思い出した、クソ野郎2
「ユリアナ……?」
「ちゃんとお父様の許可はもらってますよ」
ユリアナはイースラに耳打ちしてイタズラっぽく笑う。
騙されたかもしれない、そう思った時にはもう会場にいたのだった。
「守ってくださいね」
ユリアナの容姿は非常に優れている。
今はまだ幼さが残るけれども、それもまた可愛らしいと言えるほどで、将来美人という言葉だけでは形容できない成長を遂げることは確実だった。
もちろん今でもユリアナはトップクラスの容姿である。
見た目がいいとどうしても周りの目を集めてしまう。
特にユリアナはこれまであまり表に出てこなかったので、知らない人も多くて誰なのだと余計に注目される。
ジロジロと眺めるような男たちの目、突如社交界に出てきて男性の視線を集めるユリアナを品定めする女性たちの目など様々だ。
流石に視線が集まると、イースラが隣にいる効果をもってしてもユリアナの緊張は解けない。
固い表情でイースラの腕を強く掴む。
「まあ、そんな緊張せずともユリアナのことを取って食うようなやつはいないよ」
もはやこうなればユリアナの人払いに徹するしかない。
イースラはユリアナの緊張を解きほぐすように微笑みかけてやる。
もしかしたらこうした緊張を和らげるためにイースラが選ばれたのかもしれない、と感じた。
「父上、いいのですか? このままでは……」
「構わん」
第一王子のオワイトはイースラのことを睨みつけるようにかなりキツい目をして見ていた。
特定の相手がいないのならエスコートするのは父親であるアルゼストか、兄であるオワイトが適任なのである。
何処の馬の骨とも分からない子供が王族の一員顔して近くにいるのが我慢ならなかった。
イースラにももちろん聞こえているし、正直オワイトと同じ感想を抱いている。
しかしアルゼストはオワイトの意見を一蹴してしまう。
父親の考えが分からず、オワイトは顔をしかめる。
「あの……い、いいんでしょうか……?」
そのままアルゼスト一行は、今回のパーティーの主催者であるシーナクロデ国王のところに挨拶に向かう。
流石にご挨拶の時にユリアナとくっついているのはまずいのでは、とイースラ自らが声を上げる。
「そのままでよい。むしろそのままでいてくれ」
「………………は、はぁ……」
護衛の依頼主はユリアナとなっているけれど、実質的な依頼主はアルゼストと相違ない。
アルゼストがそうしてほしいというのならイースラには拒否しにくい。
「アルゼスト! わざわざきてくれてありがとう」
「招待されずとも来るつもりだったよ」
今現在におけるブリッケンシュトとシーナクロデの関係性はそんなに悪くない。
シーナクロデの国王トモマガイアンとアルゼストは年が近く、交友があった。
国同士で衝突する事件もなく、これまででも大きな戦争などで敵対したこともない。
表面上はともかく実際には隣国と仲が悪いことも少なくないのだけど、ブリッケンシュトとシーナクロデは仲が良いとも言える間柄である。
アルゼストはトモマガイアンと抱擁を交わし、軽く挨拶する。
「息子たちもずいぶん大きくなったな」
「お久しぶりです、おじ様」
「はは、そう呼んでもらえるのは嬉しいな」
アルゼストとトモマガイアンに交友があるということは、その息子であるオワイトもトモマガイアンに会ったことがある。
昔の名残で公的な場以外ではおじ様などと呼ぶ。
こうした交流もまた王になるためには必要なことである。
「それに……ユリアナか。会うのは久々だな。私の顔は覚えていないだろう?」
第二王子の挨拶は控えめ。
先日の失敗が尾を引いていて、あまり目立たないようにしている。
第三王子は現在留学中なので会えなくて残念だと軽く言及されたのみだった。
そして最後にユリアナに目を向けた。
「第一王女がご挨拶申し上げます」
流石にユリアナもイースラから手を離してうやうやしく挨拶する。
「ええと……お会いしたかどうかは、覚えておりません」
「当然だ。母親の服の裾を掴んで、私の顔を怖がって隠れてしまうぐらいの時にあったのだからな」
トモマガイアンは優しく笑う。
確かに少し顔の印象は厳つい。
子供から見ると怖く見えることもあるだろう。
「……そちらの子は? いつの間に一人増やした? まさか隠し子か?」
「そんなわけないだろう」
「ユリアナ様の護衛を務めさせていただいております、イースラと申します」
イースラも丁寧に頭を下げる。
細かい礼儀作法は分からないものの、失礼にならない程度にはちゃんとできていると思う。
「護衛だと? 今腕も組んで……」
「是非とも捕まえておきたいものでな」
トモマガイアンは驚いた顔をして、アルゼストのことを見る。
対してアルゼストの方はニヤリと笑う。
「…………そうか」
トモマガイアンは少し何か言いたげな顔をしたが、言葉を飲み込んだ。
二人の様子を見て、なんだかちょっとした怪しい雰囲気もあったが、それ以降イースラに触れられることもなかった。
護衛を連れていることは許されている。
ユリアナの近くにいようとも、トモマガイアンに文句を言えることではない。




