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速道さんと夜のお話

 速道さんが夜にまた話をしたいと言っていたため、お風呂を早めに上がっているけど一向に電話がかかってこない。こっちからかけるべきか悩むところだ。

「まだ寝ないの?」

「うん、友達が話したいって」

「そう、遅くなんないようにしなさいよ」

「わかってるよ」

 確かに、今は夜の十時ちょうどくらい。このまま電話がかかってこない場合、僕はいったいいつまで起きておく必要があるのだろうか。

 そんなことを気にしていると、スマホが鳴った。

「ごめん、ちょっと遅くなっちゃった」

「大丈夫だよ」

 昼の時とは違い、今回はビデオ通話ではなくなっていた。

 何の用でこの時間に話したいのかはわからない。もしかしたらただ雑談しながら宿題したいだけの可能性もあるし、とても大事な話があるのかもしれない。

「それでね、一つ聞きたいことがあって」

「うん」

 速道さんが心なしか真剣な気がする。いや、いつも真剣ではあったんだけど、それは最速を求めているときが真剣だっただけだ。

 でも、今はゆったりの方だ。それで真剣になっている速道さんを見るのは、少し変わった気分になる。

「私って変かな」

 唐突なその質問に思考が固まってしまう。速道さんのことを変だとは一度も思ったことはない。だけど、それは僕の主観でしかない。

 それでも、僕は今思ったことを伝えるしか方法はない。

「変じゃないと思うよ」

「そう? 私普段はなんかこう、最速最速って言ってたじゃん」

「うん、いろんなことに真剣ですごいと思ったよ」

 多分、速道さんは急なキャラ変で僕に変に思われていないのか不安なんだと思う。だけど僕はそんなことを微塵も思ったことはない。

 それが伝われば、速道さんの不安もどうにかなるはずだ。

「私ね、自分から話しかけたの、綾瀬君が初めてだったんだ。こういう変なキャラしてたら友達がいっぱい集まってくるから、そうしてただけで。私自身、本当の友達とか作ったことなかった」

「……そうなんだ」

 そうだったんだ。いろんな人たちと仲良くなるためにそういう自分を作って、だんだん本当の自分を出していくのが難しくなっていったんだ。

 それなら、どうして僕には本当の速道さんを見せてくれたんだろう。それだけの何かがあると思うけど、申し訳ないことに僕にはその心当たりがない。

「綾瀬君はさ、私が何をしてても笑うっていうよりかはついてきてくれたじゃん。だから綾瀬君なら大丈夫って思ったの。でもそしたら緊張して話し方変になっちゃったりするし……」

「大丈夫だよ、僕ははや……瞬ちゃんといて楽しいし」

 尾園さんにも行ったけど、速道さんは速道さんだからどんな速道さんでも同じように接する。それが僕にできる友達としての最低限のことだから。

「そっか……ごめんね、重い空気になっちゃった」

「気にしないよ、もう寝る?」

 いろいろ話し込んでしまったからか、通話が始まって一時間半が経過していた。

「ううん、もうちょっと話す」

「わかった」

 そして僕たちはそこから二時間ほど話をした。

「あ、そういえば尾園って宿題どうしてるの?」

「意外と進んでるみたいだよ」

「くそう、私は今日一歩目だというのに」

 それは瞬ちゃんが進めるタイミングを逃していて遅くから始めてしまったからで、僕だってもうあと一教科で終わってしまう。

「僕はあとちょっとで全部終わるよ」

「ずるいな~私にもその計画性を分けてほしいよ」

 ずるいと言われても、これは努力の域であるからそこまで気にすることはないと思うけどな。

「あ、そうだ。夏休み最後の方って予定ある?」

「特にないよ、来週いとこたちと会うくらい」

「それなら海かプール行かない? 夏だし、最後に思いで作ろうよ」

 海かプール……泳ぎは苦手なんだけどな。まあ、確かにこの夏休みの思い出がお祭りに行ってこの通話をしました。それだけで終わってしまうとなんだか味気ない。

「いいね、行こう」

「誰誘う? 女子は誘えるけど、男子ってだれか誘える?」

 正直、僕が誘ったところで来てくれそうな友達はいないと思う。友達といても必要な時に必要な会話をするだけの人たちだから、瞬ちゃんみたいに話す人はそうそういない。

「う~ん……思いつかないな」

「そっか……じ、じゃあ二人で……とか」

 本当は複数人で行きたいんだろうけど、女子だけ呼んで男子が僕一人だけ行くというのはやめた方がいいだろう。

「いいの?」

「あ、いやだったら別に……」

「大丈夫だよ」

「じゃあ私から何日に行くか連絡するね」

 これは泳ぎを少しは練習しに行った方がいいのだろうか。


 しばらく雑談と静寂を繰り返していると、瞬ちゃんが眠そうにしている。

「眠い?」

「ん~ん」

「もう寝よう、さすがに」

 時計は深夜一時を指していて、さすがに寝た方がいい時間帯だ。

 何か話したら何かしらの返事が聞こえてきていたのに、今は一つも返答が返ってこない。しばらくして、すぅすぅと寝息が聞こえてきた。

「おやすみ」

 それだけ言い残して電話を切った。

 泳ぎこそ苦手だけど、瞬ちゃんと遊びに行くのは少し楽しみだ。夏休み最後の思い出をちゃんと作られたらいいな。

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