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速道さんの変化

 今日は速道さんが一段とおかしい。

「えと、お邪魔します」

「あ、綾瀬君」

 溶けている、速道さんが完全に溶けている。何をしたらここまで変わってしまうのかわからないけど、夏休みに入ってからずっとこんな感じだ。

 終業式まではいつもの『はい』とか『それは~では?』とか言っていたのに。

「遊びに来てくれてありがとね」

「外暑いもんね」

 夏休みにたくさん遊ぼうと約束したはいいものの、外が暑すぎるからあまり家から出たくないらしい。まあ、気持ちはとてもわかるから僕も家で遊べるなら大歓迎だ。

「何するの?」

「ん~まずはゲーム」

 そういって取り出したのはレースゲームだ。こういうレースゲームは思わず体が傾いたりしてしまうからちょっと苦手なんだよね。

「よし、準備できたぞ」

 いつの間にか速道さんがいつもの状態に戻っている。速道さんにはスイッチのようなものがあるのかもしれない。

 お互いソファに座りスタートのカウントが始まる。少しやったことがあるから、操作方法はわかる。

「ふんっ」

「あっ、落ちた……」

 コンピューターのレベルが低いからか、僕と速道さんの一位争いが起こっている。速道さんはやっぱり最速を求めているのかインコースを攻めに攻めている。

 そんなことしたら落ちるんじゃないかという場所まで走っているから、相当努力したんだと思う。

「右……」

「綾瀬君、それは妨害か?」

「ち、違うよ!」

 やっぱりこういうゲームは夢中になってしまうと、体が自然と動いてしまう。速道さんにぶつかってしまって現実で妨害行為をしている人になってしまうから、どうにかして止めたいけど止められない。

「よし、私の勝ちだ」

「やっぱり速いね」

「当然だ、最速を求めてこそ私」

「確かにそうかも」

 誇らしげに胸を張っている。本当に一番早いということが好きなんだろうな。

「お次はこれだ」

「協力ゲームだね」

 次は、お互いの部屋のものを交換したりしながら部屋のパズルを解いて脱出する。というゲームをやるらしい。一度も遊んだことがないゲームだから、うまくできるかわからない。

「綾瀬君」

「どうしたの?」

 この脱出ゲームでもRTA並みに早く脱出したいのだろうか、それだったら僕が足を引っ張ってしまうことになる。

「頑張ろう」

「え? うん……」

 そう言って速道さんは真剣に画面を見つめる。速道さんは手際よく進めていくのに対して、僕はゆっくり確実に進めていった。

 それでも速道さんは、僕の動きに一喜一憂してくれた。初めて遊んだけど、それなりに楽しむことができた。

「綾瀬君、このゲームの最速を見たくないか?」

「見てみたい。僕のせいで早く脱出できなかったからね」

「綾瀬君のせい? 何のことだ?」

 僕の認識に間違いでもあっただろうか。

「え、だって」

「私は綾瀬君と遊んでいるんだ、そこに早いも遅いも関係ないだろう」

 速道さんから出てくる言葉には聞こえなかった。これも尾園さんが制止していた影響なのだろうか。

 それか、ただ純粋に僕と遊ぶのが楽しいだけかもしれない。

「それより見ていてくれ」

「う、うん」

 両手で二つのコントローラーを操作するようだ。とても難しいことのように思えるけど、速道さんはできるのだろうか。

 画面が暗転からゆっくりと明るくなっていく。それと同時に速道さんは素早く操作をし始めて、五分程度で脱出してしまった。

「すごいね」

「ああ、ずっとやってきたからな」

「ずっと?」

 少し引っかかる言葉だ。ずっと一人でこのゲームをやっていたということだろうか。それとも……いや、これ以上は考えるのをやめよう。こういうことは速道さんが話したいと思ったときに話すべきだ。

 ふと速道さんを見ると、いつものきりっとした顔じゃなくて少しふにゃっとした顔になっていた。

「次は何しよっか」

「いったん休憩しない?」

「それもそうだね、アイス持ってくる」

 アイスといえば、最速で食べている速道さんが頭をキーンとさせていたな。この溶けているような状態の速道さんはどうなんだろう。

「バニラとチョコどっちがいい?」

「じゃあ、バニラで」

「おっけ~」

 アイスのカップを開き、しばらく速道さんを観察する。いつも通り早く食べてしまうのか、僕みたいにゆっくり食べるのか。

「ん~美味し~」

「そうだね」

 どうやらゆっくり食べるらしい。それがわかって、僕はアイスを食べ進めていく。

 実際、どっちが速道さんの素なのだろうか。今のゆっくりの状態の速道さんなのか、いつも最速を求めている速道さんなのか。もし前者だったなら、なんで最速を求めるようになってしまったんだろう。

「というかもう夕方じゃん、時間大丈夫?」

 そう言われて時計を見てみると、時間は十七時五七分だった。ゲームを楽しんでいると、意外に早く時間は過ぎるものだ。

「そろそろ帰らないと」

「じゃあこれ食べたらだね」

 結局、どっちが素なのか聞くタイミングなんてなくて、アイスを食べ終わった。そのあとも少し話したけど、ほとんど夏休みの宿題の話ばかりで聞くに聞けなかった。

「じゃあね」

「うん、また来てよ。あ、私が行ってもいい?」

「いいよ、僕一人暮らしだし」

「そうだったの?! 初めて知った~じゃあ今度行くね!」

 結構遠い場所だけど、それでもいいならと言い残して家へと帰る。

 速道さんはだんだんと変わってきている。なんでそうなっているのかはわからないけど、本人が楽しそうならそれでいいのかもしれない。

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