戦々恐々 パワーガール
第十話 戦々恐々 パワーガール
「と、とりあえず壁の後ろ!」
星歌の声に、五人が一斉に駆け出した。
「《氷壁》!」
鏡子が展開した氷の壁。
その直後。
――ガガガガガガッ!
空から降り注いだ棘が、氷壁へ次々と突き刺さる。
「この距離なら大丈夫! まだ保つわ!」
「問題はそこじゃないのよ!」
星歌は氷壁の向こう。
上空を漂う薄紫色のクラゲ型マガツを睨んだ。
「防げるけど攻撃が届かない! どうするのよ!」
「考え中」
「ひょっとこさんも!?」
当然のように答えたひょっとこ面へ、星歌が振り返る。
「なんかあるんじゃないの!? いつもみたいな変な解決方法!」
「だから考えている」
「本当に考えてる!?」
「もっと大きく爆発させてみる?」
「却下!」
香仁子の提案を星歌が即座に切った。
「じゃあボクが速く走って――」
「昴、空走れる?」
「走れないよ?」
「じゃあ無理じゃない!」
「だからボクもそう思った!」
「元気よく言うなぁぁぁぁぁ!!!」
「あ、あのぉ……」
おずおずと。
猫が手を上げた。
「私……このままここにいてもいいでしょうか……?」
「駄目だ」
「ですよねぇ……」
即答だった。
猫がしゅんとうつむく。
その時。
――ガガガガガッ!
再び降り注ぐ棘。
何本かが氷壁から外れ、周囲のアスファルトへ突き刺さった。
――バキッ!
舗装が砕ける。
小さなアスファルト片が跳ね。
ころころと転がり。
朔の足元で止まった。
「…………」
朔はそれを見る。
石。
そして。
猫を見る。
「……?」
空を見る。
薄紫色のクラゲ型マガツ。
もう一度。
猫を見る。
「…………?」
「宍戸」
「いやですぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」
「まだ何も言ってないぞ」
「絶対ろくなことじゃないですぅぅぅぅぅ!!!」
猫が逃げた。
「あ、猫!?」
「待ちなさい!」
星歌の制止など聞こえていない。
《剛力》。
その力を。
ただ、脚へ。
技術などない。
効率など考えていない。
走法と呼べるものですらない。
ただ。
力任せに。
地面を蹴る。
たった、それだけ。
――ドンッ!
地面が鳴った。
小さな身体が弾けるように飛び出す。
もう一歩。
――ドンッ!
さらに加速する。
ただただ。
圧倒的な力で。
地面を後ろへ蹴り飛ばす。
それだけで。
小さな身体は。
景色を置き去りにした。
風を置き去りにした。
空気さえ置き去りにするように。
一直線に。
宍戸猫は駆けていく。
「いやですぅぅぅぅぅ!!!」
「宍戸!」
朔も走った。
「ひょっとこさんまで!?」
「ちょっと! 二人とも!?」
星歌の声が遠ざかる。
猫は速い。
圧倒的に。
速い。
単純な身体能力で。
朔が勝てる相手ではない。
だから。
朔は。
一歩も無駄にしない。
一動作も無駄にしない。
重心。
歩幅。
踏み込み。
着地。
呼吸。
身体の傾き。
すべてを。
次の一歩へ繋げる。
本来なら。
足音へと変わり。
地面へ逃げ。
失われていくはずの力すら。
前へ進むための運動へ変える。
最短。
最善。
最高効率。
そして。
道を選ばない。
壁があるなら越える。
塀があるなら走る。
屋根が近ければ屋根へ上がる。
道が曲がっているなら。
曲がらない。
技術の極地。
それが。
圧倒的な力で走る猫を。
ただの人間である朔が追う方法だった。
「なんで追いついてくるんですかぁぁぁぁぁ!?」
猫が振り返る。
「近いからだ」
「何がですかぁぁぁぁぁ!?」
「こっちの方が」
朔が塀を蹴る。
屋根へ。
屋根から物置へ。
物置からフェンスへ。
そして。
猫の進行方向へ。
「目的地まで近い」
「道じゃないですぅぅぅぅぅ!!!」
「お前が曲がるからだ」
「道が曲がってるんですぅぅぅぅぅ!!!」
猫がさらに地面を蹴った。
――ドンッ!
直線。
一瞬で。
朔との距離が開く。
身体能力なら。
猫の圧勝。
だが。
次の角。
猫は道に沿って曲がる。
朔は。
曲がらない。
壁を蹴り。
塀を越え。
建物の間を抜ける。
「なんでまた近づいてくるんですかぁぁぁぁぁ!!!」
「お前が曲がったからだ」
「だから道が曲がってるんですぅぅぅぅぅ!!!」
その時。
上空から。
一本の棘が飛来した。
「ひょっとこさん!」
猫が叫ぶ。
朔の進行方向へ。
鋭い棘が迫る。
だが。
朔は避けなかった。
――タンッ。
「…………え?」
一瞬。
飛来する棘を。
足場にした。
そのまま。
跳ぶ。
「今なに踏みましたぁぁぁぁぁ!?」
「棘」
「飛んでましたよねぇぇぇぇぇ!?」
「ああ」
「なんで踏めるんですかぁぁぁぁぁ!!!」
「タイミングを合わせればいい」
「よくないですぅぅぅぅぅ!!!」
猫が逃げる。
朔が追う。
直線では離され。
曲がれば縮め。
また離され。
また縮める。
やがて。
猫が角を曲がった。
「え?」
その先。
ひょっとこがいた。
「なんで先にいるんですかぁぁぁぁぁ!?」
「近いからだ」
「それもう聞きましたぁぁぁぁぁ!!!」
方向転換。
しかし。
遅い。
腕を掴まれた。
「捕まえた」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
猫が全力で腕を振る。
《剛力》。
小さな身体からは想像もできない力。
それでも。
朔の手は外れない。
「なんで!?」
さらに力を込める。
「なんで私の力で振りほどけないのぉぉぉぉぉぉ!?」
「コツは、てこの原理を上手く使うことだ」
「絶対違うううううううううう!!!」
もっともな指摘だった。
「嫌です! 投げないでください! 私をあのクラゲさんたちの真ん中に投げないでくださいぃぃぃぃぃ!!!」
「投げない」
「…………え?」
「お前は投げない」
「ほ、本当ですか?」
「ああ」
朔が。
先ほど拾ったアスファルト片を見せる。
「投げるのは」
猫の前へ差し出した。
「石」
「…………石?」
「お前が投げろ」
「…………はい?」
◇
猫は。
渡されたアスファルト片を見つめた。
「これを……ですか?」
「ああ」
「クラゲさんに?」
「ああ」
「投げる?」
「ああ」
「…………」
猫は空を見る。
高い。
とても高い。
「あ、あそこまで届きませんよ?」
「お前なら届く」
「でも私、投げるのなんて……」
「狙わなくていい」
「え?」
「一体を狙う必要はない」
クラゲ型マガツは。
上空に群れている。
「固まっているところへ投げろ」
「…………」
「外しても構わない」
「…………はい」
猫が。
恐る恐る。
石を握る。
「投げろ」
「え、えいっ!」
――ズドンッ!
「ひゃっ!?」
投げた本人が驚いた。
アスファルト片が。
凄まじい速度で空へ消える。
そして。
――ドォン!
一体のクラゲ型マガツを直撃した。
半透明の身体が大きく歪み。
そのまま。
地上へ墜落する。
「…………」
猫が固まった。
「…………当たった」
「ああ」
「私……近づいてませんよね?」
「ああ」
「でも……倒せた?」
「ああ」
猫が。
クラゲを見る。
自分の手を見る。
そして。
朔を見る。
「これ……近づかなくてもいいんですか?」
「怖いんだろ?」
「はい!」
「なら近づくな」
朔は。
次のアスファルト片を拾う。
「遠くから倒せ」
「…………はい!」
猫が受け取った。
今度は。
ほんの少しだけ。
嬉しそうに。
「えいっ!」
――ズドォン!
外れた。
「…………」
「…………」
「ご、ごめんなさい……」
「謝る必要はない」
朔は。
猫の構えを見る。
「力は十分だ」
「はい」
「問題は投げ方だ」
「投げ方……」
「もう一球」
「はい!」
◇
「ちょっと待って! 二人ともどこまで行ったのよ!」
星歌が叫ぶ。
「私に言われても分からないわよ!」
「《氷壁》!」
鏡子が氷壁を展開する。
――ガガガガガッ!
降り注ぐ棘を受け止める。
四人は。
氷壁を盾にしながら。
朔と猫が消えた方向へ移動していた。
「もう! 猫ってあんなに速かったの!?」
「《剛力》だからねー」
「逃げる時だけ本領発揮しないでよ!」
「でも、ひょっとこさんも追いかけてったよね」
昴が首を傾げる。
「追いつけるの?」
「知らないわよ!」
「なんか屋根走ってたよ?」
「それも知らないわよ!」
――ドォン!
「ひゃっ!?」
突然。
遠くで音が響いた。
「何!?」
「爆発?」
「私じゃないよ?」
「分かってる!」
星歌が空を見る。
「…………え?」
一体のクラゲ型マガツが。
大きく体勢を崩し。
そのまま。
地上へ墜落していった。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………え? 何、今の」
昴が墜落したマガツを指差す。
「ひょっとして、《砲撃の魔女》さん?」
「え?」
星歌も。
慌てて周囲を見回す。
「でも、応援は断ったって……」
「それは前回でしょ」
鏡子が言った。
「今回は断って…………」
「…………」
「…………」
「…………ないわよね?」
四人の間に。
なんとも言えない沈黙が落ちた。
「ひょっとこさんなら断りそうですね」
香仁子が言った。
「…………否定できない」
「じゃあ《砲撃の魔女》さんじゃないのかな?」
「分かんないわよ。そもそも応援が来てるかどうかも――」
――ドォン!
「また落ちた!?」
二体目。
また一体。
クラゲ型マガツが墜落していく。
「…………」
「…………」
星歌は。
墜落したマガツと。
朔と猫が消えていった方向を交互に見た。
「……と、とりあえず確かめに行こうか」
「そうね」
「うん」
「そうしよう」
四人は。
鏡子の《氷壁》を盾に。
音のした方向へ進み始めた。
――ドォン!
「また!?」
さらに進む。
――ドォン!
「ちょっと待って! 何体落ちてるの!?」
「やっぱり誰か戦ってるよ!」
「だから誰よ!?」
そして。
ようやく。
四人は。
その正体を見つけた。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
道路脇。
ひょっとこ面をつけた男が。
腕を組んで立っていた。
その少し前。
猫が。
アスファルト片を握っている。
「足を上げろ」
「はい!」
「踏み込む」
「はい!」
「腕だけで投げるな。身体を使え」
「はい!」
「目標を見る」
「はい!」
「投げろ」
「えいっ!」
猫が振りかぶる。
一歩。
踏み込む。
投げた。
――ズドォォォォォン!!!
石。
というには。
あまりにも凶悪な速度で飛翔したアスファルト片が。
上空のクラゲ型マガツを直撃した。
吹き飛ぶ。
墜落。
「当たりました!」
「今のはいい」
「はい!」
「その感覚を覚えろ」
「はい、コーチ!」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「何やってんのよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
星歌の絶叫が響いた。
「ん?」
「あっ、皆さん!」
「『あっ、皆さん!』じゃないわよ!」
星歌が駆け寄る。
「何してるの!?」
「戦ってます!」
「それは見れば分かるわよ!」
猫は。
嬉しそうに手の中の石を見せた。
「ひょっとこさんに投げ方を教えてもらってます!」
「なんで戦闘中にピッチング教室始まってんのよ!!」
「命中精度が悪かった」
「だからって!」
「練習すればいい」
「理屈は分かるけど納得したくない!」
「もう一球」
「はい!」
「続けるなぁぁぁぁぁ!!!」
猫が構える。
「さっきより少し右だ」
「はい!」
「敵一体を狙わなくていい。固まっている場所を狙え」
「分かりました!」
「投げろ」
「えいっ!」
――ズドォォォン!
「あっ」
外れた。
「…………」
「…………」
猫がしゅんとうつむいた。
「ご、ごめんなさい……」
「謝る必要はない」
朔が次の石を渡す。
「もう一球」
「はい!」
「左」
「はい!」
「投げろ」
「えいっ!」
――ズドォォォン!
命中。
「やった!」
「よし」
「…………」
星歌は。
目の前の光景を見る。
猫。
笑っている。
「ね、猫……?」
「はい?」
「怖く……ないの?」
「…………」
猫は。
空を見た。
高い。
遠い。
クラゲ型マガツは。
遥か上空にいる。
「怖くないです」
「え?」
「だって」
猫が笑った。
「敵さん、あんなに遠くにいるんですよ!」
石を持つ。
「近づかなくていいんです!」
構える。
「触らなくていいんです!」
踏み込む。
「殴らなくていいんです!」
投げる。
「石を投げるだけなんです!」
――ズドォォォォォン!!!
クラゲ型マガツが吹き飛んだ。
「だから怖くないです!」
「…………」
星歌は黙った。
昨日まで。
戦いたくないと泣いていた。
近づくのが怖いと。
ずっと。
そう言っていた。
何も。
変わっていない。
猫は。
今も。
敵へ近づくのが怖い。
だから。
近づかなかった。
「これ……近づかなくてもいいんですよね?」
猫が。
改めて朔を見る。
「ああ」
「本当に?」
「怖いんだろ?」
「はい!」
「なら近づくな」
朔は空を見る。
「遠くから倒せ」
「はい!」
猫が。
嬉しそうに。
次の石を探す。
「…………あれ?」
探す。
「石……」
探す。
「なくなりました」
周囲に転がっていた手頃なアスファルト片は。
使い切っていた。
「あら」
「じゃあ、どうするの?」
「作ればいい」
朔が答えた。
「…………作る?」
「地面を砕け」
「…………」
猫が足元を見る。
道路。
「お前ならできる」
「…………はい!」
「待って」
星歌が言った。
「待って猫」
猫が拳を握る。
「待ちなさい」
振り上げる。
「ちょっと待って」
そして。
「猫ぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「えいっ!」
――ドゴォォォォォォォン!!!
「「「「ひぃっ!?」」」」
道路が。
砕けた。
舗装が割れる。
アスファルト片が舞い上がる。
ひび割れる。
陥没する。
そして。
大量の破片が。
猫の周囲へ転がった。
「…………わぁ」
猫の目が輝く。
「弾がいっぱいです!」
「道路ぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「これ全部投げていいんですか!?」
「いいぞ」
「いいぞじゃない!!!」
「じゃあ行きます!」
「聞いてぇぇぇぇぇ!!!」
猫が拾う。
構える。
投げる。
――ズドォォォォォン!!!
一体。
拾う。
投げる。
――ズドォォォォォン!!!
もう一体。
「わぁ!」
猫が笑う。
「楽しいです!」
「怖い怖い怖い!!!」
星歌が後ずさる。
「今の猫の方が怖いから!!!」
「楽しいですよ?」
「その笑顔で言わないで!」
「香仁子さんもやってみます?」
「やりたい!」
「やらなくていい!」
「でも自分で爆発するのも楽しいよ?」
「そこで意気投合しないで!」
「仲間が増えた!」
「増やさないでぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「…………」
昴が。
そんな二人を見る。
そして。
鏡子を見る。
星歌を見る。
「ボクたち、あと三人いるんだよね」
「…………」
「…………」
「…………」
三人が。
ゆっくりと。
ひょっとこを見る。
「…………私たち」
星歌が震える。
「最終的にどうなるの……?」
「知らん」
「怖いよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
◇
やがて。
最後の一体へ。
猫の投げたアスファルト片が突き刺さった。
――ズドォォォォォン!
薄紫色の身体が大きく揺れる。
そのまま。
落下。
地面へ激突した。
『敵性反応、消失』
通信が入る。
『全マガツの撃墜を確認しました』
「終わった……」
星歌が息を吐く。
「やりました!」
猫が。
両手を上げる。
「私でも、ちゃんと戦えました……!」
「…………そうね」
星歌は笑った。
「ちゃんと戦えてたわよ」
「はい!」
猫も。
笑った。
誰も怪我をしていない。
クラゲ型マガツは。
全て撃墜。
戦闘終了。
完勝だった。
ただし。
「…………」
星歌は。
ふと。
足元を見た。
「…………ねえ」
「何?」
昴が振り返る。
「これ」
星歌が指差す。
「…………道路だったわよね?」
「…………」
「…………」
「…………」
かつて。
そこには。
道路があった。
穴。
ひび。
陥没。
砕けたアスファルト。
さらに穴。
さらにひび。
さらに陥没。
見るも無惨な地面だけが。
広がっていた。
「これ……道路だったよね?」
昴が呟く。
「……たぶん」
鏡子が答える。
「たぶんになっちゃった!? さっきまで道路だったでしょうが!」
「あ、あの……」
猫が。
おそるおそる手を上げる。
「これ……私がやりました?」
「ほぼお前だな」
「ひょっとこさん!?」
猫の顔が青くなる。
「ど、どうしましょう!?」
道路を見る。
「怒られますよね!?」
さらに青くなる。
「やっぱり魔法少女辞めたいですぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
「戻った!」
星歌が叫ぶ。
その時。
『こちら本部』
通信。
『全敵性反応の消失を確認。待機中の遠距離型応援については解除します』
「了解」
「…………待機中?」
星歌が。
ぴくりと反応した。
『それと――』
少し。
間があった。
『現場周辺で、かなり大きな道路損壊を確認しています』
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
全員。
猫を見る。
「ひぃっ!?」
『何がありました?』
「ひょ、ひょっとこさぁん……!」
猫が。
泣きそうな顔で朔を見る。
「問題ない」
「え?」
朔は。
平然と。
通信へ答えた。
「マガツとの戦闘による被害だ」
「…………」
星歌が道路を見る。
クラゲ型マガツを見る。
猫を見る。
もう一度。
道路を見る。
「まあ……」
間違ってはいない。
「マガツとの戦闘による被害ではあるわね……」
「ですよね!?」
「ものすっごく釈然としないけどね!?」
『……了解しました。詳細は後ほど確認します』
通信が切れた。
「よ、よかったぁ……」
猫が胸を撫で下ろす。
「…………ねえ」
星歌が。
今度は朔を見る。
「なんだ」
「応援、待機してたの?」
「ああ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「じゃあ何で猫と追いかけっこして道路破壊してたのよぉぉぉぉぉ!!!」
「必要なくなったからな」
「結果論でしょうがぁぁぁぁぁ!!!」
猫は。
そんな二人を見ながら。
少し考える。
そして。
朔を見る。
「あの」
「なんだ」
「次も」
ちょっとだけ嬉しそうに。
尋ねた。
「石、投げていいですか?」
「いいぞ」
「やったぁ!」
「地面は砕かないでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
星歌の絶叫が。
見るも無惨になった道路へ響いた。
こうして。
宍戸猫は。
敵へ近づくことなく戦える方法を手に入れた。
怖がりな性格も。
近接戦闘への恐怖も。
魔力を体外へ出せない欠点も。
何一つ。
克服してはいない。
ただ。
怖いのなら。
近づかなければいい。
魔力を飛ばせないのなら。
代わりに石を飛ばせばいい。
それだけだった。
そして。
見るも無惨な道路だけが。
彼女が確かに戦ったことを物語っていた。
なお。
道路の修繕については。
また別の話である。




