最速な帰り道
「綾瀬君、一緒に帰りましょう」
速道さんは帰り道は最速……というわけではないみたい。いくら最速を目指している速道さんでも、安全にはしっかり注意している。
「速道さん、帰りはゆっくりなんだね」
「ええ、安全第一ですから」
じゃあもしかしたら、僕がもっと早く家を出たら速道さんと一緒に行けたりするのかな。
それなら僕も早起きを頑張ろうと思えなくもないんだけど。
「ねえ速道さん」
「はい」
「速道さんって朝どのくらいに駅に着く?」
「えっと……ですね」
あ、そもそも速道さんが電車通学じゃないかもしれないのにこの質問をしちゃった。この反応だと、困らせてるのかも。
「綾瀬君」
「やっぱり、電車通学じゃ無かった?」
「いえ、電車通学ではないですが、駅の前なら七時二十分ごろに毎日通っています」
「そうなんだ」
それなら一緒に行けそう。でも僕が突然一緒に行こうとか言っても大丈夫かな。いつも一番早く学校に就こうとしてるのに、それを邪魔することになるし。
「どうかしましたか?」
「もしよかったらだけど、一緒に行かない?」
いつも一人で朝早くから学校に通ってて、学校に着くまで誰もいないから寂しかったんだよね。
「な、なるほど……」
「無理なら断っても大丈夫だけど」
「い、いえ、そういうわけでは……大丈夫です。明日からでいいですか」
ちょっと早い電車に乗らなくちゃいけないけど、それでも一人で行くよりかは楽しいから気にならない。
「やった。じゃあ明日は駅に集合だね」
「は、はい」
ちょっと緊張してそうな返事だけど、嫌な気分じゃなさそう。
話が終わって少し歩いたところで、速道さんが突然空を指差した。
「綾瀬君、あの信号が見えますか?」
「うん、点滅してるね」
「はい、あそこにピッタリ青になる時についた方の勝ちです」
唐突に勝負を仕掛けられたけど、難しそうだな〜やるのは問題ない。そしてやるなら勝ちたい。だけど、タイミングバッチリに着くのはなかなか難しそう。
「では、このまま進んで行きましょう」
「うん」
さっきまで楽しく話してたはずなのに、集中モードに入った速道さんは何も話さないでいる。
同じペースで歩いたはずなのに、もう速道さんの方が先にいる。もしかしたらこの勝負のプロなのかもしれない。
そうなってくると、このスピードの上げ方はプロが故のもの。だったら僕もスピードを上げなくちゃ。
「綾瀬君」
「ん?」
「なぜついてくるのですか」
「だって、速道さんが早く歩くのって、この勝負が得意だからでしょ」
気づけば信号が近づいてきていた。青になるようには見えないけど、速道さんを信じて進んでいる。
お互いに速度を上げて行き、もう止まるところまで来てしまった。
まだ信号は赤で、速道さんと一緒に息を切らしながらその信号を見守っていた。
「速道さん」
「なんでしょう」
「失敗だよね」
「そうですね。なぜ失敗したのでしょうか。全くわかりません」
多分速道さんの最速を目指す性格のせいだと思うけど……それは言わないでおこう。
「ふむ、とりあえずどちらも負けですね」
「そ、そうだね」
そんな話をしていると、信号が青に変わった。僕が速道さんと同じスピードで歩こうとせずに、自分のペースで歩いていたら勝っていた。
「では、どちらも罰ゲームを受けるべきでは?」
「なんでその話に?」
「朝は私が鼻血を出したので、お昼はお弁当が美味しかったので帳消しです。ですが今回はどうでしょう。どちらも負けているではありませんか」
言いたいことはわかる。わかるんだけどそうはならないと思う。どっちも負けたんだから、どっちにも何もなしにした方がいいはずなんだけど。
「何もなしじゃダメ?」
「ダメです。どうしましょうか」
「僕は何も思いつかないよ」
何にするべきかな。色々考えてるけど、罰ゲームとして速道さんに一番効くのは『明日は誰よりも遅く』とかそういうものだ。
だけど、こんな勝負でそこまで重い罰にする必要も無い。一体どうすればいいものか。
「思いつきました。明日はお互いと弁当を交換しましょう」
「え、餃子とたまごやきを交換じゃなかったっけ」
「はい。ですがお互いのお弁当を全部交換しましょう。私は初めて作りますが、頑張ってきます」
まあ、僕は全く思いつきそうになかったからそれにしようかな。
速道さんがお弁当を作るのが初めてっていうのが気になるけど、僕も腕によりをかけて作ることにしよう。
「あ、駅だ。じゃあね」
「あ、綾瀬君」
「どうしたの?」
昼も似たようなことがあった気がする。その時は何も言ってくれなかったけど、同じことかな。
「た、たまごやきは、甘い方が好きです」
「わかった。餃子とタコさん、楽しみにしてるね」
「......はい、それでは」
明日から一緒に行くことになって、お弁当も作ってくることになって。
速道さんと会ってから、普通じゃないような日常だけど。なんだかとても楽しく思えるな。




