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2度目の守護者は失敗しない  作者: AIの奴隷
魔法少女も多様性

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見られぬ素顔

第2章 3話 見られぬ素顔


静岡支部を後にした一行は、その日の宿泊先であるホテルへと移動した。


 チェックインを済ませ、それぞれ荷物を部屋へ置けば、ちょうど夕食の時間だった。


「夕食はバイキングだって!」


「バイキング!」


 香仁子が真っ先に反応し、昴もその隣で目を輝かせる。


「何があるかな!」


「お魚もありますかね……」


「猫ちゃん、さっきあれだけ食べたよね?」


「それとこれとは別です……」


「別なんだ……」


 星歌たちは連れ立ってホテルのレストランへ向かった。


 ひょっとこの姿だけはない。


 夕食には来ないらしい。


 まあ、ひょっとこなら一人で適当に済ませるのだろう。


 星歌も特に気にすることなく、レストランへ入った。


 中には和洋さまざまな料理がずらりと並んでいた。


 肉料理に魚料理、揚げ物、サラダ。静岡らしい料理もあり、その向こうにはデザートまで用意されている。


「おおー!」


「いっぱいある!」


 香仁子と昴が早速トレーを手に取る。


 猫も料理を眺めながら、その後をついていった。


 そんな中。


「…………」


 一人だけ入口付近で立ち止まっている者がいた。


「茉莉花ちゃん?」


「桃井さん」


「はい?」


 茉莉花は料理の並ぶ一角を見つめたまま、おそるおそる尋ねる。


「これは……本当に食べていいんですの?」


「え?」


「ここに並んでいる料理ですわ」


「そりゃ、夕食ですから」


「どれを?」


「どれでも」


「…………好きなだけ?」


「バイキングですからね」


「…………」


 茉莉花はもう一度、料理を見る。


「追加料金などは?」


「ないですよ。宿泊代に入ってます」


「…………本当に?」


「本当に」


「…………」


 茉莉花は静かにトレーを取った。


 その表情が変わる。


「――食い溜めですわ」


「何に備えて!?」


「明日は港で釣りなのでしょう? 今のうちに食べておけば、明日の昼食を減らせますわ!」


「一食浮かせようとしないで!」


「食べられる時に食べておく。これぞ生活の知恵ですわ!」


「元お嬢様から聞きたくなかった!」


「元は余計ですわよ!」


 そう言いながらも、茉莉花の手は止まらない。


 肉を取る。


 魚を取る。


 揚げ物を取る。


 サラダも取る。


 さらにもう一皿。


「ちょっと茉莉花ちゃん!?」


「ご安心なさい。きちんと食べ切れる量ですわ」


「その山盛り二皿を!?」


「当然ですわ!」


 胸を張る茉莉花の後ろから、静かな声が飛んだ。


「お嬢様」


「なんですの?」


「食べ過ぎにはお気をつけください」


「分かっていますわよ」


「明日の予定に差し支えますので」


「この程度でわたくしが音を上げるとでも?」


「左様でございますか」


 執事はそれ以上何も言わなかった。


     ◇


「…………」


 約一時間後。


 茉莉花は椅子の背にもたれ、完全に動きを止めていた。


「茉莉花ちゃん?」


「……なんですの?」


「大丈夫?」


「当然ですわ……」


「全然大丈夫そうじゃないけど」


「少々……想定よりも……満腹になっただけですわ……」


「それを食べ過ぎっていうんだよ」


「後悔は……しておりませんわ……」


「すっごい苦しそうに言われても」


 茉莉花がお腹を押さえる。


「ですが……これで明日の昼までは……」


「お嬢様」


 執事が呼びかけた。


「……なんですの?」


「明日の朝食もバイキングですよ」


「…………へっ?」


 茉莉花の顔が上がった。


「朝食も、好きなものを好きなだけお召し上がりいただけます」


「…………」


 茉莉花は自分のお腹を見た。


 次に執事を見た。


「…………先に言いなさいよぉ……」


「お尋ねになりませんでしたので」


「執事ぃぃぃ……!」


 茉莉花の悲痛な声に、香仁子が吹き出した。


「食い溜めする意味なかったじゃん!」


「言わないでくださいまし!!」


 結局、茉莉花はしばらく席から動けなかった。


     ◇


 夕食を終え、それぞれが部屋へ戻った後。


 星歌たちの部屋では、少女たちが翌日の予定について話しながら思い思いにくつろいでいた。


「明日、何釣れるかなー」


 ベッドに寝転んだ昴が、足をぱたぱたと動かしている。


「渚さんがいるんだから、何かしら釣れるんじゃない?」


「いっぱい釣れたら、また食べられますかね……」


「猫ちゃん、ほんっと魚好きだね」


「おいしいので……」


 星歌が苦笑していると、香仁子がふと身体を起こした。


「……そういやさ」


「何?」


「ひょっとこ、夕飯にもいなかったよな」


「ああ、そういえば」


「どこにいるんだろ」


「自分の部屋じゃない?」


 昴の言葉に、香仁子の動きが止まった。


「…………」


「どうしたの?」


「いや……」


 香仁子がゆっくりと笑う。


「ホテルの部屋ならさ」


「うん?」


「寝る時くらい、あの面外すよな?」


「…………」


 部屋が静まり返った。


「あ」


 昴が起き上がった。


「今なら素顔見られるんじゃない!?」


「ダメだよ!!」


 星歌が即座に止めた。


「なんでだよ!」


「なんでって、ひょっとこさんが隠してるものを勝手に見ちゃダメでしょ!」


「でも気になるだろ!」


「気になるけど!」


「気になるんじゃん!」


「それとこれとは別!」


「ボクも見たい!」


「昴ちゃんまで!」


「わ、私も……」


 猫がおずおずと手を上げる。


「ちょっとだけ……気になります」


「猫ちゃん!?」


 三対一。


 だが、まだ頼れる人がいる。


 星歌は最後の希望へ振り向いた。


「鏡子先輩からも何か言って――」


「行きますよ、皆さん」


「え?」


 鏡子はすでに立ち上がっていた。


 しかもドアの前にいる。


 手はドアノブに掛かっている。


「早っ!!」


「こういう機会は滅多にありませんから」


「鏡子先輩が一番乗り気!?」


「さあ」


 扉が開いた。


「行きましょう」


「待って待って待って!」


 鏡子を先頭に、香仁子、昴、猫がぞろぞろと廊下へ出ていく。


「勝手に入っちゃダメだからね! 絶対だからね!」


 結局、星歌も慌ててその後を追った。


     ◇


「ここだよな?」


「たぶん」


 五人はひょっとこに割り当てられた部屋の前に集まっていた。


「まずノックだからね」


「分かってるって」


 香仁子が扉を叩く。


 コンコン。


「ひょっとこー?」


「香仁子ちゃん! せめてさん付け!」


 返事はない。


 もう一度。


 コンコン。


「ひょっとこさーん?」


 返事はない。


「……寝てる?」


「もう?」


「お風呂かもしれませんね」


「お風呂!」


 昴が目を輝かせる。


「それなら絶対面外して――」


「だから覗いちゃダメだって!!」


「分かってるよ!」


「その顔絶対分かってない!」


 鏡子が静かにドアノブへ手を伸ばした。


「鏡子先輩!?」


「安心してください。開けませんよ」


「あ、よかった……」


「鍵が掛かっているか確認しただけです」


「なんで確認する必要が!?」


 当然、鍵は掛かっている。


「いませんかね……」


 猫が小さく呟く。


「でも、部屋にはいるんじゃない?」


「寝てたら聞こえないか」


「もう少し待つ?」


「待たないよ!」


 星歌が四人を押し戻す。


「もう帰る! ひょっとこさんにも迷惑だから!」


「えー!」


「えーじゃない!」


「あと十分!」


「何を十分待つの!?」


 結局、五人は素顔を見るどころか、ひょっとこの姿すら確認できないまま部屋へ戻ることになった。


 ――その頃。


     ◇


「ねえねえ、執事さん」


「はい、なんでしょう」


 ホテルの別室では、小さな酒宴が開かれていた。


 白石、新田、茉莉花の執事。


 そして――望月朔。


 守護者の身元を秘匿する必要のない面々しかいないため、朔は素顔のまま席についている。


 もっとも、高校生である朔の前に置かれているのは酒ではない。


 湯呑みに入ったお茶だった。


 対して白石は、すでに随分と機嫌がいい。


「執事さんってさぁ」


「はい」


「茉莉花さんのこと好きなの?」


 新田がグラスを置いた。


 朔もお茶を飲む手をわずかに止める。


 だが、執事は表情一つ変えなかった。


「ええ、好きですよ」


「ひゃー! 素直ねー!」


 白石が楽しそうに笑う。


「昔から犬派なんですよ」


「ペット扱いかーい!」


「お嬢様は犬ではございませんよ」


「今の流れでよく言えるわね!?」


「よく懐き、よく吠え、少々手がかかるところなどは大変愛らしいと思っております」


「完全に犬として褒めてるじゃない!」


「失礼な。お嬢様はお嬢様です」


「そこだけは絶対なのね!」


 白石は笑いながらグラスを傾けた。


 そして次の標的を見つける。


「じゃあ望月くんは?」


「何がだ」


「あの五人のこと、どう思ってるの?」


「護衛対象だ」


「そうじゃなくてー」


 白石が身を乗り出した。


「可愛いとか、好みとかないわけ?」


「ない」


「即答!」


「聞かれたから答えただけだ」


「一人くらいいないの? 毎日女の子五人と一緒にいるのよ?」


「いない」


「つまんなーい!」


 白石がテーブルへ突っ伏す。


「望月くん、高校生でしょー? もっとこう、青春とかないのー?」


「余計なお世話だ」


「つまんなーい」


 朔は相手にせず、お茶を飲む。


「じゃあ……」


 白石の視線が動いた。


「ゴーグルさんはどうなのよ」


「私ですか?」


「渚ちゃんとはさすがに歳離れすぎだけど、《船の魔女》とは歳近いんじゃないの?」


「…………」


「帆波さんだっけ? 美人だし――」


「ホント勘弁してください」


 低かった。


 声量は変わっていない。


 口調も丁寧なままだった。


 それなのに、冗談ではないことだけは嫌というほど伝わった。


「あ、すいません」


 白石が一瞬で素に戻る。


「…………」


「…………」


 短い沈黙。


 朔がお茶を飲んだ。


「何があったんだ」


「聞かないでください」


「分かった」


「引くの早いわね、望月くん」


「今の声を聞いて掘り下げるほど馬鹿じゃない」


「……私、掘り下げちゃったんだけど」


「白石様」


 執事が静かにグラスを置いた。


 その声に、白石が顔を上げる。


「我々は守護者です」


 先ほどまでとは声音が違った。


「……え?」


「いつ、命を落とすか分からないのですよ」


 執事は淡々と言葉を続ける。


「明日にでも、担当する魔法少女を守って死ぬかもしれません」


 白石から、酔った笑みが少しずつ消えていった。


「担当する魔法少女との信頼関係は必要です。命を預け、命を預かる以上、なくてはならないものでしょう」


 誰も口を挟まない。


「ですが――好いても、好かれてもいけません」


「…………」


「我々守護者がいなくなった後、辛い思いをするのは彼女たちですから」


 静かな声だった。


 だが、その言葉は重かった。


 新田は黙ってグラスを見つめている。


 朔も何も言わない。


 ただ、手元のお茶へ視線を落としていた。


 白石はしばらく黙ってから、小さく息を吐いた。


「……ごめんなさい。ちょっと悪ノリしすぎたわ」


「いえ。ご理解いただければ」


「…………」


 少しだけ気まずい空気が流れる。


 やがて白石が、ちらりと執事を見た。


「……じゃあ、茉莉花さんのこと犬扱いしてるのも、そのため?」


「いえ」


 執事は即答した。


「あれは普通に犬っぽいので」


「そこは関係ないのかーい!」


 再び白石の声が部屋に響く。


 新田が小さく笑い、朔は呆れたようにお茶を飲んだ。


 その頃。


 ほんの少し前まで、自分の部屋の前で五人の少女が素顔を狙って待ち構えていたことを――。


 朔はまだ知らなかった。



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