最速なお弁当
昼休みになって、みんなが弁当を食べ始めた。隣の席を見てみると、速道さんは弁当を前に目を瞑っていた。
「速道さん?」
「なんでしょう」
「お弁当食べないの?」
「食べます。また勝負しますか?」
流石に勝てる気がしないけど、勝負してみたい気持ちはある。朝はなんとか勝ったけど、今回は負けそう。
「さあ、いただきますが合図ですよ」
速道さんは手を合わせて待っている。勝負にもう参加する勢いだったから、僕もそのまま手を合わせた。
『いただきます』
味なんてわからないまま、とにかく口に放り込んでみるけど、唐揚げだから顎が疲れる。
速道さんは、しっかり噛みながら疲れることなく食べている。
一瞬こっちにも腕が伸びてきた気がしたから、弁当を見てみた。
「......あれ?」
「ふぉうふぁひはひはた」
「速道さん、飲み込んでから喋ろうね」
口に詰め込みすぎて速道さんがなんて言っているのかわからない。二つあったはずの唐揚げが、一つトンカツに変わっている。
困惑している時間があって、その間に速道さんのお弁当が無くなっていた。負けてしまったのはいいが、なぜ唐揚げがトンカツに変わっていたんだろう。
「すみません。飲み込むのに時間がかかりました。唐揚げ、美味しかったです」
「え?」
美味しかったとはどういうことだろう。食べたんだろうなっていうのは分かる。分かるんだけど、このトンカツはなんなんだろう。
「ですから、美味しかったです。あれは綾瀬君が作ったのですか?」
「そ、そうだけど......いや、このトンカツは何?」
「唐揚げが美味しそうだったのでいただきました。ですが、もらうだけだとダメだと思ったので」
なるほど、それでトンカツ......とはならないのよ。交換っていう形にしてくれたのはありがたいけど、取るならそう言ってくれればいいのに。
「取る時は言ってね」
「わかりました。ちなみに明日は何を作る予定ですか?」
なるほど、これはもう僕が速道さんの分のお弁当を作ってきたら解決しそう。
「そんなに僕のお弁当美味しそうに見える?」
「はい、ですから明日のお弁当は何を」
「もう僕がお弁当作ってこようか?」
「いえ、お弁当のおかずを交換したいです。私の明日のお弁当のおかずはタコさんと餃子のようです」
聞いてないんだけど......でも、おかず交換したいだけならいっか。
速道さんもそういうことには興味あるんだ。
「わかったよ、明日何がいい?」
「......私が指定していいんですか?」
そりゃあ特に決まってもないお弁当の内容だから、おかずくらいなら決めてもらって構わない、それを軸にして別のものを作ればいいし。
「うん、大丈夫だよ」
「そうですか......待ってください、考えます」
こういうことはちゃんと考えてくれるんだよね、委員会の話の時もちゃんと考えて発言してたし。
「じ、じゃあたまごやき・・・・・・とか」
「わかった、たまごやき入れてくるね」
「……ありがとうございます」
こういうのは初めてなんだろうな。人のお弁当の内容を決めるなんて、僕でもちょっと緊張しちゃう。
「綾瀬君」
「どうしたの?」
「……やっぱりなんでもありません」
何か言いたいことでもあったのかな。速道さんって速さだけを求めてる女の子なのかと思ったけど、ちょっと違うのかも。




