思い出した、クソ野郎5
「お前は首になりたいのか?」
「あなたのような人からユリアナ様を守るのが俺の仕事です。首になるのは仕事ができなかった時です」
婚約の話が出ているとクラーボンはどこかで聞いたのかもしれない。
本人に話が届くぐらいなら成立目前の可能性も高い。
だが成立していないし、回帰前には成立していなかった。
勝手に婚約者だなんて口にする軽率さが、婚約不成立の原因かもしれない。
結局クラーボンは婚約が成らなかった後も、ユリアナに付きまとうのだ。
今回、そうはさせない。
「イースラ様……」
ピリピリとした空気なのだけど、いつになく真剣な顔をしてやたらと丁寧な口調のイースラもまた良いものだとユリアナは一人でゾワゾワとしたものを感じていた。
いつも優しい目をしているイースラがだいぶ冷たい目をしている。
ちょっと新しい扉が開きそうな気分だった。
「僕が誰なのか分かってるのか!」
「もちろん存じ上げています。ですが国王相手でも俺が守る相手は変わりません」
「……あなたの想い人、素敵ね」
カイラはスッとユリアナの横に移動していた。
クラーボンの素行が悪いことは周知の事実であり、場慣れしていないユリアナでは対応できないだろうと勇気を出してクラーボンに立ち向かった。
けれどもそんな必要もなかったか、とイースラを見てカイラは羨ましくも思った。
まさしくナイトがやってきた。
「君は僕が嘘をついているとでも言うのか?」
「現段階ではユリアナ様に婚約者はいらっしゃいません。これは事実です。それに反することを言うのなら……嘘になります」
「……この!」
クラーボンはポケットから白い手袋を取り出して、イースラの顔に投げつけた。
「僕は君の言葉を侮辱と受け取る! 名誉を傷つけられたのだからやることは一つ。決闘だ!」
嘘をついているから嘘をついていると言って何が悪いのか。
しかしクラーボンはイースラの言葉は侮辱であり、撤回させるための手段として決闘を持ち出してきた。
(な、なんだこいつ……!)
決闘という手段は基本として最終的に用いられるものである。
名誉をかけたり、紛争の解決をかけたりと互いに引けない大切なものを守るために行われる暴力を用いた解決方法だ。
大人なら重要さが分かっているので、互いに冗談だと分かってでもいない限りは口にも出さない。
クラーボンは決闘というものの重みを分かっていない。
だから相手を脅すための手段として決闘を使ってきたのだ。
これまでの相手は決闘なんて言われると、怖気付いて引いてきたことだろう。
だがイースラは違う。
むしろ想定していた通りにやってくれたと笑いそうになった。
顔をキュッと引き締めたので、クラーボンから見ると非常に険しい顔をして少しの動揺もないように映っていたのだった。
「やりましょうか」
「えっ……」
「いいですね? ユリアナ様?」
「えっ、あっ、はい。イースラ様がおやりになられたいのなら……」
急に許可を求められてユリアナは慌てる。
イースラなら大丈夫だろうと思わず許可してしまったが、言った後で良かったのかと悩んでしまう。
「クラーボン様が直接戦われますか?」
「い、いや、代理で騎士を出す! ええと……ギチャック!」
イースラが受けるとは思っていなかったようで、クラーボンは慌てる。
貴族が決闘する時、自分から戦うことはまずない。
自分の代わりとして兵士や騎士を出して決闘させることも多いのである。
選ばれたのは若い騎士だった。
そしてイースラはギチャックと呼ばれた騎士にも見覚えがあった。
クラーボンについて回る腰巾着な騎士。
実力はあるのに、クラーボンの権力の甘い汁をすする腐った男だと記憶している。
「……よいのか? あの子、殺されてしまうかもしれないぞ?」
「ううむ、同じ言葉を返そう」
他の警備の兵士も止めに来ない。
それはこの騒ぎを二人の王は知っていて、手を出さないようにと止めていたから。
「あの子はそんなに強いのか?」
「強いぞ。最近のうちの国の報告を読んでないのか?」
「そういえば読んでいなかったな」
王が止めないのだ。
もはやこの決闘は誰にも止められないのであった。




