お姫様を守って1
「こちらがお品物になります」
教会からウルムルスが訪ねてきた。
「死の気配がする宝玉……上手く使えば大きな力になるでしょうが、扱い間違えると災禍ともなりうるものです」
ウルムルスは手に持っていた箱をイースラの前に置く。
人の頭ほどの大きさが溢れ白い箱はしっかりと封がしてあり、少し物々しい雰囲気の見た目をしている。
ウルムルスが来たのは、もちろん依頼のためである。
大神殿ダンジョンのボスがドロップした宝玉はただの玉ではない。
強い魔力が込められた魔法のアイテムであり、上手く使えば魔法などの力を増幅させてくれる効果を持つ。
しかし今回入手できたものは力が強すぎた。
特にボスの性質のためなのか、普通の人が持つと害されてしまうほどに死の力が強いのだった。
だから加工が必要なのである。
害をなす要素を排除し、上手く力を補助してくれるようにするのだ。
「教皇様のご依頼ですので疑いたくはないですが……本当に加工できる人を見つけられるのですか?」
こうしたものは武器や防具を作る職人か、モンスターの素材を加工することを得意とする加工職人に任せるしかない。
力の強い宝玉を加工できる人はかなり限られる。
教会にはそうしたツテがなく、強い死の力を封じるしかなかった。
そこでイースラが自分なら職人を見つけられるとエリンデアに大口を叩いたのである。
「自信はあります」
イースラはウルムルスの心配そうな目を見てニコリと笑う。
当てというか、職人の心当たりはある。
「……そうですか。それではこちら、お任せします」
「ええ、任せてください」
イースラは白い箱を受け取る。
「神のご加護があらんことを」
「神のご加護、あったらいいですね」
たとえ不安だろうと教皇の名前で依頼を出しているので、一介の聖職者に止める権限はない。
イースラがやるというのなら、もはや口を挟むことではなく、ウルムルスは白い箱を置いて帰っていった。
「これで正式に依頼を受諾したことになったな」
イースラは目の前の箱を軽くポンポンと叩く。
依頼の品を渡されたということは、もう引き返せないところまで来たということでもある。
仮にダメでも宝玉をちゃんと返せばそんなに怒られるものではないだろうが、ギルドの名前もかかっているしそう簡単には失敗しましたと言えない。
「……あいつ元気にしてっかなぁ」
イースラは職人の心当たりの顔を頭の中で思い起こす。
「フッ……怒ってばかりだな」
ただ思い出される顔はいつも怒っているものだった。
そんなに怒っていたかなと考えてみるが、確かに怒ってばかりだった。
だが職人としての腕は確かで、思い出すほどに金床に向かっている姿も思い出してきた。
「あそこにいるはず……」
当然のことながら場所の見当もついている。
「ゲウィルさんに許可もらわなきゃな」
ちょっとそこまで、という距離にいるわけじゃない。
少しばかり遠出になってしまうので、ゲウィルの許可が必要となる。
「よいしょ」
イースラは箱を抱えて部屋を出る。
「そろそろ師匠たちから連絡もあるかな……?」
フロワを救うためにイースラの師匠であるウライノスは、薬の素材を探しにいってくれている。
細かい連絡を寄越す人ではないので、状況はあまり分かっていない。
ただウライノスはこれまで冒険者として困難な依頼を多くこなしてきた熟練の冒険者である。
連絡がないからと心配はしていない。
時々リフェンのところに薬の材料となるものが送られてきたりするそうで、どこかで元気そうにしているようだ。
「何か連絡ぐらいあってもいいと思うんだけどな……」
恋人に送るように連絡を寄越せとは思わない。
ただ軽く状況を伝えるぐらいはあってもいいだろうとため息を漏らす。
ウライノスの方がどんな状況なのか分かれば、イースラだって計画を立てやすい。
「まあ、分からないものはしょうがないよな」
ウライノスが連絡してくれることは期待していない。
ならギリウラの方は、とも思うのだけど、正直仲良しじゃないからこちらにも期待はできない。
状況が分からない以上は計画に組み込むことはできないので、気長に結果を待つしかなかった。
「だんちょー、ちょっとご相談……ぶへっ!」
「まぁたお前に指名だよ!」
ゲウィルの執務室に入った途端、イースラは顔面に書類を叩きつけられた。
思わず箱を落としそうになったが、ギリギリ耐えた。
「何ですか……?」
ぴらりと紙が落ちる。
特に痛くもなかったけど、突然のことだったので変な声が出てしまった。
「ウチと……お前に依頼だ」
「依頼ですか? 今も受けてるのあるんですけど?」
基本的に複数の依頼を同時に受けて行うことはない。
あれもこれもと欲張って手を出せば大体失敗してしまうものである。
今は教会からの依頼を受けたところだ。
事前に受けると言っていたし、ゲウィルはそれを了解してくれていたはずだった。
「今度は国からだ。……たく、お前は俺の胃に穴を空けるつもりか? これだから気楽な傭兵がよかったんだ」
険しい顔をしたゲウィルは落ちた紙を拾ってイースラに突きつける。




