速道さんの苦悩
さて、朝は何の問題もなく切り抜けることができていたようだけどこの先はどうだろう。
「速道さん、今度のバスケの試合来てくれない? 病欠の子出ちゃって~」
「う、うん。いいよ、何日?」
「あれ、いつもと違う感じ?」
さすがに急に変わったことに気づいたようだ。
なんかこう見ていると、娘の成長を見守っているお母さんみたいな気持ちになる。
「え、あ~うん。ちょっとね……」
「そっか、日程あとで送っとくね~」
軽く流されたことについて心配しているのか、顔を手で覆っている。朝もそうだったけど、会話をするたびにそのテンションでいて大丈夫なのだろうか。
しばらくして昼休みになった。いつも通り弁当を一緒に食べる。あのキャラで同学年の生徒には通っていたので、いろんなところから覗きに来る人たちがいる。
「あ、それちょうだい」
「またたまごやき?」
もう慣れてしまったが、毎回たまごやきを僕の弁当から取っていく。僕も代わりに何かもらおうと探して、毎回肉系の何かを毎回もらっている。
「なあ、なんか可愛くなってね?」
そんな話声が聞こえてくる。確かに前よりもかわいくなっている気がする。それが周りに広まっていくことはいいことのはずだ。……いいことのはずだがどこか引っかかる。
その声は本人に届くことなく周りの噂話のような小声がどんどんと増えていく。
「美味しい~」
「毎日変わらないでしょ」
「それでもだよ、ありがとね」
周りの人たちは僕が邪魔ものであるような視線を送ってきているように見える。別に付き合っているわけでもないし、告白するなら勝手にしてもらっていいんだけど。
そして、瞬ちゃんが可愛くなっているということはすぐに学校中に知れ渡った。
「なんかさ」
「うん、やっぱりそうだよね」
さすがの瞬ちゃんも異変を感じ取ったのか、少し心配そうな声で話しかけてきた。
「人多くない?」
「うん」
そりゃあ前よりもかわいくなった人がいるぞとなったら男子たちは、ミツバチみたいに花に集まってくる。
「でも僕は帰らないと」
「電車だもんね、じゃあね」
明日からが少し心配になりながらも、その日はわかれた。
尾行する人がいるとかそういう物騒な話ではないが、変えるタイミングを合わせている男子が多くなっている気がする。
翌日、珍しく寝坊してしまったため速道さんと一緒に学校に行くことはできなかった。
「おお、綾瀬君寝坊? 私と同じタイミングとか珍し」
「尾園さん、確かに珍しいね」
「だよね~速道どう?」
「普通だと思うよ。というか頑張ってるかも」
「まああのキャラやめちゃったんだもんね」
朝から心配しながら来ていたけど、尾園さんが慌てていないならあまり大事になっていないのかもしれない。
しばらくして教室にたどり着く。瞬ちゃんに目を向けてみると、昨日と同様に机にへたり込んでいる。
「どしたん、そんな風になって」
「これ……」
スマホの画面と五枚ほどの手紙がそこにはあった。その時点で大体察することができた。
「これって……」
「まあ、だろうね」
「……ラブレター」
スマホのメッセージを送ってきた人はまだ理解できるけど、いまだにラブレターとか送る人がいるとは思っていなかった。
昨日からだろうか、こういうのを見たり聞いたりするたびにもやもやが生まれるようになった気がする。
「全部今日の放課後でさ……私行くべきかな……」
「さすがに全部は無理じゃない?」
「いやでもさ……送ってくれた人に申し訳ないし……」
「オッケーするの?」
「しないけどさ」
しないのか。てっきりいい人がいたらするとか言うと思っていたけど、そのあたりは慎重に選んでいるんだな。
「しないなら行かなくてもよくない?」
「だから申し訳なくて……」
「だったら……」
尾園さんが提案したところで授業開始のチャイムが鳴った。僕には聞こえていなかったけど、僕も強制参加らしい。
「こっちこっち」
「わかった」
僕と尾園さんは小声で話している。尾園さんの提案は案の定というか、告白を覗き見……ではなく、瞬ちゃんの緊張をほぐす係をしようということだ。
「俺、前まで速道さんのこと速さだけ求めてる人だと思ってた。でもそうじゃなかった、君には俺に見抜けなかった可愛さがあった。どう? 俺と付き合ってみない?」
「え、えと……その……ごめんなさいっ!」
結構考えたであろう言葉ともに男はバッサリと切り捨てられてしまった。特に理由も聞かず、潔く去っていく人もいたがちょっと粘着してくる人もいた。
「僕と付き合ってください!」
「ごめんなさいっ!」
断ることがだんだんと上達していることに、いらないところが成長していると感じていたとき。
「え、いや彼氏とかいないでしょ?」
「まあ、そうだけど」
「だったらいいじゃん、一回試しに付き合ってみようよ」
「いや、えっと、そういうのは……」
「じゃあ友達から、友達からでいいから」
助けてほしそうにこっちを見ている瞬ちゃんを見て、尾園さんと僕は目を合わせて止めに行くことにした。
「ちょっと、それは男としてどうなん?」
「そうですよ、引き際はしっかりしておくべきです」
見られていたのが恥ずかしかったのか、それとも図星だったからか何も言わすに一目散に逃げてしまった。
「瞬ちゃん大丈夫?」
男が去ったことを確認して瞬ちゃんに駆け寄る。
「へ~」
後ろから聞こえてきた尾園さんの声に、二人して少し肩をくすめる。
「速道~瞬ちゃんって呼ばせてるんだ~」
「い、いいでしょ別に」
「へ~ふ~ん……じゃあ、綾瀬君のことも春君とかって呼んでるの?」
「呼んでないけど……」
ゲームで負けてしまったから、呼んでいるだけなんだが何か問題があるんだろうか。
「まあ、綾瀬君や今回は私たち二人で帰るからごめんね~ほら行くよ」
「え、ちょっと」
二人の背中を見て、少しだけさみしさを覚えながら一人で帰り始める。
告白されているところを見ていて、少しだけ胸のあたりがきゅっとしたのはどういうことなんだろうか。それがわからないまま一人で家へと帰ることにした。




