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2度目の守護者は失敗しない  作者: AIの奴隷
失敗しない男と落ちこぼれ魔法少女

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花は儚い

十五話 花は儚い

数日後。


《異常災害対策統括機構》の訓練施設。


「…………」


桃井星歌は。


検査室の椅子に座っていた。


腕には。


いくつもの測定器が取り付けられている。


正面のモニターには。


星歌自身には意味の分からない数字と波形が。


延々と並んでいた。


「それで?」


「はい」


白衣を着た職員が。


モニターを見る。


「今回も、魔法の発動そのものは確認されています」


「うん」


「魔力の消費も確認されています」


「うん」


「ですが」


「うん」


「…………」


「…………」


職員が。


申し訳なさそうに言った。


「やはり、何が起きているのか分かりません」


「でしょうね!!」


知っていた。


何度目だ。


この結果。


魔法は発動している。


魔力も消費している。


なのに。


何が起きているのか。


分からない。


「前回から何か変化は?」


「数値上は特に」


「新しく分かったこととか」


「ありません」


「可能性とか」


「現時点では何とも」


「…………」


星歌は。


天井を見上げた。


「私、本当に魔法使えてる?」


「そこだけは間違いありません」


「そこだけ確定してるのが一番腹立つんだけど」


発動していないなら。


まだ納得できる。


使えている。


なのに。


何をしているのか分からない。


訓練を始めて。


一年。


そして。


実戦に出るようになった今でも。


何も分からない。


「…………はぁ」


検査を終え。


測定器を外してもらった星歌は。


訓練区画へ続く廊下を歩いていた。


今日の用事は。


これで終わり。


そのはずだった。


ドゴンッ!!


「…………」


星歌が。


足を止める。


ドゴンッ!!


もう一度。


何かが。


壁にぶつかるような音。


「…………嫌な音」


最近。


似たような音には。


だいぶ慣れてしまった。


星歌は。


音のする方へ歩いていく。


訓練場を覗く。


そこにいたのは。


猫だった。


「えいっ!」


ぶんっ!


小さな石が。


猛烈な勢いで飛んだ。


そして。


標的から。


三メートルほど横を通過した。


ドゴンッ!!


後方の防護壁に。


めり込んだ。


「…………」


「…………」


猫が。


星歌に気づいた。


「あ、桃井さん」


「何してんの?」


「投げる練習です」


「それは見れば分かる」


猫の前には。


大小様々な石。


そして。


距離ごとに並べられた標的。


「この前、ひょっとこさんに遠くから倒せって教えてもらったので」


「うん」


「ちゃんと狙ったところに投げられるようになろうと思って」


「…………」


星歌が。


防護壁を見る。


石が。


深々とめり込んでいる。


標的を見る。


無傷。


「まず当てようか」


「はい……」


「威力はもう十分だから」


「はい……」


猫が。


次の石を持つ。


標的を見る。


慎重に。


構える。


「えいっ」


ぶんっ!


ドゴンッ!!


「…………」


「…………」


今度は。


反対側だった。


「惜しいです」


「どこが!?」


「さっきより近かったです」


「前向きね!?」


それでも。


猫は。


また石を拾った。


怖いから。


近づかない。


なら。


遠くから倒せるようになる。


そのために。


ちゃんと狙ったところへ。


投げられるようになる。


あの日。


ひょっとこに教えられた戦い方を。


猫なりに。


伸ばそうとしている。


「…………」


星歌は。


少しだけ笑った。


「頑張ってるじゃん」


「はい」


猫も。


小さく笑った。


その時。


隣の訓練区画から。


声が聞こえた。


「これは?」


「近距離用です。安全装置はこちらに」


「じゃあ、こっちは?」


「それは携行火器ですが、流星さんには少し大きいかもしれません」


「持ってみていい?」


星歌が。


そちらを見る。


「…………昴?」


机いっぱいに。


《組織》の訓練用装備が並べられている。


その前で。


昴が職員から説明を受けていた。


一つ一つ。


実際に手に取っている。


「これは走れそう!」


「では候補に入れましょう」


「こっちは?」


「まず操作方法を覚えてからです」


「はーい」


「流星さんの場合、持って走れるかだけではなく、安全に使用できることも重要ですからね」


「分かってるよ」


「前回ランチャーを三丁使った人の返事とは思えませんが」


「あれはひょっとこさんがいいって言った!」


「それについては現在、司令官が頭を抱えています」


「なんで!?」


「三丁使ったからです」


「ちゃんとマガツ倒したのに!」


「三丁使ったからです」


「むぅ……」


どうやら。


この前の戦闘を受けて。


昴は。


自分が扱える武器について。


一から勉強を始めたらしい。


自分には。


攻撃力がない。


なら。


攻撃力のあるものを。


持ってくればいい。


そのために。


何を持てるのか。


どう使うのか。


何が危険なのか。


覚えている。


「あれ?」


昴が。


星歌に気づいた。


「星歌も訓練?」


「私は検査」


「そっか!」


昴は。


すぐに次の装備へ視線を戻した。


「ねえ、これは!?」


「それは――」


楽しそうに。


職員へ質問している。


「…………」


星歌は。


その様子を眺め。


訓練場を出た。


ぽんっ。


今度は。


小さな音が聞こえた。


「?」


別の区画を覗く。


そこにいたのは。


香仁子だった。


人差し指の先に。


小さな《魔力球》が浮いている。


「よーし……」


香仁子が。


ゆっくりと指を動かす。


魔力球が。


空中を移動する。


曲がり。


止まり。


再び進む。


そして。


小さな標的の前で。


ぴたり。


と止まった。


「そこ!」


ぽんっ。


小さな爆発。


標的だけが。


ころん。


と倒れた。


「…………」


「よっしゃ!」


香仁子が。


拳を握る。


「できてるじゃん」


「お?」


香仁子が。


振り返った。


「星歌じゃん」


「いつの間にそんな細かいことできるようになったの?」


「ふっふっふ」


香仁子が。


得意げに胸を張る。


「いつまでも全部ドカーンの女だと思うなよ」


「自覚あったんだ」


「失礼な」


「今まで散々ドカーンしてきたでしょうが」


「だから練習してんの!」


香仁子が。


もう一度。


小さな《魔力球》を作る。


以前から続けている。


魔力操作の訓練。


小さく。


正確に。


思ったところへ。


思っただけの魔力を。


「ひょっとこさんには抑えるなって言われたけどさ」


魔力球が。


ふわりと浮かぶ。


「別に、制御しなくていいって意味じゃないし」


「まあ、そうね」


「どうせ爆発するなら」


香仁子が。


指を動かす。


魔力球が。


二つの標的の間を抜ける。


そして。


三つ目の前で。


止まった。


「好きなところで」


ぽんっ。


爆発。


「好きな大きさで」


今度は。


少し大きな《魔力球》。


「好きなタイミングで」


香仁子が。


にやりと笑った。


「自由自在に爆発させられた方が強いじゃん」


「…………」


星歌は。


倒れた標的を見る。


「目標は?」


「自由自在にドカーン」


「結局ドカーンなのね」


「そこは譲れない」


「なんでよ」


香仁子が。


次の《魔力球》を作り始める。


星歌は。


その場を離れた。


廊下を歩く。


猫は。


投げる練習を始めた。


昴は。


武器について学び始めた。


香仁子も。


ずっと続けてきた魔力操作を。


自分の戦い方に合わせて。


さらに磨こうとしている。


「…………」


星歌は。


自分の手を見る。


今日も。


魔法は発動した。


今日も。


魔力は減った。


そして。


今日も。


何が起きたのか。


分からなかった。


一年間。


ずっと。


分からないまま。


「…………なんなのよ」


手を。


握る。


「私の魔法……」


何を練習すればいいのか。


それすら。


分からない。


みんなは。


少しずつ。


前へ進んでいる。


なのに。


自分だけ。


スタート地点すら。


見つからない。


「…………」


星歌は。


握った手を。


ゆっくり開いた。


何も。


起きなかった。




その頃。


須久井鏡子は。


自宅にいた。


「鏡子。そこ、少し長いわ」


「ここ?」


「そうそう。もう少しだけ」


「分かった」


鏡子の前には。


花器と。


色とりどりの花。


休日。


母から生け花を教わるのは。


須久井家では。


そう珍しいことではない。


鏡子が。


一本の花を手に取る。


角度を変え。


長さを見る。


「これくらい?」


「もう少し短くてもいいわね」


「分かった」


鏡子が。


鋏を構える。


「そういえば鏡子」


「なに?」


「卒業後のことなんだけど」


「うん」


母は。


鏡子の生けた花を眺めながら。


何気なく。


本当に。


何気なく。


言った。


「あなた、結婚することになったから」


「え?」


チョキン。


ぽとり。


「…………」


「…………」


切る予定ではなかった花が。


一本。


床へ落ちた。


本日の被害者である。


「…………え?」


鏡子が。


母を見る。


「結婚」


「…………誰が?」


「あなたが」


「…………私が?」


「ええ」


母は。


当たり前のように頷いた。


そして。


もう一つ。


思い出したように。


付け加えた。


「だから」


「…………?」


「魔法少女も辞めなさいね」


「…………」


鏡子は。


母を見る。


床を見る。


そこには。


先ほどの花。


「…………」


もう一度。


母を見る。


「…………え?」


床には。


何の罪もない花が。


一本。


転がっていた。


本日の被害者である。


――つづく。


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