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第55話 鉱山の奥の秘密と、寂しがり屋の遺跡

 ラムール領との魔鉱石の瞬きドレス事業が軌道に乗り始め、オルステッド領はかつてないほどの活気と豊かさに包まれていた。

 城内も、王都へ送り出すための新しいドレスの試作品作りで連日大忙しだ。


 一方、領地の北西に位置する魔鉱石の採掘場(通称:北の鉱山)では、頼もしい助っ人たちが大活躍していた。

 伝説の魔獣フェンリルのポチと、城の警備を兼ねるガーゴイルたちだ。


「ワオォォン!(ここ掘れワンワン! 俺の鼻が、ここに極上の魔鉱石があると告げている!)」


『任せるッス、アニキ! 俺たちの硬い爪でガンガン掘り進めるッスよ!』


 ポチが前足で猛烈な勢いで土を掻き出し、ガーゴイルたちがその土砂を器用に外へと運び出している。


 彼らは本来、城の警備や中庭の穴掘り(遊び)が仕事なのだが、「鉱山で穴を掘れば褒められるし、美味しいお肉がもらえる」と学習して以来、自主的に採掘作業を手伝うようになっていた。

 屈強な鉱夫たちも「重機より早い」「めちゃくちゃ助かる」と大絶賛である。


「よしよし、今日も大漁だな。お前ら、そろそろ休憩にすっか?」


 監督役として同行している庭師のガイルさんが、丸太のように太い腕で汗を拭う。

 しかし、ポチは鼻をフンフンと鳴らし、さらに暗い坑道の奥深くまで進んでいく。


「グルルッ……(待て。もっと奥から、不思議な匂いがするぞ。それに……)」


 ポチの優れた聴覚が、微かな音を捉えていた。


『……だれ……? きて……』

『……さみしい……あそんで……』


 土の奥深くから、か細い、子供のような声が聞こえるのだ。


「ワフッ?(誰か生き埋めになっているのか?)」


『アニキ、どうしたッスか?』


 ガーゴイルの一体が首を傾げる。


「ワオーン!(この奥に誰かいる! 助け出すぞ!)」


 ポチは再び猛スピードで穴を掘り始めた。

 ザクザクと硬い岩盤を掘り進めること数十分。


 ――ガキィィンッ!


 ポチの鋭い爪が、これまでの岩盤とは違う、人工的で異常に硬い壁にぶつかった。


『なんだこれ? 鉄の扉みたいな……すっげぇ硬いッス!』


 ガーゴイルが爪で引っ掻くが、傷一つつかない。

 よく見ると、その巨大な扉のような壁面には、見たこともない古代文字のような紋様がびっしりと刻み込まれていた。


『……きてくれたの……? うれしい……!』


 壁の奥から、再びあの子供のような声が響く。

 その声に呼応するように、扉に刻まれた紋様がぼんやりと青白い光を放ち始めた。


 ゴゴゴゴゴ……!


 重々しい音を立てて、巨大な扉がゆっくりと左右に開いていく。

 中から冷たく淀んだ空気が流れ出し、ポチとガーゴイルたちは思わず後ずさった。


 扉の向こうに広がっていたのは、鉱山の洞窟とは全く無縁の空間だった。

 大理石のように滑らかな床、巨大な柱が立ち並ぶ広大なホール、そして天井には星空を模したような発光する魔鉱石が埋め込まれている。


 それは間違いなく、はるか昔に建造された『古代遺跡』だった。


「ワオ……(すげぇ……こんな場所があったのか)」


『アニキ、なんかヤバい雰囲気ッスよ。帰ってガイルさんや旦那様たちに報告した方が……』


 しかし、好奇心旺盛なポチは、尻尾を振りながら遺跡の中へと足を踏み入れてしまった。


「ワフッ!(少しだけ探検だ! 奥で誰かが呼んでるしな!)」


『あっ、アニキ! 待つッス!』


 ガーゴイルたちも慌ててその後を追う。


 広いホールの中央には、巨大なクリスタルのような石柱が立っていた。


『……あそぼ……鬼ごっこ……しよ……』


 声は、その石柱そのものから響いているようだった。


「ワウ?(鬼ごっこ?)」


 ポチが石柱の匂いを嗅ごうと鼻先を近づけた、その瞬間。


 ピコーン!


 石柱が赤く点滅し、遺跡全体にけたたましい警戒音が鳴り響いた。


『わーい! 鬼ごっこ、スタート!』


 無邪気な声と共に、床のタイルが次々と陥没し、壁からは巨大な石の球がゴロゴロと転がり出してくる。


「ワオォォン!?(なんだこれ!? 罠か!?)」


『アニキ! 後ろッス! 扉が!』


 ガーゴイルが叫ぶ。

 振り返ると、彼らが入ってきた巨大な扉が、ガシャン! という轟音と共に完全に閉ざされてしまっていた。


『つかまえた……! もう……かえさないよ……ずっと……あそぼ……』


 遺跡の声が、無邪気ゆえの残酷さを帯びて響き渡る。

 ポチとガーゴイルたちは、完全に未知の古代遺跡の中に閉じ込められてしまったのだった。


 ◇


 一方、その頃。

 オルステッド城の執務室で書類仕事を手伝っていた私は、不意に強烈な胸騒ぎを覚えて筆を止めた。


「……?」


 微かに、地の底から悲鳴のようなものが聞こえた気がしたのだ。


『助けてー! アニキが石に潰されるッス!』

『開かない! この扉びくともしないッス!』


「ガーゴイルさんたちの声……?」


 私は慌てて立ち上がった。

 声が聞こえるのは、ずっと北の方角。魔鉱石の採掘場がある山からだ。


「どうした、コーデリア。顔色が悪いぞ」


 向かいのデスクで仕事をしていたジークハルト様が、異変に気付いて立ち上がる。


「ジークハルト様! ポチとガーゴイルさんたちが、鉱山で何かトラブルに巻き込まれたみたいです! 助けを呼ぶ声が……!」


 私の言葉に、ジークハルト様の表情が一瞬で険しく引き締まった。


「……ガイルが同行しているはずだが、あいつ一人では対処できない事態ということか」


 ジークハルト様は壁に立てかけてあったグラムを手に取り、素早く腰に帯びる。


『おっ! 出番か! 最近平和すぎて体が鈍ってたところだぜ! ポチの奴ら、ドジ踏みやがって! 派手に助けに行こうぜご主人様!』


 グラムが鞘の中で武者震いをしている。


「行くぞ、コーデリア。……セバスチャン! 馬の手配を!」


「かしこまりました、旦那様!」


 ただの落盤事故か、それとも魔物の仕業か。


 私たちはまだ知らなかった。

 鉱山の奥深くに、意志を持った巨大な古代遺跡が眠っていることなど。


 私たちの平穏なスローライフに、新たな「冒険」の幕が開こうとしていた。

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