閑話:綾瀬は疲れているようです
尾園さんは一体なにを企んでいるんだろう。瞬ちゃんがおかしくなってるのは、昨日尾園さんと帰っていたことが原因だと思う。
「・・・・・・」
瞬ちゃんはほとんど喋らないし、少し心配だ。尾園さんはずっとニヤニヤしているし、何か吹き込んだことは間違いなさそう。
「尾園さん、瞬ちゃんに何かした?」
「なにもしてないよ。ただちよ〜っとアドバイスしただけー」
何度聞いてもこんな返事が返ってきて話にならない。いったいどんなアドバイスをしたら人はこんなふうになってしまうんだろうか。
今の瞬ちゃんを見てみると、茹蛸のように顔が赤くなっている。
「本当に大丈夫?」
「うん、大丈夫・・・・・・」
というか本当に様子がおかしい。普段の瞬ちゃんならもっと元気な感じで言うはずだけど。
「ちょっと触るよ」
「は?」
瞬ちゃんの額に手を当てて熱を測る。瞬ちゃんの平熱はよく知らないけど、これは熱がある人の熱さだ。
「瞬ちゃん、保健室行こう」
「へ? 私は大丈夫だよ〜」
「大丈夫じゃないでしょ」
自分の体の異変に気づいていないのか、まだ大丈夫だと言い張っている。昨日まで何ともなかったのに、急にこんなことになるとは。
「大丈夫!」
「いやいや、大丈夫じゃないでしょ」
「わ、私はその……えと……うわあああ!」
走ってどこかへ行ってしまった。尾園さんの方を見てみるが、何も考えていないような顔をしている。
「瞬ちゃんは風邪とか引いてない?」
「何ともないと思うよ? 昨日も大丈夫そうだったし」
それなら少し安心できるんだけど、走ってどこかへ行ってしまった理由は一体何なんだろう。もしかしていきなり額に触ったことが嫌だったのかな……だったら謝りたいんだけど、どこに行ったか分からない。
「速道どこ行った?」
「それがわかんないんだよね」
「そっか・・・・・・昔もこんなことあったけど自分で戻ってくるまで」
「・・・・・・ただいま」
尾園さんが全て言い終わる前に戻ってきた。茹蛸のようになっていた顔が、いつもの顔に戻っている。
落ち着いたのだろうか、やけに冷静になっている。
「お、おかえり。お昼ごはん食べよっか」
「・・・・・・うん」
目が死んでいる・・・・・・死んだ魚みたいになっている。電池が切れたように食べ進めていく瞬ちゃん。いつも取っているたまごやきには目もくれず、黙々としている。
「速道が落ち着きすぎてる・・・・・・こうなったら」
尾園さんが何かを呟いたかと思うと、立ち上がって僕の背後に立った。
そして僕の背中を勢いよく押して、瞬ちゃんの方へと突き飛ばしてきた。
「?!!??!!?!」
突き飛ばされた衝撃で、抱きつくような形になってしまった。仕方のないことだと思う。声にならない声が聞こえてくる。
「よし、いつもの速道に戻ったね」
「ご、ごめん瞬ちゃん」
仕方のないことだと思うと割り切ったはずなのに、嬉しいと思ってしまった。
なぜかその日は一日口を聞いてもらえなかった。




