見る人と、見なくなった人
僕と彼は、ある日から、出席はするけど、授業には出なくなった。
流れに身を任せるのが嫌だから、話が噛み合わないから、ついていくのが怖くなったから。
彼と一緒にいると、僕は無意識にスマホを確認していることに気がついた。
彼も同じだ。
画面をつけて、時刻を見ては、電源ボタンを押し、ポケットにしまう。
起動してはスリープをして、側から見たらスマホの充電を減らす行為にしか見えない。
正しいと、はっきり言えるわけでもないし、自分を信じているわけでもない。
ただ、心のどこかで言っている。
見ていないと不安になる。
「さっきから、よく見るね」
屋上で彼が言った。
「癖、なのかな。それとも、気にしてるのかな」
「わかるよ。俺もだから。」
彼はスマホを見て、少し間をおきながら、スマホを机に伏せて置いた。
「みんなは、見てるんだよね。今も。」
彼は少し考えてから、頷いた。
「....見てるね。というより、それが当たり前になってる」
放課後まで、彼と話して
「トイレだけ行ってくるね」
「おう」
トイレを終えて、屋上に向かう途中、廊下で幼馴染と出会った。
「あれ、久しぶり?そんなことない?わかんないや」
僕は、その言葉を聞いて、拳を握った。
最後に一回だけ。
僕は少しだけ、少しでいいから、希望を持ちたくて質問をする。
「ねぇ、今、何時かわかる?」
「わかんないけど、なんで?スマホみればいいじゃん!」
彼女は、即答で、本当に気にしていない顔で言う。
「てか、なんで時間気にしてるの?大丈夫だよ?だって、」
「スマホが全部教えてくれるから」
その言葉は、僕の希望を容易く打ち砕いた。
前までは、不思議だった。
スマホを見るのが当たり前になっていることも、時間をわからない人が増えていることも。
単純な疑問だったのに。
でも、今は、怖い、逃げたいに置き換わっている。
彼女は時間がわからない。でも、見る必要がない。時間に惑わされず、時間に怯えることもない。
だから、見る必要すらない。
今の彼女には、時間を見たところで、何も感じないのだろう。
時間がわからないからこそ、見てしまう。
時間がわからないからこそ、触ってしまう。
時間がわからないからこそ、確認してしまう。
正確な数字に何度も触れてしまう。
見るたびに、僕のざわめきが少しおさまる。
おさまって、また増える。おさまって、また増える。
増やしたくないから、見てしまう。触ってしまう。確認してしまう。
それは、安心じゃない。
それは、依存であり、執着だ。




