正しい時間は、誰のものなのか。
「最近、変だよね」
幼馴染が口を開く。
「何が?」
わかってはいる。分かってはいるけど、自ら口には出さない。
「全部、ちゃんとスマホに記録されるのに。」
そう言って、僕にスマホを見せてくる。
昨日の歩数、ルート、時間。
信号の前で止まった数とその時間。
どこに、どれくらいいたか。
だれと、何を、どれくらいしたか。
全部だ。全部数値化され、記録されている。
「でも、その時、何を考えてたか、全然わかんなくて、そこだけ覚えてないんだよね。私の気のせいなのかな。」
困ったように笑った。
前は覚えていたんだ。
喜びも、怒りも、哀しみも、楽しみも。
「どうでもいいことでも、雲の形とか、信号の変わり目とか。」
それは、幼馴染にも、僕にも、誰にだって、証明できないような記憶だった。
翌日、学校は|いつも通りだった。
先生が、名簿を読み上げて、返事をする。
チャイムも、決まった時間に鳴る。
先生は、決まったテンポ、決まった時間に沿って授業を進めていく。
いつも通りの、普通の日常。
でも、僕には違和感に見えて仕方がなかった。
始まりは男子生徒たちの話し声だ。
「昨日のホームルーム、何時に終わったっけ。」
前の席にいる、4人の男子達が話し出した。
「覚えてねー」「俺もー」「なんでそんなこと気にしたん?笑」
「てか、スマホみりゃよくね?」
4人は一斉にスマホを見て、確認をして、同じ数字を見て、同時に頷く。
「こっちのがはやいだろ」
「あ、このときか。」
「スマホさまさまだわ〜笑」
と、普段ならこの会話も聞き流す程度の話題なはずなのに、鮮明に聞こえる。
僕はここで、一石投じたい。
本当にそうだろうか。
覚えていないことが。
スマホを見て、確認することが、
問題にならず、当たり前になっている。




