思い出した、クソ野郎3
「……まあ、今日堅苦しいことを抜きにして楽しんでくれ。息子たちは他に挨拶に回っているからどこかで会うこともあるだろう。その時はよろしく頼む」
「もちろんしっかり礼儀を叩き込んでおくよ」
最後に二人はしっかりと握手をして、トモマガイアンは次の来客の対応に移っていった。
その後アルゼストたちも何人かシーナクロデの貴族に挨拶回りをして、後は各々で楽しむことになった。
「ご挨拶して回るのって……すごく緊張しますね」
「あんまり経験ないんだな」
回帰前に会った時には人と挨拶するぐらいのこと、ユリアナにはなんてことはないものだった。
アルゼストが離れていき、不安なのか今も強くイースラの腕を掴んでいる。
守ってあげたくなる感じは強い。
「男は無視していいから歳の近い女の子とかに挨拶しておこうか」
貴族の礼儀作法もめんどくさい。
面識もないのに男性の輪に女性が声をかけていくのははしたないとか、客の中にも序列があってちゃんと挨拶する必要があるとか、リストにでもしてルールを見せてくれと思う。
イースラには分からないようなルールもあるので、社交場に慣れている歳の近い女の子と仲良くなればそれとなくルールは教えてくれるだろう。
イースラは周りのことを見て、歳が近そうな女の子を探す。
さらにはその中でグループを形成しているような、多少経験のありそうな子たちを見つけた。
「ユリアナ」
イースラから声をかけるわけにはいかない。
なのでそっとユリアナのことを促す。
「は、初めまして。ユリアナ・ブリッケンシュトと申します」
緊張した面持ちだが、お辞儀の作法は叩き込まれているのでそつなくこなしている。
「カイラ・モルヘネシスよ。あなた、初めて見る顔ね」
すらっとした背の高い金髪少女が代表してユリアナに対応する。
品定めするようにユリアナのことを上からしっかり観察し、次にはイースラのことも見る。
「はい……社交場に出た経験が少ないので、お友達になっていただければと思いまして」
「そうなの。歓迎はするけど……そちらの男性は?」
腕を組む男が一緒だとカイラも気になるのだろう。
イースラはカイラと目が合う。
「こちらの方は……イースラ様。私のことを、守ってくださる……素敵な方、です」
護衛と言えばいいのに、ユリアナは顔をほんのりと赤くして回りくどい言い方をする。
これはユリアナなりの牽制だった。
カイラのグループの何人かはチラチラとイースラのことを見ている。
単純に女の子グループに男が近づくのが嫌な子もいれば、イースラの顔を見て悪くないと思っている子もいた。
ユリアナはイースラに色目を使われないように、最大限に言葉を選んで色目を使うなと伝えているのだ。
他の女の子たちだってユリアナの顔を見れば、イースラとユリアナが浅い関係ではないと気づく。
「俺は近くにいるから」
流石にイースラがずっとそばにいては他の女の子たちも落ち着かない。
護衛のためには目の届く範囲にいるつもりだけど、一度ユリアナから離れる。
「あの言い方は良かったのかもな」
ユリアナは割とすぐに受け入れられている。
その理由の一つにイースラの存在がある。
社交の場は出会いの場でもある。
良い相手がいれば声をかけ、交流を始めることもあるのだ。
若くて見目麗しい若い女が現れると、他の女性は警戒するのもである。
ただ今回はユリアナにイースラがくっついてきた。
見た感じ悪くない関係でもあった。
男性関係について、ユリアナは心配いらなそう。
結果的に周りの子の警戒は低くて済んだのだった。
「対して俺の方は……まあ貴族でもないしな」
イースラは護衛であり他の人に挨拶するつもりもない。
ユリアナと腕を組んでいたせいか、いくらか男どもから冷たい視線を浴びている。
しかしユリアナもまだ子供なせいか、そんな視線も多くはない。
回帰前、大人のユリアナの時はもっと嫉妬丸出しの視線を浴びたものだった。
ワイワイとする女の子たちを凝視もできないので、上手く視線を外して視界の端で警戒する。
「にしても……」
イースラの中には相変わらず何かを思い出せないモヤモヤ感がある。
集まっている多くの人の顔を眺めてもまだ思い出せない。
「……どうやら良い子たちだったようだな」
ユリアナはカイラに連れられて、もっと歳が上の人たちに挨拶に向かっている。
ダメだったら他のグループに連れていくことも考えていたけれど、カイラは面倒見がいいタイプのようである。
イースラもこっそりとユリアナの後を追いかけていく。
さらには、イースラからもう少し離れてバルダーも監視をしている。
「心配するほどのことはなさそうだな」
ユリアナは挨拶も上手くやっている。
緊張して固くはなっていたものの、元より頭は良くて何でもこなせるので挨拶ぐらいはなんて事はない。
「いじめるような人もいなさそう……かな?」
時々妙に性格の悪い人もいる。
言葉尻をとらえて責めたり、相手が不快になるところを上手く見つけて突いてくるのだ。
ともかく今のところユリアナがそんな悪意に晒されている雰囲気はなく、イースラは安心していた。
「……あれ? あいつは……」
だいぶ良い感じで挨拶して人との交流を深めていた。
ユリアナの緊張もほぐれてきているなと微笑ましく思っていたら、女の子たちに近づく男子のグループがいた。




