最速さんの教育
かくしてテスト勉強が始まった。近くの図書館に向かい、試しに作ってきた問題を解かせてみた。結果は二人とも惨敗だった。
尾園さんはどの問題を解くにしても途中まではできているのに、途中から諦めているかのような筆跡になっている。
速道さんは……メモも何もなくて答えだけ書いている。一時期僕もそういうやり方をしていたけど、何かメモをしていた方がミスなく解ける。
「二人の弱点はわかった」
「ほんとに?」
「なんなんだ?」
二人に気づいたことを伝えて勉強を進めていく。課題である問題集と、その応用をしていき、わからない問題は僕に聞く。これで成長を見ていく……予定だった。
「ここがわからない。どうやったらこうなるんだ」
「歴史とか覚えられないよー」
速道さんのわからないという部分が多すぎることが判明した。数学が苦手なようだけど、そのレベルが異常なほどだった。そもそも途中式を書いていないし、あり得ないところからあり得ない数字が出てきている。
「速道さん」
「なんだ?」
「問題文は……」
「読んでいる」
嘘だと思う。正確には嘘ではないんだろうけど、問題文を読むことでさえ最速を求めているせいで何もわからない状態で解こうとしている気がする。
「じゃあ、この式は何?」
「ふむ……ん? なんでこうなってるんだ?」
いや、速道さんが解いた問題でしょうが。あなたがわからいならだれがわかるっていうんだよ。
「こうか?」
「そうだね」
こうやって冷静に解いてしまえば速道さんは簡単に解くことができる。この癖さえどうにかしたら、速道さんはテストでもいい点数を取ることができる。
「まずはゆっくり問題文を読もう。テストは五十分あるんだから」
「そうか?」
「テスト解き終わって暇じゃない?」
「確かに……」
「その時間を使っていったん見直ししよう。どの教科でも」
速道さんに教えるのがいったん終わったから、尾園さんがさっき嘆いていた歴史に取り掛かろうとする。
「……んにゃ」
寝ている。こんな風にして授業中も寝ているんだよね。
「尾園さん起きて」
「ん? あ~勉強したくない……歴史嫌~」
「歴史は流れで覚えるんだよ」
尾園さんは単語一つ一つを的確に覚えようとしているから覚えられない。歴史ができない人の典型例みたいなものだ。一度僕もそれで躓いた。
「流れ……」
「尾園さんゲームはやってる?」
「まあ、格ゲーを結構やってるかな」
「なら、きまったコンボって流れで指が動くでしょ? それと一緒で流れで覚えるんだ」
「な、なるほど」
それをまとめたものが歴史のノートというわけだ。尾園さんに僕のノートを貸して覚えてもらう。しばらくするとコツをつかんだのかある程度覚えることができていた。
二人とも赤点をとることに怯えていたようだったから、このくらいなら赤点の回避くらいは余裕だろう。
「じゃあ終わりにしよ」
「疲れた~」
「もう夕方じゃないか」
昼から始めた勉強会だったけど、意外とみんな集中していたみたいだ。そろそろ図書館も閉まるし帰った方がいいだろう。
「行けそう?」
「ああ」
「うん、綾瀬君のおかげで行けそうだよ。夏休みバイト入れちゃったから補修で休むの申し訳なくてね」
「そうだったんだ」
帰り道にコンビニに寄る。もう梅雨も明けて夏になってしまっているため、アイスでも買って帰ろうということだ。
「うへ~うめ~」
「んぐっ」
速道さんが頭を抱えている。手元を見てみると、僕たちはまだほとんど食べていないのに速道さんだけもう食べきっている。
まあ、当然アイスをそんなに早く食べてしまうと頭がキーンとなってしまう。
「速道さん……」
「速道……」
「し、しかっ仕方ないだろっくっ、頭がっ」
すごく中二病みたいな態勢になっている。ただ頭がキーンとするだけなのに、ここまで面白いのは速道さんだけだ。
「もう一本行ってくる」
「いやいや」
「ダメでしょ」
「なぜだ、私は食べたい気分だ。安心しろ、さっきのようなへまはしない」
ということはゆっくり食べるということだろう。
帰ってきた速道さんは勢いよく包装を開けて、アイスを手に取る。そしてそのアイスをゆっくり食べていく……のかと思ったら三回口を開くだけでだべ終わってしまった。
「え、速道まさかさっきは」
「ああ、一口で食べたからな。今回は三口にしてみた。多分大丈夫だ」
こっちを向いてドヤ顔でグッドマークをしている。ここまで不安になるドヤ顔グッドマークは今まであっただろうか。
「あっくそっ」
「ほら~」
「やっぱりなったね」
僕たちは笑いながら家へと帰っていった




