速道さんと夏休み最後の思い出
ついにプール当日。待ち合わせ場所は駅の改札前。電車での移動は学校前の駅までしか行ったことがなかったから、そこまでの長距離移動に少し不安を覚える。
『ここね』
写真付きで送られてきたそれは、おそらく先についた速道さんの待っている場所だろう。
数十分して、無事に駅に着くことができた。速道さんを探してるけど、なかなか見つからない。身長と髪型を目印に探しているけど、それに合っている人がなかなかいないのだ。
「綾瀬君」
そんなとき、後ろから声をかけられた。こんな場所で声をかけてくる人など一人しかいない。
「瞬ちゃん。ごめんね、迷っちゃって」
「大丈夫だよ。行こっか」
どんな場所か楽しそうに説明しながら歩いている。滝行みたいな場所があるという部分は聞き逃せなかった。そんな場所があるプールなんて聞いたことないんだけど。
「た、滝行?」
「そう、滝行。結構楽しいよ~」
そのほかにも、定番のスライダーとか流れている場所もあったりするらしい。
バスに乗って移動して、無事に到着した。到着して分かったことだけど、ここはプールというよりも海に近い場所だった。
「海?」
「あれ、言ってなかったっけ」
「ここ、海に面したプールなんだよ。私たちが遊ぶのは海の方かな」
一応浮き輪を持ってきてはいるけど、海の方に行くのなら浮き輪も必要ないかもしれない。
「着替える場所はあっちだから、出るところはなんとなくわかると思う」
「わかった」
更衣室で着替えているけど、周りの高校生ぽい人たちはみんな鍛えているような体をしている。僕はというと、まったくもってそういうトレーニングとかしたことないから、力こぶも柔らかければ腹筋も割れていない。
「あっちかな」
出る場所は意外とすぐに見つかった。道中で同じクラスの人を見かけた気がするけど、たぶん気のせいだと思いたい。
「また遅くなっちゃったね」
「だいじょぶだいじょぶ、よ~し遊ぶぞ~」
速道さんが普段よりも幼く見えてしまうのは何かの気のせいだろうか。
砂の感覚がいつもよりも鮮明に感じられる。はだしなのだから当然だけど、こんな砂浜をはだしで歩くのは久しぶりだ。
「とつげき~!」
小さい子供みたいに海へ走りこんでいく速道さん。僕はというと少し怖くてたじろいでしまう。
それでも負けじと速道さんについていく。あまり深くない場所で貝を拾ってみたりしながら楽しんでいると、どこから取り出したのかわからないバケツで、頭から水をかけられた。
「おぶっ!」
「もっと奥行くよ!」
夢中になっているのか、手を引かれてさらに深いところまで引き込まれる。こんなことなら浮き輪を持ってきておけばよかった。まあ、後悔したところでもう遅いんだけど。
そして、水中で足が離れた瞬間、僕は無事におぼれた。
「大丈夫?!」
「ああ、ありがと……」
速道さんに抱えられたおかげで何とかなったけど、やっぱり泳ぐのは苦手だ。
「泳ぐの苦手だった?」
「まあ、少しだけど」
「どうしよっか」
プールだったら特に楽しめなかったと思うけど、ここは海だ。泳げなくても楽しむことくらいできる。
「あ、じゃあ泳ぎの練習しよ」
「せっかく遊びに来たのに申し訳ないよ」
「気にしないで、私教えるの上手だから」
運動が得意な速道さんにとっては、泳ぎも最速だったんだろう。教えるのがうまいのかどうかは……あの勉強を見ていると少し不安を覚えてしまう。
「じゃあ見ててね」
そう言って簡単に泳ぎ始めた。少し嫌な予感がしながら速道さんの泳ぎを見ている。
周りで泳いでいる誰よりも早く泳いでいて、やっぱりすごいなと感心していると速道さんは戻ってきた。
「こんな感じ」
「うん、ちょっとはわかったけどあの速さは無理かな」
早速実践に移ろうと速道さんの手を掴みながらゆっくりと泳いでいく。顔をつけることはそこまで苦手ではなかったから、簡単な泳ぎくらいはすぐに覚えられた。
スマホを持ってきていないからすぐに時間を確認できなかったけど、もう三時間以上時間が経っていた。
「お疲れ様」
どこかのアニメで見たことあるような、砂の上で寝転がっていると覗き込んでくる幼馴染みたいな、そんな風に見えた。
そこから見えた笑顔は何かに引き込まれてしまうような笑顔だった。
「かき氷もいいな~たこ焼きも食べたい」
「全部食べちゃう?」
「それいいね、採用しちゃう」
そうして僕たちは思う存分食べた。たこ焼きでやけどしたり、かき氷で頭をキーンとさせたりした。
いつもと違うからだろうか、今日はどうしても速道さんを見てしまう時間が多い気がする。当然、一緒に遊んでいるからというのもあるだろうけど、何かが違う気がする。
その何かがわからないまま、午後も海へと向かう。今度はあの滝行の場所に向かうようだ。




