同じ人
校門へ歩いていった彼を、追いかける。
違った時のことなんて考えず、僕の疑念を信じて。
「あの….!!!」
僕は勇気を出した。
こんなキャラじゃない。走らないし、焦ることもない、声を積極的に出したりもしない。声を荒げたりもしない。そんな柄じゃない。でも必死だった。この世界で、唯一見つけた”同じ人”だから。
「ん….?」
彼は、純粋な顔で振り返った。まさか話しかけられるとは思っていなかったのだろう。
「き、君さ…!スマホっ...最近いつ見たっ?」
彼は、足を止めた。
それから、ゆっくり僕を見る。
「……最近は見てないね。」
その一言で、胸の奥がざわっとした。
「はぁっ...はぁっ....ぼ、僕もなんだ。」
駅まで一緒に歩くことになった。
「時間を気にしてる人初めて見た。俺以外にいたんだ。この、不安感を持ってる人。」
彼はそういった。彼も気づいていた。違和感に。
みんなが流れに身を任せ、スマホに、記録に全てを任せながら生きていることを。
時計を見ても安心できないこと。記録が正しくても納得できないこと。わからなくても平気なこと。
「みんなはさ、わからなくても平気なんだよな。きっと。….でも俺は、”わからないまま進む”のが無理でさ。」
その言葉は、そのまま僕の心を代弁していた。
「いつから?」
「俺は最近。理科の実験でさ、秒単位の誤差を測ってた時にさぁ...。俺が一生懸命測ってるっつーのに、クラスメイトも、先生も、みんなスマホみてんの。わかんなかったら、すぐ調べてさ。わかんねーから、実験してるっつーのに。」
彼は軽く笑った。
「測れば測るほど”今”が逃げていく感じがしてさ。前までは思わなかったのに。」
正確にしようとすると、手触りがなくなる。秒針が、時間が、逃げていく、追いつきたいのに、追いつけない。
それは、僕がずっと感じていた感覚だった。
「君もいってたけど、時間のズレだっけ。たぶんさ、俺たち、みんなと同じ時間を生きていないんだと思うんだ。」
彼は空を見上げていった。
世界は一つなのに、刻まれている時間が違う。違う気がするから__。
だから、だから、噛み合わない。
彼と駅で別れて、家に帰る途中、スマホが震えた。
幼馴染からのメッセージだ。
「今日、何してた?」
僕は返信に戸惑った。
「友達を作りにいってたよ。」
既読はついたけど、返信は来なかった。
でも、それでいい。
それくらいの距離感のが、今は。
少なくとも、僕は一人じゃないことが今日わかった。
何時、何分、何秒、地球が何回、回った日。
その問いを、まだ手放せない人間が。
この世界に確かに存在をしている。
まだ時間に、まだ流れに、まだこの世界に、抗う人間が。
それだけで、僕の世界は少しだけ、現実味を帯び、色がつき始めた気がした。




