意外と需要あり1
「しかし……本当によかったのか?」
「しつこいですよ! 私がいいって言ってるからいいんです!」
イースラはユリアナの護衛をすることになった。
ユリアナ側の希望通りサシャとクラインも加わり、さらにはお目付け役として実は元貴族だった第二大隊長のブルームスもいる。
ただもちろんイースラたちだけで護衛しているわけじゃない。
今はユリアナの護衛を務めるビブローを始めとして騎士もいる。
さらには移動しているのはユリアナだけではなく、王様や他の王子もいる。
イースラたちがユリアナを護衛するまでもなく、騎士や兵士が周りを固めているのだった。
むしろなんで呼ばれたのか、イースラにも分からないぐらいである。
そんなイースラたちはユリアナと同じ馬車に乗っていた。
「なんならお前だけ馬に乗ってけよ」
「それはそれで面倒だけどさ」
本来なら護衛が同じ馬車に乗るようなことはない。
ただユリアナがどうしても、というからイースラたち三人は馬車に乗っていたのだ。
「たださ……この配置……正しいのか?」
向かい合うような馬車の座席、イースラの正面にはクラインがいる。
そして右にはサシャ、左にはユリアナが座っている。
つまりイースラは左右を女の子に挟まれる形になっていた。
普通は馬車に一緒に乗らないどころか、四人いて一対三で分かれるのもあまり聞かない話だ。
「何かあった時におそばにいてくれた方が守りやすいですよね?」
「まあ、それはそうだけどさ……仮にそうだとすると配置は逆じゃないかな……?」
守るという意味で固めたいのならユリアナを真ん中に置いて、周りをイースラたちで囲めばいい。
しかしなぜか今はイースラが囲まれている。
「嫌……ですか?」
ユリアナがウルウルとした目でイースラを見つめる。
「嫌じゃないけどさ……」
当然ながらサシャとユリアナが隣にいるというのは、嬉しいぐらいのシチュエーションである。
ただ妙な居心地の悪さを感じるのもまた事実だった。
「……サシャ?」
「なに?」
「いや……うん、なんでもない」
サシャはサッとイースラの手を取って指を絡ませた。
頬を真っ赤に染めているサシャの横顔を見れば、相当勇気を出していることはイースラにも分かる。
ユリアナもその様子を見て、イースラの手をチラチラ見ているけれども、直接行動に起こすほどの勇気はないらしい。
サシャとは思い伝えあったが、ユリアナにはまだ何も伝えていない。
こうした差もあるのかもしれなかった。
「失礼します」
それでもそーっと手を伸ばしかけていたのだけど、馬車がノックされてユリアナは慌てて手を引っ込める。
馬車がゆっくりと止まる。
「な、なんでしょうか?」
少し声を上ずらせながらユリアナがノックに応える。
「次の町まで到着できませんので、この辺りで野宿することになったようです」
「あっ、そうなんですね」
「野営の準備、できましたらお呼びいたしますので、少々お待ちください」
「分かりました」
王族といえど、街を動かすことなんて想像できない。
間が数日空いてしまう都市間もあるので、そうなれば王族だって野営する。
「俺たちも手伝ってくるか」
「行っちゃうんですか?」
「そんな顔しないでくれよ……よそ者の俺たちが馬車の中で何もしないでいると周りがいい顔しないんだ」
何もしなくていいのなら何もしたくない。
しかし細かなところに処世の術が隠れている。
ユリアナと一緒に馬車に乗っている時点でイースラたちの印象はあまり良くない。
ビブローなんかは分かっているが、一般の騎士からしてみるとなんだアイツらという存在なのである。
野営の準備ぐらい手伝って好感度をちょっとぐらいは稼いでおいた方がいい。
騎士になんと思われようともイースラは構わないが、そのせいでユリアナの立場が悪くなるのはまずい。
「そうですか……」
ユリアナはいくらか不満そうだけど、イースラたちは馬車を降りる。
最初出会った時は薄く貼り付けたような笑みを浮かべていた印象もあったが、イースラの前では少し感情も出てくるようになった。
回帰前のユリアナの印象に近くなってきた。
「ビブローさん手伝いますよ」
「おや、イースラくん」
王族も野営、なんていうけれど一般人の野営とは格が違う。
流石に家を用意することはできないが、多少の家レベルに大きなテントが張られる。
兵士たちがせっせとテント張りの作業をしているところに声をかける。
「何か手伝えることはありませんか?」
「そうですね……ここは手が足りていますので、ミルデラの方を。枝を集めに行くので」
「分かりました」
こうした時に手伝うことに難色を示す人もいるが、ビブローもイースラの考えを理解してくれている。
実力でも示せればいいのだけど、実力を示す機会なんてそれそこ襲われた時になってしまう。
こうしてコツコツと信頼を積み重ねることの大切さを知っているので、手伝えることがあれば仕事を割り振ってくれるのである。
「ミルデラさん」
「イースラ卿」
「卿なんて呼ばないでくださいよ」
ミルデラはユリアナの専属護衛騎士である。
これまで専属での護衛がおらず、男性ばかりが交代でついていた。
ビブローがユリアナの護衛につくようになって、女性に対する配慮も必要だろうと女性の騎士をユリアナのためにつけることにした。
ミルデラはイースラも回帰前に会ったことがある。
最後までユリアナについていた忠誠心のある優秀な騎士だった。




