文字通り、クソ騎士1
決闘といえば大切なものをかけた戦いなので、命を奪うつもりで戦うのが基本だ。
しかし今日は国王の誕生日パーティーであり、血を見るなんてもってのほかである。
そこでトモマガイアンの取りなしもあって武器は木剣、相手を殺すのは無し、ということになった。
本気の決闘というよりはパーティーの余興のような雰囲気に変えてしまったのは、さすが王様の手腕である。
「これ以上騒ぎ立てるのではないぞ」
「……はい」
決闘をやるとは思っていなかったクラーボンは焦りを抱えていたが、それでも勝てばいいと自分を納得させていた。
ただトモマガイアンまで絡んできてしまうと、もはや借りてきた猫のように大人しくするしかない。
「お前は何をやってるんだ……」
「仕事してただけです」
ブルームスは呆れ返ってしまう。
まだパーティーだって始まってそれほど時間も経っていない。
交代要員として控え室にいる間に、どうして決闘騒ぎになっているのか。
イースラは視線を逸らしてあっけらかんと答えるが、冷静になると結構なことをしてしまった自覚はある。
「イースラだしね」
「なっ」
サシャとクラインはイースラのことを冷めた目で見ている。
あまり騒ぎを起こしたくないなどとイースラは言うけれど、口で言うほどに大人しくしていないのは分かりきっている。
決闘騒ぎになったって、イースラならやりかねないと思うほどになっていた。
それにブルームスのように心配もしていない。
負ける勝負をイースラが受けるとも思えないからだ。
「どうするのかはお前が決めなさい。お前の護衛だからな」
「ええと……ど、どうしたらいいのでしょうか?」
なんだかなし崩し的に決闘することになってしまってユリアナも困惑していた。
イースラのことだしどこかで丸く収めるつもりだろうと思っていたら、本気で決闘するつもりでどうしたらいいのか分からない。
アルゼストに助けを求めるような視線を送ったのだけど、アルゼストは朗らかに笑うだけで止める気はないようだった。
「心配なら止めればいい。信じるなら……彼に任せればいい」
「……では任せ、ます」
正直怒られると思っていた。
でもアルゼストに怒るような気配はなく、むしろ機嫌が良さそうだ。
アルゼストに止める気がないなら、イースラが一介の騎士に負けるなんて思えないし、イースラのやりたいようにさせてみることにした。
どうせユリアナに失うような名誉はない。
負けたって謝って国に帰ればいいのである。
「それと……」
「ん?」
「婚約の話、私は聞いていなかったのですが?」
「う……それは……だな」
ユリアナに険しい視線を向けられてアルゼストは狼狽える。
「後でお話、聞かせていただきますからね」
「…………分かった」
むしろアルゼストの方がユリアナから怒った気配を感じていた。
知らぬ間に婚約させられていたなんて話、確かにユリアナであっても怒るかもしれない。
せめてイースラが勝ってユリアナの機嫌を良くしてほしい。
アルゼストはそう思うのだった。
「準備はいいか?」
場所は中庭、周りにはパーティーの招待客が観客として集まっている。
何があったのか事情を知らない人は、ブリッケンシュトの期待の新人が実力を見せる余興だと思っている。
「もちろん。そっちこそ負ける言い訳は考えましたか?」
「……ガキが勝てると思ってるのか?」
「何も調子に乗って受けたわけじゃないですよ」
言っては悪いが、勝てると思ったから決闘を受けたところがあるのは否定できない。
「骨の一本ぐらいは覚悟してもらうぞ!」
殺傷厳禁とは言っても戦って怪我一つなく終わるお遊びではない。
木の剣なので頭でも本気で殴りつけない限りは死なないだろうが、当たれば骨ぐらいは折れる。
「やってみてくださいよ」
ここで痛い目を見てもらって、ユリアナからは手を引いてもらう。
こんなくだらないことでユリアナの今後を煩わせるわけにはいかない。
「それでは僭越ながら私が心配を務めさせていただきます」
トモマガイアンの護衛を務める騎士の一人が審判役として中央に立ち、イースラとギチャックは剣を構えて向かい合う。
「始め!」
審判役の騎士がまっすぐに腕を振り下ろす。
「大人ってもんを分からせてやるよ!」
ギチャックは開始と同時に走り出して、剣を振り下ろす。
基本を押さえた鋭い一撃。
クラーボンに従っていて性格も悪いが、何もゴマをすっているだけで王子の護衛になったわけじゃない。
まともな実力も兼ね備えている。
ただクラーボンにつき従うようになっていくらか腕は錆びついた。
「こんなもんですか?」
イースラはギチャックの一撃を受け止める。
大人の力と子供の力の差はあるが、ギチャックは力任せにするタイプではないので受け止め切れた。
「この……!」
ニヤリと笑うイースラを見て、ギチャックの頭に血が上る。
ギチャックが激しく攻め立てる。
「ふーん、割と余裕そうだな」
「大丈夫そうだね」
「お前らも、あれが分かるようになってきたのか」
一見するとイースラが一方的に攻め込まれている。
しかしギチャックの攻撃はイースラの服の端にすら触れていない。
以前までならハラハラしていただろうクラインとサシャの二人も、イースラが相手の攻撃を見切っていることをしっかり分かっていた。




