速道さんと終わらない戦い
夏休み、それは学校が長期的な休みに入り、学生たちの自由な時間が増える期間。
当然学校側から宿題も出ているわけで、それをこなしながら遊ばなくてはならないことは周知の事実だと思う。
そんな中僕は着々と宿題を終わらせていき、残り一教科となった。夏休みの終盤に差し掛かろうとしている今日、とある連絡が来た。
『助けて』
さすがに家に向かうには時間がかかりすぎるため、電話での対応をすることになった。
「もしもし?」
「あ、綾瀬君」
少し焦ったような声がスマホ越しに聞こえる。
いったい何があったのか聞いてみると、宿題が全く終わっていないようだった。そんなことかと少しからかっていると、本当に何も手を付けていなかった。
だとすると、この絵日記でさえも手に付けていないということになる。幸い、天気とかはなんとかなるけどその時にあった出来事を覚えているかは速道さんしだいになる。
絵日記はとりあえず夏まつりのこととかを書けばいいから、残りの教科を片付ける必要がある。
「得意な教科はある?」
「理科は行けるけど、数学と国語だけはだめ」
「じゃあ得意なやつから終わらせよう」
わかったとだけ言い残して通話は途切れた。てっきりつないだまま集中するものだと思っていたけど、そうではなかった。
特にやることもなかったため、ゴロゴロしているとまた電話がかかってきた。
「終わった!」
第一声がその声だった。今なら何でもできそうと言わんばかりの声の大きさと元気が伝わってきた。
とっさに電話とかけたからかそれとも意図的なのかわからないが、ビデオ通話になっていた。正直、今着ている服はあまり人に見せたくない服だ。
「ね、ゲーム持ってる?」
「あるよ」
「オンラインやろ」
この速道さんにもだいぶ慣れてきて、テンションにもついていけるようになってきた。
今回遊ぶゲームはたくさんのボードゲームが遊べるものだ。チェスや将棋、オセロとか、マイナーなボドゲまで遊ぶことができる。正直、ボードゲームは得意だという自負がある。
「まずはオセロやろ」
「いいよ」
速道さんの腕前がいかほどかわからないけど、たぶん問題なく勝てると思う。中学のころから友達に挑まれては勝ってきたから、ノウハウはしっかりとしている。
「なんで~全部真っ白……」
「甘いよ速道さん」
気づけば一面が真っ白になっていた。さすがに全部埋めたうえで真っ白にしてしまうのは大人げないと思い、早期に決着をつけた。
「じゃあ次は……」
そのあとも次々と遊んで行ったが、どれも圧勝だった。特に将棋は、速道さんがちゃんとルールを理解していなかったところもある。
「もーなんで勝てないの!」
「ちゃんと周り見ないとね~」
少し調子に乗ってあおるように言ってしまった。そのせいだろう、速道さんがふてくされてしまった。
速道さんは前よりも表情がよく動くようになった。だからこういうことも簡単に察することができる。
「ごめんね、ちょっと言い過ぎた」
「大丈夫だし、気にしてないし」
感情が豊かになった速道さんは、前よりもよく話してくれる。
「次勝ったら何でも言うこと聞いてあげるから」
「本当に?」
速道さんの目が少しギラリと輝いたように見えたけど、おそらく気のせいだろう。ここまでがすべて作戦で、これを誘い出したとするならとんでもない策士だ。
「じゃあ、私が勝ったらその『速道』って呼ぶのだめだから」
つまりは名前で呼んでくれってことだよな。そのくらい言われたらできるから、ここでそういうことを言わなくてもいい。
だが、それがどうしても叶えたい願いであるから条件として出したのだろう。
「じゃあ、最後はこれね」
速道さんが選んだのは最初に遊んだオセロ。正直速道さんが勝つ未来が見えないが、正々堂々戦おう。
「負けた~」
「ふふんっ私の勝ち~」
今度は僕の盤面が一面黒に染め上げられてしまった。実力差があったとしても、勝つことはできると思う。それでも、この短期間で速道さんは実力をつけたということだ。
「さあ、約束通りだよ。あ、でも瞬子だとなんか……ん~瞬ちゃんでお願い」
「うん、わかった」
次速道さんを呼ぶときからは瞬ちゃんと呼ばなくてはいけなくなった。まだ瞬子さんとかの方が恥ずかしくはないが、約束は約束だ。慣れていくしかない。
「今日は終わり?」
「ん~あ、夜にまた電話してもいい?」
まだ何か用があるのだろうか。よくわからないけど、了承しておいた。
試しに何をするのか聞いてみたが、帰ってきた答えは『内緒』の一言だった。




