっぱり何も見えない。

「なんでもない。気のせいかも」

 そう答えて、星歌も皆の後を追った。

「エヴァ! ほかにも見たいのある?」

「全部!」

「全部!?」

「せっかく日本まで来たんだ! 見られるだけ見る!」

「いいじゃん! 行こうぜ!」

「HAHAHA! カニコ、お前いい奴だな!」

「だろ!」

「香仁子ちゃん、完全に目的忘れてない!?」

 星歌が慌てて二人を追いかける。

 昴と猫が続き、鏡子も穏やかに歩き出した。茉莉花は呆れながら執事とその後に続き、白石は勝手に散らばり始める一行全体へ目を配りながら後を追う。

「ほら、あんまりバラバラにならない! 今日はこの後の予定もあるんだから!」

「先生が完全に引率の先生だ」

「元からあなたたちの先生よ!」

 星歌は思わず笑った。

 アメリカ代表。

 《鋼鉄の魔女》。

 エヴリン・カーター――エヴァ。

 もっと厳格な人物を想像していた。海外を代表する魔女として、自分の《絆》を厳しく値踏みされることさえ考えていた。

 実際に会ってみれば、そんな想像は最初の数分で吹き飛んだ。

「SEIKA! 早く来い!」

「待って!」

「こっちもいいぞ!」

「私に会いに来たんだよね!?」

「もちろんだ!」

「だったらもうちょっと私と――」

「OH! あれもカッコいい!」

「聞いてない!」

 豪快で、声が大きくて、距離が近い。

 星歌の《絆》には確かに強い興味を持っている。

 それと同じくらい、車にも全力だった。

 しかも、黙っていれば誰もが振り返るような美人なのに、好きな車を前にするとよだれまで垂らす。

「……残念な美人だな」

 香仁子がぼそりと呟いた。

「香仁子ちゃん、それ本人の前で言っちゃダメ!」

「ん?」

 エヴァが振り返る。

「何の話だ?」

「なんでもない!」

「そうか!」

 まったく気にせず、エヴァはまた次の車へ向き直った。

 その姿に、星歌はとうとう吹き出した。

 こうして愛知での新しい出会いは始まった。

 アメリカからやって来た《鋼鉄の魔女》、エヴァ。

 星歌が抱いた第一印象は、アメリカ代表でも、歴戦の魔女でもなく――。

 とにかく車が大好きな、豪快な残念美人だった。


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