最速な速道さん
僕のクラスにはなんでも最速の少女がいる。
ご飯も最速、問題を解くのも最速、足の速さももちろん最速。全てにおいて最速な速道瞬子さん。
そんな速道さんだが、朝も先生より早く教室の前にいる。まあ、僕も家の場所の関係でそうなんだけど。
「おはよう、速道さん」
「おはよう・・・・・・ございます」
やっぱり今日も不調なのかな。朝はだいたいこんな感じで、挨拶の間に変な間がある。
「挨拶が遅れてしまい申し訳ない」
「あれくらいは大丈夫だよ」
あの速さで遅れてると思うなんて、やっぱり速道さんはすごいな。
「いえ、全て最速でなければいけません。ということで、失礼します」
速道さんは廊下を競歩のようにして歩いて行った。一体どこへ向かっているのかは、なんとなくわかる。
少し時間が経って速道さんが戻ってきた。多分職員室で鍵を受け取りに行ったのだろう。鍵を受け取れる時間は決まってるから、この時間になると速道さんは職員室に向かう。
「ただいま戻りました」
「今日もありがとうね」
「・・・・・・」
「どうかした?」
「いえ、なんでもありません」
そういえば速道さんから最速を奪ったらどうなるんだろう。
速道さんを知る人なら誰しも思ったことがあること。足の速さで勝ってみたい、お昼ご飯のスピードくらいは勝ちたい。
今の僕は、一番早く教室に入ってみたいと言う気持ちがある。
「・・・・・・勝負ですか?」
何かを察知したのか、鍵を扉に挿したままそう言ってきた。確かにこれは勝負になるし、僕自身そのつもりでやろうとしている。
「うん」
「そうですか、譲りませんよ」
互いに扉を見て、鍵が開く音がする。そして速道さんが鍵を抜く。その瞬間、速道さんと僕は勢いよく扉を開ける。
『んぎゅ!』
両側の扉を同時に開けたため、顔に当たってしまった。僕がその衝撃から回復した時、速道さんはすでに扉に手をかけていた。
「遅い!」
そして速道さんは教室に入り、勝利を勝ち取った。と、僕は思っていたが、速道さんを見ていると悔しがっていた。
「ま、負けた・・・・・・」
「え? 速道さん勝ってなかった?」
確かに先に教室に入っていたのは速道さんだったはず。では何に悔しがっているのだろうか。
「はい、確かにあの痛みから復帰まで◯・七秒私の方が早かったです。ですが入った後に気づきました。あなたの足のつま先・・・・・・すでに教室に入っていたのです」
なるほど、確かにそれなら僕の方が先に教室に入っていると言える。
だけどそこまで精密に図る必要もない気が・・・・・・いや、それは速道さんのプライドもあるから言わない方がいい。
「やりますね、綾瀬君」
「な、なんか照れるな〜」
あの速道さんに何か一つでも勝てたことが結構嬉しい。これで僕も最速の仲間入りできたのかな。
「綾瀬君の名前を呼んだ最速は私ですよね?」
さっき負けたばかりだからか、とても心配そうな表情で言われた。
「う〜ん・・・・・・」
「ど、どうですか?」
「多分・・・・・・そうだと思う」
流石に親から呼ばれていないわけではないが、それをカウントしてしまったら、どう頑張っても最速にはなれない。
「なるほど、安心しました」
速道さんが安心できているならよかった。人生で本当に『誰よりも速く』というのを目指しているんだろうな。
「そういえば顔は大丈夫?」
「顔? ああ、大丈夫です。多少鼻血が・・・・・・鼻血?!」
「保健室行っても・・・・・・開いてないよね」
ここまで焦っている速道さんはそうない気がする。だが、今はそうも思ってられない。ティッシュたくさんもってきてたはずだけど・・・・・・あったあった。
「はい、速道さん・・・・・・ってティッシュあったんだ」
「ええ、処置も最速でなくては」
教室に入るのは勝ったけど、まだいろんなことで負けてる気がする。初めて勝負してみたけど、やっぱり速道さんはすごいな。




