綾瀬遥喜はようやく
昨日は一日口を聞いてくれなかった瞬ちゃんだけど、今日は大丈夫だろうか。
「おお、朝から会うのは珍しいな」
「田向君」
下校中に田向君を見かけることがなかったから、どこか別の方向で帰ってるとかと思ったけどこっち側だったんだ。
「おはよ」
「おう」
あんまり話すことがないから、黙って横を歩くことしかできない。
「そういえば」
田向君から口を開いてくれた。横にいるのに一言も会話しないのは気まずかったから助かる。
「速道さんは一緒じゃないのか?」
「今日は先に行くって言ってたよ」
なるほどと少し考えるような仕草を見せる。
「そうか・・・・・・一つ確認したいんだけど」
「なに?」
周りに聞こえないような小さな声で話しかけてきた。いつも堂々と話している田向君だけど、何でこんなことをしているんだろう。
「綾瀬と速道さんって付き合ってるか?」
その言葉を聞いて少し固まる。なにを言ってるんだ、そんなわけないだろう。
「そんなことないけど」
「そうか」
また少し考えている。顔をしかめて言いたいことを必死に飲み込んでいるような表情だ。
いったい何を言おうとしているんだろう。
「その・・・・・・だな」
僕の肩を掴んで、覚悟を決めたような顔になっている。
付き合ってるか確認し始めたあたりからそうだろうとは思っていたが、そう言うことだろう。
「田向君大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。本当に付き合ってないんだな?」
さっきも言ったはずだけど本当に付き合っていない。
もしかすると側から見たら付き合っているように見えてしまっているんだろうか。なんかそれは・・・・・・少し嬉しいな。
嬉しい? なぜそう思ったんだ。
「俺の友達が紹介しろってうるさいんだ。お前らってずっと一緒にいるだろ? 付き合ってないって言われても、ちょっと疑ってしまう」
「本当にないよ」
「そうか。まあ、なんかそう言う気持ちがあるなら言ってくれ」
なんか『お前ら早く付き合え』と言われているような気がしてならない。
なんか変な感覚だな。瞬ちゃんと僕が・・・・・・全く想像できないな。
「まあいいや、とりあえずそう言うことだから」
そう言って足早に学校へと入っていく。いつのまにか靴箱についていたことにようやく気づいた。
靴を履き替えて教室に向かう。さっきの田村の言葉がずっと頭の中で反響している。
「遥君おはよ」
「あ、ああおはよう瞬ちゃん」
普段しないような動揺をしてしまった。瞬ちゃんも少し困惑したような表情になっている。
「なんかあったの?」
「いや、なんでもないよ」
心配させてしまっただろうか。
「よし」
教室について瞬ちゃんが最初に放った言葉だ。何がよしなのかわからなかったが、突然持ち上げられ膝の上に座らされる。
「な、何して」
「?」
当然だろうという表情をしているが、そんなわけがない。
「・・・・・・尾園さん」
「今回は私じゃないよ! 昨日から速道なんかおかしいんだって!」
昨日といえば一日口を聞いてもらえなかったんだ。それもこれも尾園さんのせいではあるんだけど。
「いや、無理があるでしょ」
「昨日一緒に帰ってたら突然『私、遥君のお姉ちゃんかもしれない』とか言い始めたからまさかとは思ったけど」
いったい何の話してたらそうなるんだ。とんでもない話してないとそんなことにはならないだろ。
「何の話したらそうなるの・・・・・・」
「そ、それは・・・・・・本人の口から聞いた方がいいかも」
僕がくるのが遅かったからだろう。尾園さんが言い終わったタイミングでチャイムが鳴った。
授業間の休み時間と授業中にも膝に座らされそうになりながらも、無事に昼休みを迎えることができた。
「速道さんちょっと話があるんだけど」
田向君が話しかけにきた。朝話した件だろう。
「ん?」
「俺の友達がさ、速道さんと話したいって言ってて・・・・・・って何してんだ」
「いや、うん。多分諦めた方がいいかも」
「だよな。てかもう・・・・・・いや、もういいわ」
呆れたように去っていった。
「瞬ちゃん離して・・・・・・」
「なんで?」
完全におかしくなっている。尾園さんから直接聞きたいけど、肝心の尾園さんは逃げるようにどこかへ行ってしまった。
「帰る時に聞くからね」
言葉に出ていたけど、瞬ちゃんには全く聞こえてなかったらしい。とにかくこれをどうにかしないと、学校で目立ちすぎてしまう。




