速道さんのお料理修行
「ただいま、お母さん」
「瞬子おかえり、ご飯できてるよ」
「お母さん、ちょっと話したいことがあって」
私は今、とてつもない危機に瀕している。それは、私の料理スキルが壊滅的なことだ。昔から包丁を持ってはどこかに傷をつけていた。
調理実習なんて血まみれになりながら作ったものだ。少し変な味がしたけど、あの時の麻婆豆腐は妙に思い出に残っている。
「あんたが相談なんて珍しいね。なに、ついに好きな子でもできたとか?」
「そ、それはわからない......けど、お弁当を作ることになって」
母は顔を真っ青にして私の肩を掴んだ。そして母は普通の人に言えば侮辱だが、私にとっては当たり前のことを言ってきた。
「あんたが料理はダメ、絶対ダメ」
「そ、そんなに悪く言わなくてもいいじゃん」
「ちなまに何作るか言ってみなさい」
餃子は冷凍のがあるし、タコさんは頑張ったらできそうだ。あとは何を入れるかが大事になってくるはずだから......そうだ、サラダが綾瀬君の弁当には入っていた。
レトルトだが、あれはうちにも置いてあったと思う。あとはそうだな......私好みのたまごやきでも入れておこうか。
「たまごやきと、タコさん......くらい」
「そう、まあ教えたらできそうね。いつ作るの?」
「明日......」
明日までにたまごやきの焼き方をマスターできるだろうか。そもそも、私が寝る時間なんてあるのだろうか。
「明日ね......まあギリギリ間に合いそうね。普通の子なら」
「私だって普通でしょ」
「いいえ、あんたがキッチンに立つと必ず侍が斬り合ったあとみたいになるんだから」
そこまで言わなくてもいいと思う。私も料理ができないことは自覚しているつもりだ。たが、それが綾瀬君のためにお弁当を作るとなると話が違う。
「私頑張るから」
「はあ......わかった。教えてあげる」
「やった! ありがと、お母さん」
とりあえず言われた通りの手順通りで作り進めてみる。するとどうだろう、出来上がったのはなんとダークマターだった。それはもう見事な黒い物体で、何もかもを飲み込んでしまいそうな色をしていた。
母は頭を抱えていて、最速でのマスターなど夢のまた夢なのだろう。綾瀬君のためにも、早めにマスターして明日までにしっかりお弁当を作りたい。
「まさかここまでとは……」
「ど、どう?」
「でも……」
そう言って私のダークマターを手に取る。口に運んで、バリボリと音を立てる。せんべいだったらきっといい音だと思うが、これはなんと卵焼きだ。
「味はいいのよね……なんでなの?」
「し、しらない」
続けてを作り続け、だんだんと色が黄色に近づいてきた。その間も母は食べ続けて、味は美味しいと言ってくれた。私もお父さんも一緒に食べてみたが、ちゃんと美味しいたまごやきの味がした。
「な、なんで味がいいの……」
「お前、料理の才能があるのかないのかどっちだ」
「わかんないよ!」
なぜここまで見た目は悪いのに味はいいのかわからない。とにかく黄色と少し焦げた跡は残ったが、形にすることができた。ここまで八時間ほど。練習を始めたのは十九時くらいだったはずだから、今は夜の三時。ここまで一緒に起きてくれている母に感謝しなくてはいけない。
「お母さん」
「ん? どうしたの?」
「ありがとう」
「いいえ、あなたの好きな人のためだもの。お母さん頑張っちゃう。ね、お父さん」
「なに? 好きな人ができたのか? どんな男だ」
私の外での姿を見たことのある両親ならわかるだろう。あの私に好きな人ができたのだ、どんな変人かきになって仕方ないだろう。別に家なら普通なのだが、外となってしまうとなぜか緊張してしまってあんなキャラになってしまう。
「私といても笑わない子」
「笑わない子ね……」
みんな私が面白くて友達になってくれる。周りから集まってくれるから、自分から友達を作ることがなかった。初めて会ったとき、初めてこのこと友達になりたいと心から思えた。
「さ、たまごやきはもういいでしょ」
「次はタコさんだよ」
「実はね」
母が申し訳なさそうな顔をしている。タコさんの難易度はそれほど高いのかもしれない。どれだけ高かったとしても、絶対にマスターして見せる……と言いたいところだけど時間がない。
「タコさんは市販の方がおいしいの」
「な、なんだってー?!」
という茶番はさておき、それは調べていたから知っている。何なら事前に買ってきているから、あとは早起きしてお弁当を作るだけだ。
「知ってるよお母さん」
「あらそう? じゃあもうお弁当できたのと一緒ね」
「うん、じゃああとは寝るだけ……」
ふと時計を見てみるとその針がさしていたのは午前四時。つまり、私に残された寝る時間というのは約二時間。当たり前だけど私はショートスリーパーではない。寝るにしても二時間くらいしか寝ることができない。
「まあ、頑張ったんだし一回寝てきなさい。それだけでも変わるから」
「そうだぞ」
「わかった……じゃあ、おやすみ」
目が覚めたのは六時半ほど、起きてすぐにキッチンに向かいお弁当の準備を始める。朝ご飯を食べながら作るお弁当だったため、少し忙しかった。
「たまごやき……」
昨日練習したたまごやきもうまくいって、なんとか全部作ることに成功した。おにぎりや、冷凍食品などを整えてお弁当を完成させる。
「じゃあ、行ってきます!」
「ええ、行ってらっしゃい」
とても眠い、おそらく私は授業中に寝てしまうだろう。だが、それが人との待ち合わせをないがしろにする理由にはならない。
私は玄関を後にして綾瀬君との待ち合わせ場所の駅へと足を進めていった。




