覚えていることは、記録してあることだけ。
昼休み、僕は、図書室に向かった。
理由は特にない。
ただ、教室の、みんなの、時間の音が聞こえない場所に行きたかった。
古い本棚の間で、一冊の地下資料室集は目に入った。
地球の自転。
1日は24時間。1時間で15度。
回転数は秒単位で計算できる。
数式による正確な数字が並ぶ。
でも、ページをめくっても、めくっても、
めくっても、めくっても、めくっても、めくっても、めくっても、めくっても、めくっても、めくっても、めくっても、めくっても、めくっても、めくっても、めくっても、めくっても、めくっても、めくっても、めくっても、めくっても、めくっても、めくっても、めくっても、めくっても、めくっても、めくっても、めくっても、めくっても、めくっても、めくっても、めくっても、めくっても、めくっても、めくっても。
「今、この瞬間に、何回、回ったのか」は書いていない。
当然だ。
そんなものを書く必要がない。
必要がないから、誰も答えを持っていない。
その時思った感情も、その時感じた雰囲気も、必要がないから、誰も覚えていない。
考えすぎだとは思う。
でも、一度思ってしまった。
思ってしまったからこそ、そのことが少しだけ怖かった。
放課後、幼馴染からスマホにメッセージが届いた。
『今日、話せる?』
『駅前で待ってるね』
駅前のベンチで会うと、幼馴染は開口一番、こう言った。
「私さ、昨日のことも抜けてる」
「どれくらい覚えてる?」
「....記録に残ってるぶんは...ところどころだけど...。」
....したこと、やったこと、行ったところ、会った人、食べたもの、飲んだもの、全部、全部記録されている。
でも、感情は、その時思ったこと、考えたことは、抜け落ちる。
思い出として残らない記憶。
長いようで短い。
でも、人の感情には十分な時間だ。
「記録jは残ってる。撮った写真も、撮った動画も。自分が笑ってるのもわかる。君が一緒に写ってるのもわかる。でも_______。」
幼馴染は次の言葉を探すみたいに、少し間を置いた。
「その笑顔が、私のものだった感じがしないの。私、こんなことしてないって。心ではわかってるのに、納得がいかない。」
それは、記録と記憶のズレだった。
正しい時間は残っている。
正しい表情も残っている。
でも、本人だけが置き去りになっている。
帰り道。信号の前で立ち止まる。
赤だ。当たり前のこと。青まで数分。
時間のカウントダウンが刻一刻と、正確に進んでいく。
幼馴染も、他のみんなもスマホを見る。
僕は、スマホをポケットにしまったまんまだ。
この、数十秒を覚えていられるかどうか。
青になって、歩き出す。
何も起きない。何事も。
普通の、ただの、当たり前のいつもの景色。いつもの帰り道だ。
もし、この数秒が消えるとしたら、それは偶然じゃない。
正しすぎる時間の中で、僕たちは自分の居場所を見失っているだけだ。
今、何時、何分、何秒、地球が何回、 回った日なのか。




