文字通り、クソ騎士2
「くっ! この!」
ギチャック本人も焦りが大きくなる。
簡単に勝てると思った相手にいいように攻撃を防がれている。
今はまだ周りもギチャックが余興らしく手加減しているのだと思ってくれているけれど、あまり長く攻めあぐねていると不審に思われてしまう。
子供相手に苦戦しているなんて思われれば、騎士の名折れだ。
「うん……なんとなく分かった」
攻撃を受け流しながらイースラはギチャックの実力を把握していた。
そこそこ強いが、まだまだといったところ。
怒りで剣の振りも大きいし、最近訓練もサボってるのか息が上がり始めている。
「注目もさらに集まってきたな」
いつの間にかカメラアイが飛んでいる。
イースラが飛ばしたものではなく、余興として誰かが配信しているのだろう。
戦いが長引くほどに人の目も増えていく。
「ここらで一つ……」
「いい加減ちょこまか逃げるのやめやがれ!」
ギチャックが大きく剣を振り下ろした。
イースラはギチャックの剣を受け流し、バランスを崩した隙を突いて脇腹に軽く剣を当ててすれ違う。
痛くはないだろう。
ただギチャックも剣を当てられたことは分かっているはずだ。
本気だったら結構痛い。
仮に真剣だったら死んでいる。
あからさまに手加減された一撃だったとバカでも分かる。
ただの貴族じゃわからないかもしれないけれど、ここにはギチャックの先輩騎士も多い。
同程度の力を持つ相手同士の戦いで、決闘でもない練習試合なら一本取ったと止めることだろう。
しかしこれは決闘だ。
審判役の騎士は止めるべきかどうか迷い、止める機会を逸した。
「ガキ……! 殺してやる!」
ここまでされたら挑発されているとギチャックも気づく。
ギチャックはオーラユーザーではないので怒ったところで攻撃が大雑把になるだけだ。
「こっちもあんたを殺すことなんてできるけど……やらないでおいてやるよ」
オーラを使えば非オーラユーザーのギチャックを殺すことも難しくはない。
けれどもお祝いの場に血は相応しくない。
「あれは……!」
殺さずに相手を叩き折る。
イースラは剣ではなく、手にオーラを集める。
白いオーラに対して観客たちからざわめきの声が上がる。
「オーラユーザーだと!?」
ギチャックも驚いている。
まさかイースラがオーラを使えるだなんて思っていないようだった。
色々配信して、多少は有名になったかなと思ったのだねどう、まだまだ知名度は低い。
知っていたらギチャックが自信満々に出てこないだろうし、今回は知られていなくていいのだけど、やはり多くの人に知ってもらうのは難しいことだと思い知る。
「くらえ!」
オーラに驚くギチャックの腹に掌底をぶち込む。
以前交流大会でクルーンというオーラユーザーにも同じようなことをした。
オーラを流し込み、体の内側にダメージを与える攻撃である。
オーラユーザーでなければかわすしかない上に、オーラユーザーでも対処法を知らないとまともな防御は難しい。
「ぐっ…………うっ!?」
クルーンの時は内臓に大きなダメージを与えて倒すつもりで一撃を放った。
しかしこれもちょっとした応用が効く。
「うっ……くっ……あっ!」
まともに掌底を食らったギチャックの顔が大きく歪み、剣を落として腹を押さえる。
足がギュッと内股になって脂汗が噴き出してきた、と思った瞬間ひどい音が響き渡った。
「えっ……」
「まさか……漏らしたのか?」
ギチャックは盛大にクソを漏らした。
足首のすそから茶色いものが出てきて、周りで見ていた人たちがザッと一歩遠ざかる。
掌底の出力を抑えて、内臓を刺激する。
すると押し出されて腹の中にあるものが出てきてしまう。
これは便秘の治療に使われることもあるのであった。
「………………イ、イースラの勝利!」
イースラが審判役の騎士を見る。
漏らしてまで戦う人はほとんどいない。
イースラの一撃によるものだろうことは容易に推測できるので、イースラの勝利となった。
「な、何してるんだよー!」
クラーボンは叫ぶが、ギチャックは他の騎士たちが素早く目隠しをして運ばれていってしまった。
「これでしばらく表舞台には出られないだろ?」
パーティーを汚してしまったことは悪いと思う。
普通に負けて手加減したのだ、なんて言われてもたまらないので、ここは誰の目から見ても敗北したのだと分かりやすくやらせてもらった。
「流石です!」
脱糞騎士。
ギチャックはしばらくそう呼ばれることになる。
イースラはユリアナに小さく手を振り返し、その隣にいるアルゼストに気づいて気まずそうに笑顔を浮かべるのだった。




