現実は突然に
帰り際にずっとひっついてくる瞬ちゃんを抑制しながら、なんとかいつもの道まで辿り着いた。
「で? なんでこうなったの?」
瞬ちゃんにいくら聞いても埒が開かなかったので、やっぱり尾園さんに聞くことにした。
「速道、言っていいの?」
「なんのこと?」
瞬ちゃんは変わらずキョトンと頭を傾げている。
「昨日の帰りの話・・・・・・本当に私からでいいの?」
ぶわっと顔が赤くなり、僕から勢いよく離れる。周りからの視線とかもあったから、少しありがたいと同時に寂しさも覚える。
「き、キノウノハナシ・・・・・・」
「そう、昨日の話。私からでいいの? 綾瀬君聞きたがってるけど」
「え、いや、その・・・・・・」
こんなに取り乱しているのは、夏休み明けの瞬ちゃん以来だ。それよりも、やっと正気に戻ってくれてよかった。
「わ、私から話す」
「よく言った! じゃ、私帰るね!」
尾園さんは走って帰っていった。小さくなる背中を二人で眺めながら、瞬ちゃんの言葉を待っている。
「それで?」
「わ、私・・・・・・」
すごく言い淀んでいる。最速モードがなくなったとはいえ、はっきりとものを言っていたはずだ。
ここまで言いづらいことが何かあるんだろうか。
「き、昨日尾園と帰っててね、それで・・・・・・」
「うん」
それは知っている。二人が帰っている背中を一瞬見かけた気がする。
「それで、尾園から言われたことがあって……」
やっぱり尾園さんが何か仕込んでいたんじゃないか。それから逃げるためにあんな風に言っていたんだな。
「何を言われたの?」
「その、距離を詰めろって……言われて……」
どういうことだろう。何か大事なところをすっ飛ばして説明している気がするけど、そこは気にしない方がいいのだろうか。
「どういうこと?」
「その……つまり……」
体から煙が出そうなほど赤くなっている瞬ちゃんを見て、これ以上聞くのはまずいのかもしれないと思ったが、それを口に出そうとしたときにはすでに瞬ちゃんは口を開いていた。
「み、見られてたみたいで……海でのあれ……それでなんかいろいろ吹っ切れて……」
うまい言い訳を見つけたように感じるのは僕だけだろうか。それでも、瞬ちゃんの話を止めるわけにはいかない。
「遥君って小さくてかわいい感じじゃん?」
「そうなの?」
「や、違う、今のは忘れて」
そういうのは初めていわれた気がする。昔から小さい小さいと馬鹿にされてきてはいたけど、そういう評価を受けたのは瞬ちゃんが初めてかもしれない……なんか嬉しいな。
「吹っ切れた結果、『私がお姉ちゃんなのでは?』という感じに……」
うん、全くわからない。わからないけど、瞬ちゃんが何か変なことをしようとしてやっているわけではないことは理解した。
「まあ、するのはいいんだけど」
「ほんと? 嫌じゃない?」
「嫌じゃないよ、むしろうれ……」
それを言おうとして言葉が止まる。僕は今何を言おうとしたんだ。むしろ嬉しいって言おうとしたのか。なんで嬉しいんだ。羞恥と言葉にできない感情で渦が出来上がっている。
「何か言った?」
「……いや、何でもないよ。い、嫌じゃないけどあんなにされると周りの目も気になっちゃうからほどほどにね」
「……! うん!」
待ってましたと言わんばかりの、明るい笑みがその顔いっぱいに広がった。その笑顔の奥には少し安心したような心が見えた気がする。
「じゃあはい」
僕は右手を差し出す。瞬ちゃんはそれを望んでいるんだから、これくらいは恥ずかしがっていてはだめだ。
「ほんとにいいの?」
「うん、大丈夫だよ」
ほとんどの生徒が帰ってしまい、誰も通っていない帰り道。駅までの少しの間だったけど、その時間はとても長く感じられた。
すぐに手を放してもよかったが、瞬ちゃんがまだ離したくないと言っていたからもうしばらく繋いでいることにした。




