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速道瞬子の恋愛事情

 突然だけど、私は恋をしていると思う。自覚を持ち始めたのはあの時間違えて抱き着いてしまった時だ。

 お母さんに相談しようと思ったけど、それはなんか違う気がしてできなかった。

「夜に電話していい?」

 言ってしまった。これは本当に友達同士でやることなんだろうか。いや、そんなわけがない。友達同士でやることはあったとしても、異性とやることではないことはわかる。


 電話が終わったのは朝起きてからだった。昨日の寝る前まで電話をしていた記憶はあるけど、最後の方は何を話していたのか覚えていない。

 確か、海とかプールに行く約束をしていたはずだ。まあ、了承してくれたらプールに行くことはもう決めてあるんだけど。

 そうなってくると、次に悩み始めるのが水着について。これは一番難しいことだ。綾瀬君は恋愛とか全く興味ないだろうし、浴衣だって綾瀬君は普通にほめてきた。

 だったら、水着だって適当にかわいいやつでも着て行ったら褒めてくれたりするのかな。ああもう、普段の最速の私なら何も考えずに突っ走っていけるのに、綾瀬君のせいでどの私も不調だ。

「瞬子、どうしたの頭抱えて」

 もういっそお母さんに話してしまった方が楽な気がする。こういう話は経験が多い人に聞くのが一番いい。

「……なるほどね、難しいわねそれ。綾瀬君ってあなたのこと好きではあるんでしょうね、友達として」

「そうだと思うよ」

「だからあの時も急に浴衣貸してとか言ってきたのね」

 それは掘り返さないでほしかった。かなり恥ずかしい思いをしながら、毎年私服で行っていた夏祭りを浴衣で行ったんだから。

「ただまあ……何着て行っても褒めてくれるとは思うわよ」

「そうだけどさ……多少は意識してほしいじゃん」

「だから難しいのよ」

 最速じゃない私は、ただの女の子なんだ。というかもうあのキャラは綾瀬君の前では捨てて行こうと思っているくらいだ。

 尾園だってそのあたりは察してるだろうしいっそのこと誘うのも……ううん、これは私がやろうと思ったことだもん。最後までやり切るんだ。

「あんたの持ってる水着って……学校のやつだけ?」

「うん、バイトもしてお金はあるからある程度のものは買えるから、それでどうにかしようかなって」

 綾瀬君は見た目っていうよりも性格を見てるんだろうけど、私はそれなりにスタイルはいい方だと思う。……胸もちょっとはあるし。

「とりあえずお店行ってから考えましょ。プールに学校のはさすがにどうかと思うから」

 お母さんに連れられて、水着を選ぶことになった。移動の途中で綾瀬君に聞いてみるのはどうかと相談してみたけど、『返答に困るだけよ』と返された。

「いったん色だけでも決めましょ」

 自分に似合う色なんて知らない。いつも適当に選んだ服ばかり着ているし、あの時家で遊んだ時はまだましな服を着ていただけだ。

「これも違う……う~ん……」

 二十分くらい悩んだけど、無事に色だけは決まった。少し白みがかった紫にした。

「なんか色っぽいわね。そういう路線で行くの? 似合ってるからいいけど」

「違う! これがいいって思っただけ!」

「否定はしてないわよ。綾瀬君ならまだしも、ただ変な男に目を付けられないか心配でね」

 そんな心配は必要ない……はずだ。いざとなったら最速の私を出してどうにかしようと思っている。

 というか、水着の種類が多すぎる。ひらひらがついたやつとか、なんかレース? みたいなやつもある。

「これとか似合うんじゃない?」

 そういって手渡されたものに着替えてみる。意外といい感じだと自分でも感じた。やはりこういうのはお母さんの手を借りるに限る。

「これにする」

「そう、これとかは?」

「それただの紐!」

 からかっているのか、ほぼ紐みたいな水着を指さしていた。こういうのってそういうお店でしか売ってないと思っていたけど、普通に売ってるものだったんだ。

 それに、そういう路線で行くことは絶対にない。

「決まってよかったわね」

「うん、当日が楽しみ」

「そういえば、綾瀬君ってどんな子?」

 考えてみれば一切説明していなかった。急に綾瀬君の名前を出して、好きな子かもしれないって伝えて……私は変な人になっていた。

「写真とかないの?」

「あるわけないでしょ」

 言ったら何かめんどくさそうなことが起こる気がして、見せないでおくことにした。というか、お母さんに話しちゃったらこれお父さんに伝わっちゃうよね。

 お母さんの目はいつもよりニコニコしていて、少し怖かった気がする。

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