速道さんの弱点
あのお料理教室から一か月、速道さんは僕たちにお弁当を作ってくることが増えた。自身の成長を確認するためだと言っているが、本当に上達しているからすごい。
何をするにしても最速というのは成長も最速なようだ。
さて、そんな速道さんだけど最近焦っているように見える。お弁当作りがうまくいっていないのかと聞いても『いや、うん、まあ、ちょっと』という速道さんにしては歯切れの悪い返事が返ってくる。
「速道さん最近どうしたの?」
「わかんない、速道たまにああなるんだよね」
朝いつも通り登校したはずなのに速道さんはいなかった。いつもなら校門前か駅の前に待ち伏せされているけど、ここ一週間はHRのチャイムギリギリに来ている。明らかに速道さんの調子がおかしくなっている。
「あ、おはよ……ってどうしたの?!」
「うわ~めっちゃやつれてるじゃん」
そこには砂漠で何も食べていない人みたいな顔をしている速道さんが立っていた。最近速道さんにとって嫌なこととかあっただろうか……よく考えると速道さんのことを最速を追い求めていること以外何も知らない気がする。
「あぁ、大丈夫だ」
「大丈夫じゃないでしょ」
「そうだよ、何があったかくらい教えてよ」
何もないと言って席に着き普通に授業を受ける。授業中はいつも通りの速道さんで、特に異常は見られなかった。いったい何がそこまで速道さんを苦しめているというんだろう。
帰り道、改めて聞いてみる。
「速道さん、何かあったなら本当に言ってよ」
「……テスト」
「テスト? あ~そういえば期末が近かったんだ。完全に忘れてた……」
尾園さんも頭を抱え始めた。確かに期末考査自体は一週間後くらいにある。みんな夏休みが近くなってきてテンションが上がっているけど、たぶんほとんどの人が忘れている。
「え、もしかして二人とも」
「私は勉強が嫌いなだけだ」
「私は……まあ、はい」
速水知さんははっきりと言っていたけど、尾園さんはあんまりはっきり言ってくれなかった。多分勉強が苦手というよりもできないという方がただしんだろうな。
でも、速道さんはなんであんなにやつれた顔になっていたんだろう。勉強が嫌いなだけであそこまでなるかな。
「速道さん、ノート見せて」
「? わかった」
気になってノートの中身を見みたけど、思わず言葉を失った。文字や途中式が丁寧に書かれている。それもわかりやすく色付きで。ただ問題なのは、出題された問題の答えがほとんど間違っていることだ。
一瞬で問題に着手して、一瞬で解いて、一瞬で間違える。速道さんはただ書くスピードが速いだけで、問題を正確に溶けていなかったのだ。
「あれ、知らなかったん?」
「うん……てっきり解けてるものだと思ってた」
「速道は中学のころから五教科平均が大体四十点周りだよ」
なるほど、つまり二人そろって勉強ができないわけだ。
「ふん、心配ない。前日にすべて覚えればいいだけだ」
「そんなことしてるから点取れないんだよ」
僕も一か月前から勉強を始めるほどまじめじゃないけど、さすがに一週間前から勉強は始めている。そんな僕でも平均は八十点ある。人それぞれのスペックもあるだろうけど、普通に勉強している人でも六十点は取れていてもおかしくない。
「勉強会するよ」
「うげっ」
少し嫌そうな声が聞こえてきた。だけど、この学校は平気で留年させてくるという噂を聞いたことがあるから、勉強はしておかないといけない。
「わ、私は問題な」
「そんなわけないでしょ」
「私はいいもん、別にできなくたって損ないし」
「できていても損はないでしょ、なんなら勉強できてた方が得でしょ」
久しぶりに人に対してここまで怒っている気がする。いや、これは怒っているというよりかは心配になるんだろうか。
「わかった、私は挑戦するぞ」
「速道まで? も~わかったよ~私もやるよ~」
朝の時とは打って変わって速道さんはやる気に満ちた顔をしていて、反対に尾園さんがやつれた顔をしていた。尾園さん、そんなに勉強が嫌いなんだ。
「とりあえず、明後日でいい?」
「その日は私が開いてないかな、バイトあって」
「そっか、じゃあ……」
「日曜日でいいだろう、尾園も毎週日曜は必ず休んでいる」
「じゃあ日曜日で」
かくして勉強会の日程が決まった。速道さんは平均点四十点らしい、ただしそれは中学の話だったよな、今でもその成績だったらいいけど。
もう一つ心配なことといえば、僕が中間考査の成績を知らないことだな。




