速道さんと夏祭り
七月がもう終わって夏祭りが始まろうとしている。近所を歩いてみると大きめの公園とか神社とか、いろんな場所で屋台の準備が進んでいる。
もしかしたら学校の方の地方でも準備が進んでいるのかもしれない。
『夏祭り行く?』
速道さんからそんな連絡が来た。今年もそのあたりは特に予定も入れていないため、すんなりオッケーを出した。
『やった。時間どうしよっか』
『花火もあるだろうし、ちょっと早めがいいんじゃない?』
『ん~』
『五時とか?』
『そうしよっか、じゃあまた一週間後ね』
一週間は意外とあっという間だった。夏祭り用の服なんて持ち合わせていないから、普段通りの服を着て行く。もしかしたら速道さんは浴衣とか着てくるんだろうか。だったらちょっと申し訳ない気持ちがある。
『着いた?』
『もうちょっと』
送られてきた地図に従って神社の階段を探す。どうやら速道さんは先についているようで、尾園さんと一緒にいると送られてきた。
駅から十分くらい歩いたところに少し急な階段が見えてきた。そこには待ち合わせをしているように見える人であふれかえっていた。多分ここなんだろうけど、速道さんたちはどこにいるんだろう。
「あ、綾瀬君~」
声が聞こえた方向に向かうと、浴衣姿の速道さんが手を振っていた。浴衣を着ているだろうとは思っていたけど、いざ対面してみると少し驚いてしまう。
今日もゆったりした速道さんになっている。これからはずっとこんな風に行くんだろうか。
「お、来たね」
周りにいる人たちを見ると男性は私服で女性が浴衣が多かったから、意外と気にしなくてもいいのかもしれない。
「浴衣きれいだね」
尾園さんはあじさいの模様がある薄い紫がかった浴衣を着ていて、速道さんはひまわりだろうかいろんな花の模様がある黄色い浴衣を着ていた。
「出会ってそうそう服装を褒めるとはやりますな」
「ほら、早く行くよ」
尾園さんに少しからかわれてしまったが、普段と違う服を着ていてそれに目がいかないほど僕は節穴じゃないぞ。
階段を上っていくとたくさんの屋台が見える。たこ焼き、イカ焼き、金魚すくい、射的。いろんなものがあり、たぶん全部を回り切ることは不可能だろう。
「ねえ綾瀬君」
今は特におなかがすいていないからと見て回っていると、尾園さんが僕の手を引いてきた。
「速道のこと、どう思う?」
「どうって……どういう?」
訳が分からず聞き返してしまった。速道さんそのものについてのことなら『いい子』とか『話していて楽しい人』という答えになる。でも、尾園さんが聞いているのはそういうことじゃない気がする。
「速道って最初と違うでしょ? あれ、今まで私以外に見せたことないんだ」
そういうことだったのか。確かに最初は驚いたけど、だんだん話していくうちそれが速道さんの一部だとわかってきていた。
「そうなんだ」
「うん、だから、どう思う?」
「ん~……僕は気にしないよ、どっちの速道さんも速道さんだから」
「そっか、安心した」
そんな話をしてその場にとどまっていたが、ふと周りを見てみると速道さんがいない。
屋台を回っているのだろうか、それとも実は方向音痴で迷子になってしまっているとか。
「大丈夫、まずはあっち。逆方向に進んでいくよ」
突然人が消えたというのに変に落ち着いている。尾園さんの言う通りに進んでいくと、あっさりと速道さんを見つけることができた。
頭には天狗のお面、手にはいっぱいのスーパーボール、腕に下げているのは食べ物だろうか。あの一瞬でいろんなところを回ったみたいだった。
「こら、私たちを置いて回らない」
「ごめんって~代わりにこれあげるから」
そういってたこ焼きと焼きそばをそれぞれ渡してきた。
「楽しい場所見つけてきたんだ、あとで案内してあげるね」
「それは楽しみだね」
「速道、期待してるぞ~」
三人とも食べ終わり、速道さんのルートをたどっていく。くじ引きをしたり、スーパーボールや金魚をすくったり、射的とボーリングもして十分楽しんだ。
「あ、もうすぐ花火の時間じゃん」
「確かに、じゃあ場所取っとかないと」
「でもあそこでいいんじゃない? 誰も来ないだろうし」
二人とも花火の話をしているのはわかるけど、そんなに人が来ない場所なんてあるんだろうか。
「綾瀬君、ついてきて」
花火のせいなのか、少し興奮気味の速道さんに手を勢いよく引かれて山の方へと連れていかれる。
五分ほど歩いたところで、会場の方からアナウンスが流れ始めた。
『まもなく、カウントダウンを行います』
「もうすぐだ、急がないと」
本人も手を引いていることに気が付いていないのか、夢中で山を登っていく。山といっても少し坂のあるだけの斜面といった方がいいのかもしれない。
「ついた~」
「ここに来るのも久しぶりだね」
ちょうど花火が始まり、最初の一発目が打ち上げられる。それは、今まで見たどの花火よりもきれいで、目が眩むほど明るかった。
「わ~きれいだね!」
速道さんは子供のように無邪気にはしゃいでいる。こんな場所でこんなに迫力のある花火を見てしまったら、みんなこうなってしまうだろう。
「速道、落ちるよ」
「あ、ごめん」
以降ははしゃいでいる速道さんを眺めていた気がするし、花火を見ていた気もする。ただ一つだけわかるのは、それはとても輝いて見えていたということだ。
そんな花火はあっという間に終わって、残ったのはちょっと臭い煙のにおいだけだった。
あっという間に終わったけど、不思議とその時間は長く感じた。なんでかはわからない、だけど今までで一番楽しかったと思う。




