思い出した、クソ野郎1
モンスターの襲撃はあったものの、ユリアナの隊列は後ろの方でありイースラたちの出番もなく兵士たちが処理してくれた。
やれるような仕事も特にない。
そんな苦労はあったものの、特に大変だと思うようなこともなくシーナクロデに到着した。
「なぁに難しい顔してるの?」
「んーと、いやなんでもない」
流石に他の国では何があるか分からない。
不意に中を覗かれる可能性もあるので、イースラはクラインの横に移動してきている。
なんだかイースラがシーナクロデの町を眺めて真剣な顔をしていると、サシャが気づいた。
なんでもないと答えた理由は、イースラ自身もなんと説明していいのか分からなかったから。
シーナクロデと最初に聞いた時にはあまり何も思わなかったのだけど、だんだんとなんとなく聞き覚えのあるような気がしてきたのだ。
ただイースラはシーナクロデに来たことがない。
隣国なので名前くらい聞いたことがあるのは当然のことである。
ただ名前を聞いたことがあるというだけではない、何かモヤモヤとしたものを感じていた。
けれども外の風景を見ていても見覚えはない。
「んー?」
何が引っ掛かるのか分からない。
イースラは思わず小さく唸ってしまう。
ただ思い出すようなキッカケもなく、イースラたちはそのまま招待を受けた王城についてしまった。
「……ほら」
「ありがとうございます」
先に降りて安全を確かめたイースラはユリアナに手を差し出す。
こうした行為はイースラがやるべきのことではないのだけど、ビブローがやれという顔をしたのをイースラは察した。
ユリアナは嬉しそうな顔をしてイースラの手を取る。
箱入りお嬢様のユリアナは外交の場に参加したことがほとんどない。
自国で開く誕生日会ぐらいなもので、こうして外に赴くのには大きな緊張があった。
だがイースラにエスコートされてユリアナの表情も少し和らいだ。
「ここからの警備体制は事前に伝えた通りだ。私も近くにいるから、あとは頼んだぞ」
国王の誕生日なので多くの人が招待される。
護衛までゾロゾロといては、どれほど広いスペースがあっても足りない。
基本的な護衛は招待した側が責任を持つのだけど、だからといって全てを任せきりにするのは不安が残る。
そこで対象が未婚や一定の年齢以下であることなどを条件にして、護衛を一人つけることを許されていた。
しかし護衛をつけているということは一種の未熟さの現れでもある。
一人では何もできないとみなされることもあり、そこで選ばれたのがイースラたちだった。
子供の護衛がいるなんて普通の人は思わない。
つまり護衛をしつつ周りに悪印象を与えないようにするというのが、イースラたちが選ばれた理由なのである。
だからイースラもピシッとした格好をしている。
見た目を整えれば意外と周りにも護衛だとはバレない。
残念ながらアルドッグは目立つのでお留守番だった。
「行こうか、ユリアナ」
護衛というより舞踏会に赴くのに選ばれたパートナーのような所作でユリアナの横に立つ。
「……何だか、手慣れてますね」
イースラが腕を差し出してくれたので嬉しい反面、イースラが女性をエスコートするのに慣れているようでユリアナはチクッとしたものを感じていた。
「あ……これはその……エティケントさんが、教えてくれて……」
もちろんエティケントがイースラに女性のエスコートの仕方を教えるはずがない。
これは回帰前にユリアナに叩き込まれた所作だった。
イースラが出会った時のユリアナは色々あって、立場上のお姫様ではなかった。
それでもどこかに呼ばれてパーティーに出ることはあったし、イースラがユリアナに近づく男をブロックするための役割を演じることもあった。
その時に色々とやらされたのだ。
まだ二人が付き合う前の話である。
「エティケント様が……意外ですね」
「まあ、でも、様にはなってるだろ?」
「……ええ、お上手ですよ。その……カッコいいぐらいです」
ユリアナは頬を赤くする。
こうしていると回帰前に戻ったような気分にもなる。
「そっか周りから見て恥ずかしくないぐらいなら……いいかな」
回帰前に習ったことがこんなふうに役立つとは思ってもみなかった。
ただしこれでは、回帰前にやっていた男を追い払う役目と全くことになっている。
もしかしたらそのつもりだったのかもしれない、とイースラは思った。
それでいいのかとも思う。
ビブローが何も言わないので、いいのだろうとそのままユリアナをエスコートする。
「えっ……このエスコートって王様まで公認……?」
王様のアルゼストと三人の王子と合流する。
王子たちからはとんでもなく冷たい目で見られるが、王様は目を少し細めたのみで何も言わない。
流石に合流したらやめると思っていたのに、ユリアナも手を解く気はないようである。
結構まずいのではないのかとイースラは思うのだけど、イースラの方からあからさまに手を振り解くこともできない。
「えっ……えっ?」
城内に入ってから近くにいる分にはいいだろうが、このままではまるでパートナーのような顔をして一緒に入ることになる。
イースラはビブローのことを見るのだけど、ビブローはあからさまに目を逸らす。




